01 プロローグ1
処女作です。
いろいろ至らない点があるかと思いますが、ご容赦ください。
ドンッ!
いきなり衝撃が俺を襲った。
ゴッ!
次の瞬間、俺は何かにぶつかった。
一瞬なにが起こったのか理解できなかった俺は、ぼんやりする頭の中で必死に周囲の状況を整理しようと試みた。
……たしか夜中、コンビニへ家族にたのまれて飲み物を買いに来たんだった。その後コンビニに着いて、入口へ向かう途中に確か、運転手がアクセルかブレーキかを踏み間違えて、車止めを乗り越えてこちらに迫ってきたんだ。それで、勢いよく飛ばされて、運悪く壁の支柱と車に挟まれて、頭を思いっきり打って……
……あっ……やば……い……意識……が…………
その出来事を思い出した瞬間、待ってたとばかりに男の意識は闇の中へ落ちていくのであった。
2×××年7月28日12:00のことだった。ひとりの男がこの世から旅立った。
◆◇◆◇◆
――ほぼ同時刻――
ある研究室の中、数人の大人達が研究の最終段階である試験運用の準備を行っていた。
「おい、調整は終わったか」
一人だけ、他の研究者とは貫禄が違う男が、部下と思われる者に対して声を掛けた。
「はい。全てのパラメータが正常値を示しています」
それに、対して部下の者は、周囲を確認しながらはっきり答えた。
「そうか、では起動しよう「えっ!?」……か、どうした?」
その返答を聞き、男が起動をしようと先ほどの部下に声を掛けようとしたとき、別の部下の驚く声が男の声を遮った。若干イラッとしたもののすぐさま確認しようと、男は声を上げた部下に対し何が起こったのかを問いただした。
「いえ、今一瞬大きな反応が――」
すると、部下は何が起こったのかを簡潔に説明した。
「ノイズじゃないのか?」
その答えに今度は別の部下が疑問を呈した。
「それにしては大きかったような……」
しかし、声をあげた部下は、それを否定するように呟く。
「今の状況は?」
とりあえず男は現状を確認するために部下に確認をとった。
「すべて正常値に戻っています」
それを聞き男は更に確認を進めた。
「基幹システムへの影響は?」
細かい確認を終えて、最後に男は、全ての根幹を担っているとも言っていいシステムの確認をとるため部下に声を掛けた。ここが何らかの異常を示していた場合、最悪今までの苦労が水泡に帰すとあって、声にも若干緊張が窺える。
「問題ありません」
しかし、部下の返答はあっけなく、何も問題が無いことに男は安堵した。
「……ふむ、よしっ! 試験運用は予定通り実行だ! お前らは引き続き作業とモニターの監視を、手の空いているものは、原因の調査だ!」
「はいっ!」
それならばと、男は今すべきことを部下にテキパキと指示をだし行動に移していくのであった。
――数日後――
システム自体には特に重大な欠陥は無かったが、いくつかのコードが試験運用前に使用されていることが確認された。
◆◇◆◇◆
「……んっ……こ……こは……どこだ?」
うすぼんやりとした、意識が徐々に浮き上がってくるような感覚と共に俺は次第に目が覚めていった。
「……たしか、俺は頭を打って……っ!」
そこまで思い出した俺は、車にはねられたことを思い出し、一瞬体が竦んだ。
「…………あれ?」
しかし、いくら待てども、やってくるはずの痛みが襲ってこない。不思議に思いつつも周囲を確認しようと身体を動かそうとした――
「っ!?身体が動かない!?」
――が、しかし身体は動かなかった。俺はパニックに陥りそうになったが、そういえば車に弾き飛ばされたんだということを思い出し次第にこの現状を理解した。できれば一時的な症状であればいいなと考えながら。
しかし、冷静になって最初に浮かんできたのは、ここがどこだということだ。仰向けで寝ているのだが身体が固定されており、限られた視野しかなく周囲の状況が確認できない。病院にいるのか、それとも知らない場所か、寝ている体勢でありながら、布団の上で寝ているのか、地べたに転がっているのかさえわからない。
どうやら、先ほど痛みを感じなかったのは、傷が癒えたとかではなく、単に感覚が無いからであったのだ。そう思うとこの先暗いことしか思い浮かばず、なげやりになりながらもボーっとし始めた。
視界に広がるのは真っ白い天井、そしてただ白一色。
…………どれくらいボーっとしていたのだろうか。俺は次第にこの白一色の世界と自分との境界線があやふやになっていくように感じた。そう感じた次の瞬間
ゾワッ!!
感覚を感じないはずの俺が急に寒気に襲われ始めた。更にこのままじゃマズイと本能が警鐘を鳴らすかのように心臓の鼓動がドッドッドと音を立て始め、俺は事態が悪化していることを感じた。
“何がどうなって、ここは一体どこなんだよっ!!”
そう叫ぼうとしたが、遂には声すら出せなくなってしまった。更にそうしていると、感覚が無いはずの体だが今度は存在までもが消えていく気配がした。
“やばいやばいやばいやばいっ!”
必死に身体を動かそうとするが、俺の身体はビクともしない。そうこうしているうちにも、徐々に俺の身体が消えていく気配がする。
このままじゃ死ぬ!
そう思ったとき、ほんの少しだけ指先がピクッと動いた。ここを逃したら本当に消えてしまうと思った俺は指先が動いたときの感覚を思い返しながら徐々に指先から指全体、指全体から手のひら、と段階的に身体を動かしていった。
すると、さっきまで動かなかった身体が嘘のように動き始め、消えかけていた気配までもが戻り、感覚までもが蘇ってきた。
しばらくして、ようやく身体を動かせるようになった俺は、辺りを見回して絶句した。
そこは、無限に広がるような白一色の世界であった。さっきまで白い天井だと思っていたのは、比較するべき対象がなく、なんとなくそう見えたのだろう。
さらに目を凝らして辺りを見渡すと、そこにはところどころ、さっきまでの俺と同様な状態の人たちがいた。中にはもうほとんど白い床と同化している人や、まだ来たばかりなのだろう、叫んでいる人、笑っている人、泣いている人、必死で動こうと鼻息荒くしている人たちなどがいた。
ここまで来ると逆に冷静になれた。そして今自分がどんな状況にいるかなんとなく想像できた。
……きっと、俺は死んだのだろう。ここは死後の世界なのだと理解できた。こんな場所が現実にあったら大問題だ。逆に今更、ここは病院ですよ、なんて言われたらその人を半殺しにする自信がある。
「うっ、うううう…………」
自分が死んだことを頭では理解したが、感情はそうではなかった。今までのことを思い出し俺はその場に泣き崩れてしまった。