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疑心

次の日の朝、教室に入ると三刀屋が俺の顔を見るなりにやにやしながら話しかけてきた。

俺が自分の席に座ると、三刀屋も前の席に座ってくる。


「で、どう?もう誘ってくれた?」

「あぁ」

「うわーまじかぁ!すげー緊張する!女の子と映画とか初めてだよ!しかも、相手は仁木田さん……俺、今日一日仁木田さんの顔見れないかも!」

「声でかいわ。他の奴に聞かれたらどうすんだよ」

「あ、悪い」


やべ、まだ三刀屋が来ること澄に言ってなかったわ。

まぁ、今日あたり言えばいいか。



「で?お前、綾咲誘えたって本当なの?嘘にしてはつまらんぞ?」


俺たちは声のボリュームを下げて話した。


「嘘なもんあるか!ちゃんと俺の女を落とす必勝テクを使わせていただきました」

「何それ?」

「三刀屋家に代々伝わる禁断の技で一度使えば対象の女子をメロメロにして虜にしてしまうのだ」

「いや、そんなのあるなら澄に使えよ……」

「……」

「とりあえずメール見せて、お前と綾咲さんのやり取りを見ればはっきりするから」

「な、なんでメールで誘ったって思うの?電話かもしれないじゃん!」

「電話なの?いや、臆病者のお前にそんな勇気ないだろうなと思ってさ。ごめんな、お前を見くびって……否、見下していたよ。シャイで人見知りだなんて言うもんだからさ」

「人見知りでシャイな」

「はよ」


俺が携帯をこちらに渡すようにと手を出すと、三刀屋は渋々とポケットから取り出し渡した。

こうも出すのを渋られると、やっぱり本当に誘ったのか怪しくなってくる。

俺は疑いながらメールボックスを開いた。


「これは!?」


驚きだった。というより騙された。


綾咲から来ていたメールはたったの二通。

それだけ見れば綾咲に断られたのだと思ったが、というより最初の一通目でしっかりと断られているだが、それがなんと!どういう訳か――――――成功している。


送信メールを見ると、まず、三刀屋が

『綾咲さん!!!こんばんわ!今、ちょっといい? 急なんだけど、今週の日曜日は空いてますか?』と切り出している。


それに対する綾咲の返事は、

『空いてません。』とだけ。絵文字も顔文字も使われていない期待通りの返事だ。


しかし三刀屋はめげずに続けていた。

『クラス替えしたはかりでまだ仲良くない人も色でしょ?八女と仁木田さんも読んでいて映画に行こうと思っているんだけど来ませんか?』

なんかもう、打ち間違えとか変換ミスとか、相当焦っていたというのが手に取るようにわかった。

いきなり、あっさり断られればわかる気もするが……。


こんな馬鹿みたいな文なら俺の知っている綾咲は返事をするどころかそれすらも面倒くさがって三刀屋のメールをすぐに迷惑メールフォルダに入れそうなものだけど。


ここで何が起こったのか、綾咲から『わかりました。参加します。集合時間と集合場所を教えてください。』とメールが来ている。


綾咲からのメールはこの二通だけ。

後は、三刀屋が詳しい時間と集合場所を綾咲に送ってやり取りは終わっている。


何故、綾咲は急に誘いを承諾したのか?

