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意外。

よく晴れた日曜日の午後1時。

待ち合わせ場所に時間30分前に俺はついた。

この場所は日曜のこの時間だと大体、人でごった返している。

綾咲(とその他)と映画というだけで昨日眠れず、

未だに緊張している俺は、早く来過ぎたと少し後悔していた。


三刀屋にメールする。


『着いた。今どこ?』


なんとなくこの場に綾咲が来て二人きりで後から来る二人を待つという状況を避けたいと思った。

ここに来るまでは二人きりで映画に行きたかったなんて贅沢な事を思っていたが、いざその時が来ると緊張してこの場で一人で待つのすら時間が長く感じる。

今日一日の最終目標として『綾咲と楽しく会話する』、というのは当初の目標より遥かに小さく縮んでしまったものだ。

つまらないこと言って綾咲に無視されたらどうしようとか、緊張して喋れずに今日一日無口キャラになったままそれを払拭できずに終わったらどうしようとか、そんなことを考えてしまっていた。


そろそろ俺のネガティブな妄想が拡大して、『綾咲と楽しく会話する』という目標の(楽しく)という部分が消えかけている時だった。


目の前の人々がまるで女王に道を開けるかのごとく避けて道ができる。

まっすぐと目の前に開いた道の真ん中に綾咲が立っていた。


「お待たせしました。あれ?仁木田さんと三刀屋君は?」


まだ25分前。

自然な形で綾咲は話しかけてきた。

なんというか登場もそうだけど、圧倒的な存在感を放つ綾咲の姿に俺は見蕩れていた。

何故か今の今まで綾咲が制服で来る姿ばかりイメージしていたが、そうか!今日は平日だ!

いつも制服を着こなしている綾咲の『私服姿』である。

なんかもう、物凄く可愛かった。


「まだみたいです。」


やべ、なんで俺、敬語?


「なんで敬語?」


突っ込まれた。


「あ、つい。」

「ふーん。そういえば八女君て、一年の時も同じクラスでしたよね?でも、こうして話すのは殆ど初めて?」

「うんそうだね」


確かに殆ど初めてだ。

でも俺はその(殆ど)の中に含まれる会話を一つ一つ憶えている。

綾咲にとってはそんなものゼロに等しいものだとしても……。


「変なものですね。一年も同じクラスだったのに話すのが今日初めてなんて」


綾咲が言うんだ…それ……。

綾咲なりの冗談を言ってるのかな?

明らかに男子に近寄るなオーラを出していたくせに。


「確かにそうだね……」

「仁木田さんとも殆ど話したことがないから少し不安です。」

「そっか、でも澄は良い奴だからきっとすぐに仲良くなれると思うよ」

「澄?八女君は仁木田さんのことを下の名前で呼んでいるんですか?」

「あぁ、あいつとは幼馴染なんだ。腐れ縁て感じかな、家も近いし」

「なるほど、そうだったんですね。お二人がとても仲が良いので気になっていなんです。そういうことだったんですね。」

「……」


なに!?気になっていた!?

俺(と澄)のことを気にしていた!?

そんなことぐらいでテンションが上がってしまう。


「私は……」


……?


「私は、仁木田さんだけでなく今日は八女君とも仲良くなれたらなって思ってますよ。」


!?!?!?

俺は別に綾咲に冷徹な態度はとられたことないが、これはある意味最高のツンデレというやつではないのか!?

気づいたらさっきから自然と会話しちゃってるし……。

俺が勝手にそう感じているだけかもだけど……。


俺が学校とは別人の、下手すれば外見だけ同じで中身だけ入れ替わったような綾咲に衝撃を受けていると、仁木田が到着した。

思っていたよりも早い。


「あれ?綾咲さん?」


到着するなりマズイことを言いやがる。

俺はここでようやく失敗に失敗を重ねてしまったことに気が付いた。

一つ目の失敗とは、この間仁木田に三刀屋が来ることを言ってなかったこと、もう一つの失敗は、今日綾咲が来ることを仁木田に言うのを今の今まで忘れていたこと。

綾咲と遊ぶということで浮かれて忘れてしまっていたようだ。


「どういうことですか?八女君。」


声のトーンから先ほどとは違ういつもの綾咲に戻っている気がした。


「な、何言ってんだよ!綾咲さんも来るって言ってたじゃん!忘れたのか?」


やばい、こんな初っ端から仁木田に拗ねられたら、この後の空気が悪くなること間違いなし。何故かわからんが追加で人呼ぶと怒るもんなこいつ。


「あれ?そうだっけ?まぁ、いいや」


あれ?今日は大人しいな……。


「ごめんね綾咲さん、こいつの連絡ミスで私、綾咲さんが来ること知らなかったからさ」


ばれてるし。


「ぜ、全然大丈夫ですよ。さ、さぁ!これで全員揃いましたね!行きましょう!」


いきなり仕切りだした綾咲さんだったがどこか様子がおかしい。

緊張しているようだった。

綾咲のそんな姿、想像もつかなかったから、ちょっと信じられない。

実際に今回の主催者であり、綾咲を誘った当人がいなかったことにされている。

俺は別にそれでも全く問題ないけれども。


そして、三人が歩き出したその時だった。


「ども……」


待ち合わせ時間ピッタリに三刀屋が来た。

いつものハイテンションで来てくれたらこちらとしても無視のし甲斐があるのに、こうガチガチに緊張してナーバスな状態で来られると、構ってあげないと自殺しちゃうんじゃないかと無駄な心配をしてしまう。


