02 プロローグ2
あれからどれくらい泣いたのだろう。時間の感覚がわからず、数分なのか、数時間なのか、はたまた1日中なのか、とにかく俺は泣いた。
泣いたところで全然すっきりとはいかなかったが、この場に留まり続けても事態は変わらないと思い、俺は重い腰を上げた。辺りをもう一度見回してみると、さっきまで見えた人の何人かがいない代わりに、新しく来たと思われる人がいた。
……きっと彼らも次第に吸収されていくのだろう。
いつもの俺だったら、助けようと思ったのかもしれない。しかし、今の俺には彼らを助けようとは思えなかった。
どうすればいいのか、何処に向かえばいいのか…………
そんな単純なことがわからなかったのだ。助けても何から助かったのかがわからない。もしかしたら吸収されることが正解で、俺は永遠にこの世界を彷徨うだけなのかもしれない。そんな恐怖がこみ上げてくる。
だが、まだ歩き出したばかりだ、もしかしたら何とかなるかもしれない、と俺は希望を無理やりにでも生み出してこの世界を歩みだした。
◆◇◆◇◆
あれから数日くらいたったのだろか、時間感覚は相変わらずわからないが俺はまだこの白一色の世界にいる。俺は未だにこの世界から脱出の“だ”の字もわかっていない。これがゲームだったらどっかにヒントや道具があるのだが、ここにあるものは生き物と呼んでいいのか判別がつかなくなったものたちだけだ。その中には人意外にも動物も結構いたりするのはここ最近の発見だ。シロナガスクジラがいたのは圧巻だった。一部動物園のような空間もあった。そして俺の最近の変化といえば――
「ミー」
――俺の足元をテクテクとついてくる、この子猫が旅に加わったことだ。
この子猫と出会ったのは、たぶん歩き始めて1日か2日経ったときのことだ、2匹の猫がいたのだ。1匹は大きく多分親だろう猫で、もう1匹がこの子猫であった。
ただ、子猫のほうはどうやら普通に動けるらしく親猫の乳を吸っていた。
基本動けないはずであろうこの世界で動いているこの子猫に、俺は興味を持ってしばらく観察していた。
しばらく観察した後、俺はなんとなくこの子猫の状態が想像できた。
この子猫はおそらく、生まれたばかりなのだろう。子猫の見た目は、ほぼ生まれたままの姿で立つ事もできず、親に寄りかかっていたのだ。おそらく何らかの原因で、ほとんど生まれる直前か生まれた直後に親猫共々死んでしまったのだろう。
その後この世界にそのまま流れてきたのだろう。その際、子猫の生きようとする本能が抗ったのか、それとも別の要因で動けたかはわからないが、そんな感じだったのだろう。
しばらく子猫の様子を観察していたが、とうとう親猫が同化し始めた。子猫はおそらく状況が理解できてないのだろう。だが親猫は状況を理解したのかもしれない。体も動かず、声も出ない中必死に何かしようとしていた。だが、それもしばらくすると諦めたのかそのまま時間が経ち、やがて親猫は白い床と完全に同化してしまった。
残された子猫の方は、白い世界にポツンとただ何もできるわけでもなく佇んでいた。
このとき、俺はとくに何か考えたわけではない。ただ何となく子猫に触ってみてしまった。すると…………
「っ!?」
一瞬まばゆい光に子猫が包まれた。そして、光が収まりそこにいたのは――
「ミー」
――7ヶ月程度に成長した子猫がそこにはいた。
………………はっ!? い、いいったい何が起きた!?
混乱した俺は、さっきまで生まれたての子猫だった猫を見たが本人(本猫?)は特に気に掛けることもなく俺の足元にすり寄ってきた。
なんで俺に懐くんだ? とか、なんで成長したんだ? とか、色々聞きたいことがあったが猫は喋れない。とにかく今の出来事は忘れるようにし、また俺は歩き出し、子猫は勝手テクテクと俺についてくるようになったのだった。
◆◇◆◇◆
あれからどれくらい時間が経ったのか、もう数えるのも面倒なくらいこの世界で過ごした。
これだけ長くいるとある程度この世界についても分かることがある。
まず、この世界では動けるもの限定だが、基本的に食事、睡眠、排せつ、休憩すらいらない。あれだけ歩いたのに疲労が来ないし、生物に必要な欲求もわかない。これは死んでこの世界に辿り着いたせいかもしれないが。
そして、次に分かったのは、この世界が階層的な世界であることである。猫と一緒に旅をするようになって数日したころ、唐突に階段が見つかったのだ。上が見えないくらい長い階段であったが数日ほど階段を上がっていくと、そこには見た目がほとんど同じな白一色の世界が広がっていた。ただ異なるのは、そこには俺が見たこともない生き物や人? のようなものがたまに混じっていたのだ。しばらく歩いて思ったが、ここはもしかしたら、別の世界なのではないかと感じた。いや、だってドラゴンっぽい生き物がいたのだ。そのほかにも獣のような人間や、明らかに3メートルを超す巨人などがいたら誰だって疑問に思うだろう。だから俺はこの階層を、別の世界の生き物のための世界だと思ったのだ。
そして、その考えはどうやら間違いではなかったらしい。上の階層に上がっていくたびに、別の系統の生き物たちがいたのだ。
そして、俺は今、明らかに今までと違う世界にいる。そこは上を見上げれば久々の青空が広がり、辺りに目を向ければ地平線が360度見渡せる塔のようなものの最上階にいるのであった。
「ニャー?」
「キュッ?」
声がした足元を見るとそこには以前の猫と、途中の階層で出会ったドラゴン? の子供のような生き物がいた。
猫はあれから少し成長し、今では1歳以上のような見た目になっていた。性格は相変わらず甘えん坊だが。
ドラゴンっぽい方は、ある階層を歩いていたら、いつの間にか俺の頭の上に止まってきたのだ。その瞬間、以前と同様光ってしまったが今回のは特に変化がなかった。その後は、猫と同様俺に何故か懐き旅に加わった。
なんて経緯があり今一緒にいる。ただ、猫とドラゴンっぽいの、と俺が呼ぶと2匹とも拗ねるような態度を取り始めたため今では名前で呼んでいる。
「なんだ? クロ、ハク」
ついでにクロというのは猫の方で、体毛が黒色だったからだ。同様にハクは体全体が白色のドラゴンであったので、そう名付けた。
そんなクロとハクは俺の裾を引っ張りながらある一点を見つめた。はいはい、と思いながら俺はそんな2匹の視線の先を追った。すると、そこには――
――簀巻きにされた、サラリーマンのようなスーツを着た男が微妙に空中に浮きながらこっちを見ていた。
なんでやねんっ!!