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第五話 迫り来る恐怖(2)

      2 最終兵器


 暗闇の中に浮かぶ深夜の海岸は、当然ながら誰も気配もなかった。その場は、ごつごつとした岩だらけの磯が広がり、聞こえてくるのは微かな波の音だけで、ちょうど満潮を迎えた海も、ほぼなぎの状態だった。

 ところがそんな中、突として異変が起った! 遠くの海面から無数の気泡が発生し始めたのだ。しかも、かなりの速さで岸に近寄ってきている。

 これはいったいどういうことか? 泡の発生した軌跡を辿ってみると、遠方の沖にも不審な船影があった。何故かライトも点けずに漂っている。

 するとその後、いつの間にかその一団の泡は、磯の際まで進みきて岩陰の海面で止まったよう。そして、突然……海から手が飛び出してきた! 後は、次々と岸に掴まろうとする腕が現れる。――つまり、ダイビング姿の男たちが陸地へと這い上がってきたのだ――それも、明らかに屈強な5名の兵士たちだった。

 続いて彼らは、磯に上がるとすぐさま小型電灯で海側に合図を送った。その信号で船の方はゆっくりと進み出す。用が済んだという訳だ。それから乗ってきた水中スクーターを磯際の窪みに隠して、漸く5人は中島への上陸を完了した。現れた男たちとは……信二たち精鋭チームだ! 詳細な捜査をするため、極秘に潜入したのであった。

「西村隊長、ここが南側の海岸です。これを真北に進めば、例の建物にあたります」と先ずは、植山の一報が入った。

 それを受けてから、信二が地図を広げ、懐中電灯を照らしながら全員で目標を確認した。ただここは、灯台の光を受け、所々ハレーションのごとく輝いては消える、岩場だけが見えている深夜の磯。周辺の様子は分かり辛かった。それでも、前回の調査と航空写真から、既に目指す場所を十分把握していたので彼らに迷いはなかった。

 廃墟の中に異常な高さの建物がある。彼らはそこに向かおうとしていたのだ。

「よし、警備兵がいるはずだ。注意して迅速に行動しろ」信二がそう言うや否や、すぐさま男たちは藪の中へ進んで行った。


 信二たちはどうにか敵に見つかることなく、目的の場所まで辿り着いた。彼らの周りには、まだ森林が生い茂っていたが、その建物は開けた場所に存在していた。

 信二は雑草に身を隠し、スコープで様子を探る。

 思ったより、頑丈なコンクリート壁で囲まれた建造物だ。4階ほどの高さがあり、入り口も分厚い鉄板の扉で強化されていた。さらに見張りが1人、マシンガンを持って立っている。

 となれば、先ずはその見張りを排除しなければならない。そこで信二は、部下に裏へ回るよう手信号で伝えた。ただちに部下2名が建物を迂回して裏側へ進む。

 その後、彼は暫く待機してから、頃合いを見計らったところで見張りの正面に飛び出した!

 これには、当然男も驚いたに違いない。とはいえ、闇夜では相手が分かり辛いのだろう、マシンガンを構え慎重に近づいてくるなり、「誰だ?」と尋ねてきた。

 その途端、強音が鳴る。見張りは呆気なく倒れ込んだ。何故なら不意にうしろから殴られたせいだ。信二がおとりになり、部下が背後から忍び寄った結果だった。

――そうして難なく、信二たちは入り口を開けて中に入りこむことに成功した。


 建物の内部は、予想通り真っ暗な空間だ。小型電灯で素早く周りを調べ始める。

 入り口付近は少し開けた倉庫の有様で、そのまま奥に進むとそれに連れて段々狭まり、ちょうど部屋の中央辺りに……何かを見つけた! いやに長い、10メートルはゆうにある円筒形の物体だ。それが暗闇の中から、忽然と存在を誇示するように立っていた。加えてその物体の周囲を、回り階段が取り囲んでいる。

 信二は、その大きな円筒形にライトを当てつつ階段を数段登り、上を仰ぎ見た。物体の頭部が円錐に尖っていた。そしてその全貌を認知した途端、「こ、これは?……」息を呑んで絶句した!

――弾道ミサイル!?――

 何と! その場にあった物は最強の破壊兵器。全長12メートル、直径1メートルの弾道弾。厳鬼はそれを発射させようとしていたのだ!