「よう…三刀屋……。綾咲さん、これで全員ですね」

「三刀屋君、来たんですか……」


さすが、綾咲。容赦ない。俺でさえ気を使って本来ならシカトをするところを反応してあげたというのに。


「く、来るよそりゃ!元はと言えば俺が皆を誘ったんだから!」

「すいません、てっきり、それであなたの仕事は終わったのかと思ってました。」

「俺をなんだと思ってるんですか!!」

「……便利屋さん。もしくはおせっかい屋さん。」

「おせっかい屋さんなんてものはない!!まったく……感謝の言葉もないのかよ…」

「嘘嘘、冗談です。感謝はしています。ホントにどうもありが……」

「お!?」

「あ、あり…ありが……」


綾咲はあと一息というところで首を傾げ、最終的にこう言って落ち着いた。


「有難迷惑です。」


これには三刀屋も死んだ目で直立するしかなかった。

でも、これによって三刀屋の緊張はとれたみたいだ。

綾咲がそれを狙ってしたのかどうかはわからないけど、結果的に助けられた。

でも、俺はほんの少しだけ三刀屋と綾咲のやり取りが仲良さげに見えて嫉妬してしまった。


映画館に行く間の道中で、俺は三刀屋に聞いてみた。


「なんで今回、映画にしたの?」

「え?特に理由はないけど……。まずかった?」

「まずいな、非常にまずい。澄ってさ……」

「っえ!?もしかして、映画嫌いとか?」


三刀屋が食い気味で質問してくる。


「どんな奴だよ。その逆だ、すごく好きなんだ」

「……?じゃあ、いいじゃんか」


まぁ、いいや。後でわかることだし。





待ち合わせ場所から映画館まではそんなに遠くなかった。

建物に入ると澄が開口一番こう言った。


「そういえば、今日は何の映画を観るの?」

「ま、まだ決めてない!仁木田さんは何が観たい?」


三刀屋が素早く答える。


「どれどれー?うーん、どれにしようかなー?てか、あたしが勝手に決めちゃっていいの?」


今上映されている映画のポスターにはサスペンスからコメディー、ラブストーリーまで様々なものが並んでいた。


「いい!全然いいよ!仁木田さんが観たい映画なら何でも!」

「そうなの?三刀屋君、全く他の人の意見聞いていないみたいだけど……」


澄がちらりと綾咲のほうを見る。

確かに、自分の意見を全く聞かれずに話が進めば綾咲は文句を言いそうなものだ。

それも、三刀屋なんぞに無視されれば尚更だろう。


「え!?あ、あたし?私はなんでもいいです。仁木田さんの観たいのであれば何でも。」


やっぱり今日の綾咲は変だ。

いや、もしかしたら今までの俺のイメージが間違っていたのかもしれない。

本当はそんなに冷たい子じゃないのかも……。


「そ、そう?じゃあ、これで!」


そういうと澄は目の前のポスターを指さした。

ポスターには主人公である男とヒロイン、そしてその後ろに大量のゾンビが写っていた。


「じゃあ、俺、人数分チケット買ってくるよ!」


三刀屋は足早に券売機へと向かっていった。


いや待て、俺の意見は?


