第六話 暴かれた真実(ラスト)
5 終焉
「ま、待て……待つんだー!」
突然、部屋中に大声が響き渡った。白い室内の、窓際に設置されたベッドの上で、漸く男が意識を取り戻したのだ。
「やっと、気がついたな」続いて、その無事を目前にしたことで安心したかのように――男の横で椅子に座って様子を窺っていた――警視の一言が、聞こえてきた。
ここは、警察病院の1室だった。そして、ちょうど目を覚ましのは――東であった! どうにか彼だけが助かったみたいだ。
「こ、この場所は?」とすぐに東は訊いた。体はほぼ満身創痍、気力だけで辛うじて目覚めたものの、自分がどこにいるのか全く見当もつかないでいた。
「大丈夫だ、病院のベッドの上だ。それにしても、よく助かったもんだ。3日間ずっと昏睡状態だったからな。あれだけの衝撃を受けて、もう駄目かと思ったが……君の生命力には脱帽だ。不死身としか言いようがない」と警視の答えが返る。
何と、既に4日が過ぎようとしていた?
「そうですか、そんなに時間が経って……」東は、警視の言葉を聞かされ、改めて壮絶な死闘を潜り抜けてきたのだと感じた。加えて、確かにそれを裏付けるよう、かなりのダメージを身体に受けていたという感覚もあった。だが同時に、自分のことより事態の成行きが気になったため、「どうなりましたか?」と即座に質問を投げかけた。
すると警視は、消沈した様子で返答をした。
「奴らは死んだよ。金光と冬雄、2人の死体が上がった。と言っても、ほとんどバラバラの肉片しか見つからんのだが」
やはり、あれだけの爆発の中、生き残るのは不可能だったのだろう。
どうやら長い戦いの末に、多くの犠牲者を伴ないながらも、悪人たちが自らの死をもって償ったかのようなエンディングになってしまった。それは虚しい結末であることは間違いない、常に後味の悪さが、彼らの心に蓄積していた。ただそれでも、東が知るべき事実は、まだ残っている。
「も、桃夏さんは健在でしょうか?」
「例の女性か?……捜索はしてるんだが、分からん。しかし、君でさえこの有り様だ。並の人間があの爆発で生きていられるとは考えにくいなあ」
「…………」その言葉に、東はじっと耐えた。警視の言う通り、あの状況下では生存は厳しい。己の五感が、ひしひしとそう伝えてくるのだ。彼は顔を曇らせるしかなかった。
ところがその時、彼の目にある物が飛び込んできた。それは枕元のテーブルの上にある、花瓶に生けられた1輪の花だ。彼はそれを見るなり、すかさず警視に尋ねた。
「この花は、警視が持って来られたのですか?」と。
そしたら、「いいや、わしではないが。おおかた看護婦じゃないのか? 来た時にはあったからな」という返事を得た。
途端に、東は微笑を浮かべた。明らかに、その意味を悟ったのだ。そして、明朗な表情へと変わり、まるで生を享受しているかのごとく咲いている――太陽の光を浴びて薄紅色に輝く――花をじっくりと見つめた。確か以前に、髪飾りとして目にしたこともあった、と思い返しながら。
そう、あの時と同じ……まさしく、桃の花だったのだ!
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NO.零 満を持してここに登場!
〔遡ること10年。某都市での出来事〕
爆音を轟かせ、1台のバイクが高速道路を走っている。
黒のレーダースーツを身に纏いフルフェイスヘルメットを被ったライダーが、大型バイクをいとも簡単に操作して縦横無尽に駆け抜けていた。見た目には小柄な容姿であったが、その所作に何故か迫力さえ感じ取れる。
性別は?……。分からない。だが、ヘルメットの後ろから束ねた髪の先が見える。
女性か? 加えてスーツの肩の所に、Mの文字がくっきりと型押しされている……
もしや、彼女があのレディM? そうだ、きっと、そうに違いない!
――混沌としたこの世に巻き起こる、新たな戦いの火種を察知して、遂に彼女が戻ってきたのだ!?――