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第五話 迫り来る恐怖(7)

      5 死闘


 波の雫を全身に浴びて、逃げる男がいた。

 運転手と他2名の子分を引き連れた、厳鬼げんきだ。奴らは大海原をモーターボートで一心に駆け抜けていた。勿論、目指す場所は決まっている。厳鬼はミサイル計画がたぶん失敗したであろうと予感する中で、一旦その場へ逃げ帰るしかなかったのだ。

 エンジン音も姦しく、ボートを全速力で走らせた。

 するとその時、後方から何者かが近づいてくる気配を感じ取る。奴らが乗る船のスクリューでできた波の果てに、バイクを乗りこなし猛スピードで接近する影が見えたからだ。

 やはり来たか。そう容易く逃がしてはくれなさそうだ、と厳鬼は危ぶむ。それなら、その追手は誰か? と窺うと……言うまでもなく、あずまだった! 彼が凄絶な勢いで近づいてきていた。

 となれば、さながら4名の男たちも色めき立つ。彼を迎え撃つため、銃を構えて狙いを絞った。近づこうものなら、ハチの巣にしてやるぞ! との意気込みを持って。

 一方、東は、何も知らないとはいえ、全く警戒心も見せず一気呵成に近寄ってくるよう。

 そして、数十メートルまで縮まったところで――発砲音を響かせた!――容赦ない銃撃の始まりだ。

 だが、その攻撃に関しては、やはり東も計算ずくか? ボートのスクリュー波に乗り上げたなら、その反動を利用して華麗なジャンプを一番! バイク共々宙に舞い上がり弾丸をかわすという、高度なテクニックを見事に披露していた。

 それには、なかなかの腕前だ、と奴らも舌を巻く。とはいえ、そんな芸当でどこまで持ち堪えられるというのか、厳鬼たちの攻めは留まることを知らないのに。

 さらに何発もの銃声を鳴らし、激しく雑多に発砲していた。

 流石にそうなると、バイクの動きも鈍るに違いない……と思えど、それもまた予想に反していたみたいだ。東の運転技術が物を言って、バイクは大海原を縦横無尽に駆け抜けていた。右に出たかと思えば波に隠れて、左に跳んだかと見れば姿なし。神出鬼没の動きで翻弄するかのように進んでくるのだ。そのうえ高速で走るボートでは、揺れるに任せて体の芯が定まらない。これでは、どう考えても命中させるのは至難の業だ! 結局、東の方も最初からそれを見越していたのだろう。左右へ大きく蛇行して接近を続けていたのは、そのせいだ。

 くっ、こしゃくなことを! 厳鬼は憤慨した。そこで考えを改め、今度は確実に命中させられる距離まで待ってから狙い撃ちしてやる、と銃を構え直した。これで、東にとっては一段と危険な状況を迎えた訳だ。……それでも、彼は悠々と差を縮めてくる。まるで何の恐れも感じていないかのように。

 斯くして、当然ながらその時は来たり! バイクがほんの数メートルの所まで寄ってきたのだ。しかも、真正面に彼の姿を捉える。

 さあて、愈々東の命も、消え去る運命なのかー、この距離なら絶対に外しはしない。厳鬼は、そう思いつつ、このチャンスを逃すまいと慎重に狙いをつけ……そして、立ち所にトリガーを引いた!

――1発の銃声が響く!――遂に強烈な弾丸が、東に向かって発射されたのだ。

 ところが、次の瞬間……はて? バイクが、忽然と姿を消した?

「うっ! な、何だと?」これには、厳鬼も戸惑う。今まで照準の先に存在していたはずなのに、影も形もなくなっていたのだから。

 どこだ、どこへ行った? 奴は懸命に周囲を探した。

……と、その時!――上空で、けたたましいエンジン音が鳴り響いた!?――

 うっ、上だ! 厳鬼の真上で、バイクの車体が奴の視界を遮った。頭上からバイクが降ってきたのだァー!

――金属の激突音と機器の破壊音がした! 同時に「うわー」と言う声と海へ転落する音も聞こえてくる――水上バイクが船内に突っ込んできて、その結果、哀れ運転手はその下敷きとなり、しかもその拍子に1人の子分も海へ落ちていた!

 何ということ……。東の人並外れた運転技術にしてやられた訳か。全く、惨憺たる結末だ!

 これでとうとう船内には、2人の悪党だけになってしまった。


 その場には、不意をつかれ、肝を冷やされた感の厳鬼たちがいた。避けるのに精一杯で、攻める体勢を逃したみたいだ。 

 片や東は、沈着冷静な対応で奴らの状況を見極め、すぐにバイクから飛び降り戦いに臨んでいた。

 先ずは、性懲りもなく銃を向けてきた、残りの子分に対して、続けざまの打撃で対抗する。飛び道具を蹴り上げ強力な鉄拳を食らわせた。一気の攻めで瞬時に子分を排除する。

 そうして後は、最後の仕上げとなる、厳鬼の逮捕……と思ったものの、うしろを振り向くや否やパンチが顎に飛んできた! 「むっ!」やはり油断は禁物か、奴の拳をまともに受けてしまったようだ。これには、思わずよろけて船縁に伏せるしかなかった。

 するとそこへ、なおも奴の攻撃が執拗に続いた。彼の襟首を掴み海に落とそうとしてきたのだ。東の顔が荒波を被るほど、船から突き出される!……落ちるか?

「うくっ!?……」いいや、まだだ。東は耐える! これぐらいで降参などできるものかと抵抗した。

 ところがここで、予期せぬ事態、船が急旋回をし始めたのだ!――即ち、この場は運転手がいない暴走船。舵もバイクの衝突で破壊されコントロール不可能。船の動きに身を任せるしかなかった――それ故、その抗えない慣性力で2人は振り飛ばされた……のだが、幸運なことに、今度は厳鬼と東の立場が逆転して彼が押さえ込む番になっていた! これで形勢逆転だ、代わって苦しみだしたのは奴の方か。

 忽ち厳鬼は、焦りの色を見せた。そのため、窮余の策で懐に収めていた銃を取り出してきたことは言うまでもない。とはいえ、その反撃は東も警戒していた。即座に銃を持つ手を抱えて捻りあげ、難なく海の底へと落下させる。よって後は、お互い力任せの腕力で戦うのみよ。2人の屈強な男たちの激闘がより激しさを増した。足場が定まらず上下左右に揺れる船上で、奴の拳を受け止め応戦する東に対し、彼の蹴りをかわすと同時にパンチで逆襲してくる厳鬼、一進一退の攻防が展開された。

 まさに誰もいない広大な大海原で、一騎打ちとなったのだ。




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