「じゃあ、三刀屋が買いに行ってる間、ポップコーンとジュースでも買っとくか」

「あれ?恭太が買いに行ってくれるんじゃないの?」

「なんで俺がパシリなんだよ……俺は三刀屋じゃない!」

「三刀屋君は善意で行ってくれたんだよ?」

「あいつは券を買いに行くまでが今日の仕事だったんだよ。券を俺たちに渡したら帰るんだぞ?」

「そ、そうなの!?」

「おまたせー!」


三刀屋が戻ってくる。

俺は買ったばかりのジュースを三刀屋に渡す。


「はい、今日一日お疲れ。また今度も機会があったら宜しく頼むわ。あ、あとこのジュース300円な。」

「あ、有難う。ね、ねぇ、仁木田さん、気のせいだと思うけどこいつ俺を帰らせようとしてない?」

「三刀屋、お疲れ様!また宜しくね!」

「な、なんで!?」


澄と一通り三刀屋をいじった後、あることに俺は気づく。


「あれ?綾咲さんは?」


辺りを見渡してみる。

一瞬、帰ったと思ったが、すぐに見つけた。

綾咲はまだ上映中の映画のポスターが並べてある場所にいた。


「綾咲さん、こんな所にいたんだ。三刀屋が券買って来てくれたよ?」


しかし、俺の言葉が全く耳に入っていない様子で、上の空である。


「綾咲さん……?」

「……え!?あ!な、なんですか!?いいですよ!全然!!」

「……?どうしたの?」

「ホ、ホラー映画でしょ?い、いいですよ?行きましょう!!」

「あ、綾咲さん?も、もしかして怖いの苦手とか!?」

「な、何言っているんですか!!全然大丈夫です!!」


絶対嘘だ。

凄い、あの綾咲のこんな一面が見れるなんて。

超がつくほど可愛い。

今回ばかりはいい体験をさせてもらって三刀屋様様だな。

絶対に本人には言わないけど……。


「大丈夫?今から観る映画変えてもいいけど、三刀屋が出しゃばってチケット買ったんだよなー。言ったら変えてもらえるかもしれないからここで待って―――――」

「大丈夫です!!!」


顔を近づけて、凄い気迫で言われた。


「な、ならいいけど。無理はしないでね……」

「は、はい。」


その後、俺たちは三刀屋と澄に合流して映画を観た。

映画は何というかすごく退屈で、お決まりのフレーズ、お決まりのシチュエーション、そしてハッピーエンドだった。

上映中に綾咲をこっそり見てみたが全くリアクションがなく、微動だにしていなかった。意外と平気なのかと思いきや、目をしっかり瞑っていたのがわかった。




「ふー、なんか微妙だったねー」


澄が背伸びをしながら言った。

映画を観終わった後、俺たちは近くのファストフード店に来ていた。


「この後、どうしよっか?俺はまだ遊べるけど?」

「っえ?三刀屋君、何言ってるの?これからじゃん!」

「ん?」


ほら始まった。


「次は何を観よっかなー、ゾンビの後はー、やっぱラブストーリー?」


この女、映画館に来れば三本ぐらい平気で観るからな……。

それが常識だと思ってやがる。

さぁ、三刀屋君。この女の対処、どうする!?


三刀屋の顔を見てみると、うつむいたまま何かをしている様だった。

すると、急にメールが届く。


『さいふとおれぴんち』


三刀屋からだった。

だったらなんだよ、自分で言えばいいだろうが。

再び三刀屋を見ると、その顔はまるでうんこを我慢しているようだった。

澄の上がっているテンションを壊すことを言って嫌われたくないのだろう。

仕方がない。


「悪い、俺もう財布ピンチだわ」

「え?恭太、今月そんな使ったの?」

「もう無いな。ていうか、あったとしても全部丸々映画に使う馬鹿がどこにいるんだよ。映画は一日一本。」

「なにそれ?ゲームは一日一時間みたいなこと?」

「家で観る分には構わんぞ」

「なにそれー!映画は映画館で見るのがいいんじゃん」

「お前はおすぎ並に映画好きかもしれんが、俺ら一般人は違うの!一本でお腹いっぱいなの!な、三刀屋?」

「え!?お、俺?」

「そんなことないよね!三刀屋君!」

「え!?あ、えぇーと、お、俺はまぁ全然大丈夫だけどなー。八女が金ないなら仕方がないかな」


こいつ……。


「ほらー、恭太が変なんだよー」


ここで会話に参加していない綾咲に気付く。


「綾咲さんも何か言ってあげて、こいつ続けて二本も映画見ようとしてるんだけど……」

「え!?私ですか?わ、私は別に何本でも行けますよ!」


そんなご飯のおかわりみたいに言われても……。

ていうか、どう見ても二人とも澄に合わせている。


「なんなら、私と仁木田さんでもう一つ見ますか?」


綾咲のとんでもない提案に三刀屋と俺は反応する。


「いやいやいや!それはちょっと!」

「そうだ!言ってやれ!三刀屋!」

「俺も入れてくれないと!」

「そういうことじゃねーだろ!」


ここで綾咲から鋭い指摘。


「三刀屋君はもうお金ないんじゃないですか?」

「な、なんでばれたの!?」


さっき俺が三刀屋を庇った意味は三刀屋自身が口を滑らしたことで無くなった。

全く馬鹿な奴だ。


「パッと見、三刀屋君はそんなにお金持ってなさそうだと思いました。」

「見た目から!?」

「はい、第一印象から決めていました。」

「あんた失礼すぎるだろ!!」


ここで澄が諦めた様子で言う。


「そっか、お金無いか……でも、この後どうするの?」

「別に映画を何本も観るお金が無いってだけでさすがに幾らかは持ってきてるよ。まぁ、だから適当にゲーセンでも行くか」

「ゲーセンって、ゲームセンターのことですか!?」

「え、あぁ、うん。もしかして綾咲さんゲーセン嫌い?」

「いえ!一度行ってみたいと思ってました!!」


行ったことないんだ……。


「あれですよね?銃で人を撃ったり、喧嘩したり、カーチェイスをしたり、賭け事が出来るんですよね!?」

「だいぶ無法地帯だけど、全部、ゲームの話だよね?もっとUFOキャッチャーとか可愛らしいものもあるよ?」

「ああ!それも聞いたことあります!ショーケースに入れられた人形たちを一人ずつつまみ出す遊びですよね!?」

「わざと言ってるよね!?」


それでも目を輝かせている綾咲はやっぱり可愛かった。


「じゃあ決まりだな!」


最後は何故か三刀屋が仕切り、俺たちはゲームセンターへと向かった。

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