 さらに、電灯の光が胴体に刻まれた番号を浮かび上がらせた。

「『SS-1E』?……これは、確か旧ソ連の弾道ミサイル、スカッド-Dじゃないか!」と信二は嘆いた。

 次に、その声を横で聞いていた植山も、落胆した顔で恐れをあらわにして言った。

「もしこれが町に命中でもしたら、地獄の大惨事になりますよ。通常弾でも、直径1000メートル以上の陸地が跡形もなく噴き飛びます……。そうなれば、辺り一面焼け野原、瓦礫が全土を覆い尽くすことでしょう。そして言うまでもなく、その場に居合わせた人々にとっては、最も悲惨な末路を迎えることになる。爆風と暴熱を浴びれば誰も死から逃れられません。一瞬で屍の山が築かれますよ」

 言い知れぬ緊迫感が周囲に漂う。彼らは、予想もしない兵器を目の当たりにしてしまった。それ故、このまま何もしないで捨て置くのか、それともこの機を捕えた今こそ破壊工作を実行すべきなのか、と対処に迷い始める。

 ところがその時、突如部屋の照明が点灯した!――全く、急な展開だ――

 これには、信二たちも慌てた。即刻物陰に隠れる。そして、何が起こっているのか知るために、彼らは緊張が走る中、じっと様子をうかがっていたら、今度は階段の上部に1人の男が悠々と現れた!

 何者の登場? その顔を懸命に確認したところ……口元の開いた仮面が見えた。

 まさか、目の前にいたのは、あの厳鬼げんき? やはり奴は、生きていたのか! と一時、驚嘆したものの……そんな暇は、もうなかったようだ。

「おい、こそ泥ども、隠れないで出て来い」と警告する奴の声が、すぐさま聞こえてきたからだ。――疾うに彼らの存在を、お見通しだった訳か――加えてその後、屋外でもいきなり続け様の発砲音が響いた! そのせいで、外を見張っていた警官2名が、開け放したドアから駆け込んできて建物内に身を潜める。どうやら厳鬼の子分たちにも、気づかれたみたいだ。しかも1名の警官が被弾したのか、胸を押さえて息苦しそうに膝をついている。

 信二は思った。クソッ、何てことだ! 部下が撃たれてしまうなんて……。それなら、彼はどれほどの傷を負ったのか? と。そこで次に、焦りながらも柱の陰から凝視すると、背中に弾の跡が見えた! だが、信二の心配を余所に、その部下は大丈夫だと言う合図を示した。

 それには一瞬、戸惑ったが、その理由はすぐにも知れた。部下は防弾チョッキをつけていたのだ! とどのつまり、彼らは皆、できる限り装備はおこたらず、常に危険を想定しガードを心がけていた。そのため命に別状はなかったという訳だ。

 ただし今尚、子分たちの発砲は止むことなく、何発もの銃声が乱れ飛んだ! 建物の入り口から弾丸が撃ち込まれ、数発の弾ける金属音が周りに響き渡っていた。これでは、信二たちも逃げるに逃げられない。いら立とうとも、その場に身を潜めるしかないようだ。

 さらにその直後、思わぬ出来事にも遭遇する!――銃弾の1発が唐突に逸れてミサイルの方へ流れたのだ――

 鈍い着弾音がした! 弾頭を掠めて壁にめり込む。

〈うっ!?……〉危うくミサイルに当たりそうになったぞ! その光景を見ては、信二たちも恐怖で寒気を感じた。対する……厳鬼も、それに気づいたか?

「止めろ! 撃つんじゃない。外にいる馬鹿者、ミサイルに当たったら島ごと噴き飛ぶぞ!」と焦り声を上げていた。

 流石にその声で、銃声はすぐに止む。

 が、安心するのはまだ早い。その後ただちに、「奴らを捕えろ!」と厳鬼の声が響いた。

 唐突に、建物内のどこからともなく男たちの群れが現れる。一気に信二たちを目掛けて襲いかかってきた! 奴らの強力なパンチと鋭い刃先が、容赦なく飛び交う。……としても、信二たちはそれらを辛くもくぐり、1人倒し2人投げ飛ばす。5人の警官たちは懸命の抵抗を試みた。とはいえ、多勢の攻めに終わりが見えない。これでは、拘束されるのも時間の問題か!

