第五話 迫り来る恐怖(4)
そして遂に――彼らの戦いが、始まった!――
数台の船舶で取り囲み、9機のヘリが上空から近づく、という戦法で精鋭チームの警官たちが、中島への上陸を開始したのだ。
しかし厳鬼たちも、ただ見ているだけで済ますはずもなく、銃とロケットランチャー、ありとあらゆる武器で応戦したため、気がつけば島じゅうで激しい戦闘が繰り広げられていた。弾丸が飛び交い、船舶やヘリに向かってランチャーの砲弾までも炸裂した。
そんな中、辛うじて戦渦を掻い潜って進攻する上陸部隊の姿もあった。とはいえ、彼らでさえ必死で前進を試みたものの、激しい抵抗に遭い、思ったほど容易に進めなかった。結局、道のりを踏破するのに相当な時間を要したせいで、漸く目標地に着いた時には、発射までたった10分しか残っていなかった。
「さあ、あと10分ほどね」と厳鬼が、ニヤけ顔で言った。奴は廃屋のコントロールルーム内にある、発射装置のデジタルカウンターの数字を見ながら、運命の瞬間を一日千秋の思いで待っていたのだ。
が、その時、連続発砲音が突如聞こえてきた! それには、厳鬼も咄嗟に身構える。ただその音量は小さく、ここからは少し遠いような気がした。そこで、すぐさま窓の隙間から情勢を窺ってみると、発射台の据え置かれた建物へ向かう警官たちに対して、それを阻もうとする、子分たちの交戦シーンが展開されていた。
睨んだ通り、もうそこまで追っ手が迫っていたのだ。それなら、戦況は奴らにとって不利に思えた……が、厳鬼に焦りはなかった。逃げもせずじっと静観しているだけだった。
次に奴は、意味あり気なことを呟く。
「うーん、ちょうどそのあたりだね」と。
その直後――爆発音が轟いた!――警官の一人が、発射台まで残り十数メートルという地点へ足を踏み入れた瞬間、爆発したのだ! 警官は噴き飛び、地面から大量の砂塵が舞い上がった。同時に大穴も開けて……
やはり、厳鬼たちはそれなりの用意をしていた訳だ。――要は、発射台の回りに地雷を埋め込んでいた――
となれば、逆に警官たちにとっては、最悪の事態を迎えたことになる。これ以上踏み入れられず、時間だけが刻々と過ぎてゆくのだから。当然、彼らは苛立つ様相を見せた。
「隊長、どうします? これでは迂闊に近寄れません」と部下の1人が草木の間から叫んだ。
「うっくくっ、地雷か! それなら、ここからバズーカで壁を破壊するしかないな」と言うなり、隊長は小岩の影からバズーカを構えた。こうなっては強行突破も止む無しということか。さらにもう1基、狙いをつけさせ……そして、続け様に撃った!
――2発の発射音が鳴り響く――けたたましい白煙を噴出し、高さ15メートルのコンクリート壁に直撃した! 激しい爆発音が耳を劈き、凄まじい衝撃を伴って破裂する! 辺り一面、煙と粉塵で霞んだ……
ところが、建物の方はコンクリート壁を多少削られただけで、びくともしていなかった。まさに、無駄骨を折ったことになる!
途端に、それを見た厳鬼は、
「ふっ、馬鹿め、外壁は厚さ1メートル以上のコンクリートだ。メガトン級のロケットでしか破壊はできないわ」と彼らを嘲笑う。
片や警官の方は、悔しそうに声を漏らした。
「駄目か! 残り時間は……5分だ」と。
そこには、どうにか破壊できないかと懸命に模索する警官たちがいた。ただし、何故かミサイルの方だけを攻撃し、発射装置には目もくれないでいた。弾道弾を阻止するのに、発射装置を抑えてもいいはず。それなのに機器がある厳鬼のいる所には、今の時点でも攻め入る気配がない。この場所を把握していないのか? それとも何か作戦でもあるのか?……。ただそうは言っても、既に周りは多くの警官たちで取り囲まれているため、早々に厳鬼たちの居場所も突き止められるだろう。
それでも、厳鬼の方は強気のままだ。余裕の笑みを浮かべ、己が捕まることなど有り得ない、と考えていた。それに対して、側にいる6人の子分たちは、全く違う態度を示していた。コンクリートの柱が散在する50畳ほどの部屋をうろつき、周りを必死で警戒している。そのうえ外にも注意を払って、常に敵の侵入を恐れているかのようだ。
……するとその時、不意に小さな落下音がした! 小石が落ちてきたのか、微かに床をタップするノイズが聞こえてきたのだ。そしてその怪しい音に、子分の1人が気づいた様子。男は、部屋の隅の2階に続く昇り階段からだと推測したみたいで、そちらを注目し始める。――その階段というのは、装置の真正面にあたる、部屋の中でも一番遠い所に位置していた――これには、子分も迷ったに違いない。ただし、警戒心より好奇心が先に立ったのだろう。自然と音に導かれているかの態でゆっくりと近づいていく。
それから、徐に階段を見上げた……次の瞬間!
突然、鈍い打撃音が鳴った! 子分は首を殴られ倒れ込んでしまった。さらにその後――何発もの銃声が響く!?――厳鬼たちに向かって撃ち込む者さえ現れたのだ!
うぬぬっー? いったい何者の襲撃だ!
その顔を確かめると……えっ、信二? よもや信二が、島から脱出せずまだ残っていたというのか! そのうえ、彼の後方から、数名の警官たちまでも飛び出してきた。やはりいつの間にか忍び込んでいたようだ!