俺ははじめ三刀屋が間のメールを何通か消したのだと疑ったが、三刀屋の二通目と綾咲からの二通目の間の時間は一分程となっていた。


どうも怪しい。違和感しかない。


「これってさ、お前からのしつこい誘いから逃れるために適当に話合わせて逃げたともとれるよな。もしかしたら来ない可能性もあるぞ?」

「残念ながらその可能性は低いな。というのも、さっき俺が教室に来たらさ、綾咲に話しかけられて――――」

「まて!?話しかけられただと!?」


俺はここから一番遠い教室の一番右端の一列目の席に座っている綾咲を見た。

本を読んで座っている。いつもと変わらずに。


「これは本当にあんまり言いたくないんだけどさ……」


三刀屋が深刻そうな顔を浮かべて言う。

俺はつられて息をのむ。


「綾咲ってさ……」

「……」

「俺のこと好きなんじゃね?」


そういえば、こいつは馬鹿だった。すっかり忘れていた。


「馬鹿だなーお前は、だったら、最初の一通目のお前からのメールでOKしてるだろ」

「あ……、そっか」

「綾咲を誘えたくらいで粋がるな」

「ははっ、そんなムキになるなよ」

「見たところお前の禁断とされている技が使われた形跡もなかったし、なんでだろ?映画っていうワードが出た瞬間ってことは綾咲は大の映画好きとか!?」

「っあ!」


三刀屋が何かに気付いたような声を出す。


「なに?なんか分かったの?」

「馬鹿だなーお前は、もう一つ一通目では出てないワードがあるぞ!」

「……?」

「お前だよ!お前!俺がお前と仁木田さんの名前を出してから急に来るって言ったんだぜ?これはもしかするともしかしちゃうかも!」

「な、なに言ってんだよ」


恥ずかしい。勿論、俺はそんなことを言われても真に受けて己惚れたりしなし、喜んだりもしない。

男の悪い癖だからな……。

それでも、どうしても、狼狽してしまう。


「いや、そうだって絶対!!お前の事が好きだったんだよ!確か一年の時から同じクラスだったよな?なるほどそういうことか!」


いつの間にか三刀屋の声が小声ではなくなっている……。

ていうか、勝手に納得するな!

勘違いした馬鹿を放置するのはあまりにも危険だ。


「あのな?俺が綾咲と今まで話した回数なんて数えるほどなんだよ。それで人を好きになれるなら蓼島でいいだろ」

「蓼島?あぁ、懐かしいな、あれ」


三刀屋が当時を思い出して笑う。


「冗談だよ、冗談。俺も本気でお前が好かれてるなんて思うわけないだろ?蓼島でダメだったんだしな。そうムキになんなって!」

「……」


なんだろうこの敗北感は。今すぐ三刀屋を殴れば収まりそうだが。


「で?」


俺は置き去りにされていた話題を回収する。

なんと話しかけられたのかを聞いていなかった。


「あぁ、なんて言われたかだろ?綾咲はこう言ってきたぜ!『他に来る人はいませんか?』ってね。俺もこれ以上増やすつもりはないって言うと『そうですか、大人数は苦手なので……』って言って席に戻っていった。そんだけ!いやー、それにしても、綾咲に話しかけられるってだけで注目あびちゃうのな!クラスの奴ら皆こっち見るの!」


三刀屋は嬉しそうに笑っている。


「他に来る人はいないか……?うーん、気になるなー」


わざとらしく顎を触って考え込んでいると、背中を強くたたかれた。


「おはよ!何をそんなに悩んでいるの?」

笑いながら顔を覗き込んできたのは澄だった。

今日はいつになく――――。


「なんだよ、今日はいつになくテンションが高いな。朝練終わったのか?」

「うん!あ、三刀屋君もおはよー!」


お!これは面白いものが見れそうだ。三刀屋って澄の前だとどんな感じなんだろ?