 そう思った途端、「B作戦!?」信二が叫んだ。この不利な状況を打破する戦法があったのだ。

 その指示を聞いたからには、警官たちも咄嗟に動く――各々が近辺にある室内灯にナイフを投げて破壊し、そうして周囲が薄暗くなったところで、球形の物体を地面に据えるという一連の動作だ――それを強行すれば……次の瞬間! 球体から眩い閃光が発せられ、光のシャワーで周りを覆い尽くしていた。要は、目くらましを放つという策だったのだ。

 これで、奴らの方は視界が閉ざされ棒立ちのままだ。一方、遮光グラスをつけた警官たちは、敵が一歩も動けないのをいいことに、建物から走り出る。そして一目散に、藪の中へと退散したという訳だ!

 何とか、まんまと出し抜くことに成功したよう。 

 後には、「追え、追うんだ!」と喚く厳鬼の声が聞こえてくるだけだった。


 信二たちは草木を掻き分け、元来た海岸へと急いだ!

 だが、厳鬼の追っ手も後方から迫ってきている。

 闇夜に忍び、荒地を踏み入る音だけが静かに聞こえていた。

 そうして、ようやく磯に到着する一団。ただし、何度波が打ち寄せたか分からないほど、時間が経過していた。

 その一団は、慌てて周りを捜索するも……

「いねえなぁー」結局、銃を手にしたリーダー格の男が、そう諦め気味に言うばかり。――その場にいたのは、信二たちを探す厳鬼の子分どもだった。警官たちは既に水中バイクに乗り込み、遥か遠くの海へ、影も形も見えない所まで退避した模様――

 そのため子分は、「すいやせん、こう暗いと無理ですわ。逃げられました」と無線で厳鬼に伝えるしかなかった。


 片や厳鬼の方は、「ううっ、役に立たないわねぇ、まあいいわ。どうせ、明日には大騒動よ、準備はできている」とまるで余裕の返答をしていた。それから奴は、子分全員へ向けて「よーし、野郎ども、迎えうつ用意をしろ! それとマスコミに連絡だ」と一喝号令をかけた。

 そこには、壮絶な戦いを予感させる、仮面の顔が闇夜に浮かんで見えていた!

  …………………………


 さわやかな朝の風が頬を撫でる。

 高級ホテルの、海辺に面した日差しが眩いテラスで、女が1人、テーブル席に腰掛けながらミルクティーを飲んでいた。フリルのついた白いワンピースに、花柄で広いツバのある帽子を身に着けた、いかにも保養で来た感じの女だ。足を組んで優雅に海を眺めている。ちょうど彼女の目の前には、プレジャーボートがひしめく広大なヨットハーバーと、その場を行き交う多くの船乗りたちの姿もあった。

 するとそこに、突然見知らぬ男が現れ、女の横に座った。待ち合わせをしていた訳でもないのだが、男は何も言わず、怪しげな封筒だけを渡して去って行った。そして女の方も、手慣れた仕草でその封筒から紙を取り出し、徐に確認したかと思えば、後は知らぬ素振りでゆっくりと歩き出した。観光でも楽しむように!……

 ここは港が近いせいもあり、外国人の多い歓楽街の中心地だった。どこの店も大勢の客が入り乱れ、誰彼だれかれなしの区別がつかない所でもある。中でも一際賑やかな店には、何百人もの人々が飲食を楽しんでいた。

……と、そんな中、先ほどの女が姿を現す。次いで柱の陰に忍んで一点を見詰め始めた。それも、相手を射貫くかのごとき視線で。女が捉えていたものとは?……

 中年の顔が見える。まさしく、金光だ! やはり奴も生きていたのだ。

 ならば、その金光の様子を委細に窺ったところ、何やらテーブル越しに異人の男たちと話し込んでいた。異国語を使い、さながら同郷人と会話している風で、あまりにも場に馴染んでいる。はて? こんな姿を初めて目にする。いったいこの男は何者なのだ? 

 そうするうちに、話を終えたみたいだ。相手と握手した後、金光は子分らとともに店を出て、波止場の方へ歩みを進めた。どうやら海に出るようだ。男たちを引き連れ、ボートに乗り込む奴の背中が、桟橋から見えていた。……そうした光景の一部始終を、双眼鏡のレンズ越しに、あの女が目にしていたという。

 彼女の握る拳に、力が入る。

 その場には、怒りで震える――桃夏ももかの姿があったのだ!



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