「え!?お、おはよう!にき、仁木田き…さん!」

「にきたき?アハハ!誰それぇ!仁木田だよぉ!もしかして名前覚えてくれてない?」

「い、いや、憶えてるよ!ほら仁木田澄さんでしょ?ちょっと噛んじゃってさ!おかしいなー?きょ、今日は口が回らないなぁー!アー!アー!」

「なんでフルネームなのぉ?三刀屋君って面白いね!」

「あ……」


こいつは面白い。

でもいつもの澄と少し違う。

どこか他人行儀というか…よそよそしいというか……。

俺の勘違いだろう位のレベルでそう思った。


「そういえば、澄。今度の映画なんだけどさ、こいつも呼ぶから」

「!?」

「!?」


あれ?何?俺、変なこと言った?三刀屋がまだ澄に伝えてなかったことに対して驚くのはわかるけど……。


「ちょっと来て……」


澄の声のトーンが変わる。


「なんだよ、急に、怖いなー」

「ちょっと来て!!」


もうすぐホームルームが始まるというのに、強引に手首を引っ張られ、俺は廊下に出された。


「何?今度の日曜日、三刀屋君も来るの!?聞いてないよ!」

「だから、今言ったんじゃねーか!別に問題ないだろ?そもそも、今回の映画は三刀屋が主催してくれたんだし……」

「え、そ…そうなんだ……。なんだ…」


何をそんなに怒ってるんだか。

あ!?もしかして!


「ま、まさかお前!」

「え?何?べ、別にそういうことじゃなくて!いや、そうだけど…ここではまだ……」

「三刀屋のこと嫌いなの?」

「へ?」


澄が素っ頓狂な声を出す。


「三刀屋君?嫌いじゃないけど…」

「じゃあ好き?」

「なんでそうなるのよ!!」

「どっちだよ!?」

「なんで、好きか嫌いかしかないのよ!」

「じゃあ何でそんなに怒ってんの?三刀屋が来ても別に何ともないんだろ?」

「……もういい!!知らない!」


澄はあからさまに拗ねて教室に戻ろうとした。

こいつは昔から拗ねる時だけは変わっていない。

そもそも拗ねるという行為自体が幼いのだけれど……。

こうなってしまえば澄は聞き分けのない子になってしまう。


「待てって!何をそんなに怒ってるんだって!?」

「もういいってば!」

「……」


どうしたものか……。

とりあえずこれだけは確認しとかないと。


「映画は行くよな?」

「……」

「……」

「……行くよ!!」




昼休み。

俺はどうしても一言だけ文句を言わなければいけない奴がいたので隣のクラスへと向かう。

教室の入り口のドアから全体を見渡してみるがどこにもそいつの姿はない。


「あれ?八女くん?どうしたの?」


声をかけられたのだが、誰だかわからない。

えっと確か、澄と同じバスケ部の……。


「あ、千早探しているんだけど知らない?」

「凛?見てないなー、何か用事?」

「ちょっとね。オッケーわかった。サンキュー」

「あ!わ、私も一緒に探そうか?」

「いや、大丈夫!」


あの野郎どこにいるんだ?

行動パターンが読めない奴だからな…。

探すのは困難だろうと思ったその時、何気なく今いる二階の廊下から中庭を見下ろすと一人で寂しそうにパンを食べているどこか気の抜けた様子の女子を見つけた。


「いた」


そのまま一気に階段を駆け下りて中庭へと向かう。


「千早!」

「あ、八女君。どうしたんですか?」

「お前なんで、こんなところで一人でパン食ってるんだ?」

「教室で理沙ちゃんと食べようと思ったんだけど、たまには中庭で食べるのもいいかなと思いまして」


あぁ、そう。理沙ちゃん可哀想。教室で待ってるんじゃないいのか?

誰か知らんけども。


「そんなことより俺は怒っているぞ!千早!」

「え!?ごめんなさい!!」

「……な、何のことで怒ってるのか分かってるのか?」

「わからないけれども、とりあえず謝ります!ごめんなさい!」

「それは、火に油を注ぐ行為だぞ」

「お願いだからぶたないでください!」

「人聞きの悪いことを言うんじゃない!!」

「何で怒っているんですか?あ、もしかして一年の時、私が八女君が放課後の掃除をサボって帰ったことを福崎先生に逐一報告していたことですか?」

「そ、それは初耳だ!」


何で毎回、俺だけ怒られるのだろうと思っていたが、そういうことだったのか。


「違う!お前、三刀屋に話しただろ!」

「ヒッ!人違いですよ!何言ってるんですか!?」

「人違いじゃねぇ!もう三刀屋から聞いたんだよ!お前が全部話したってな!さぁ、言い訳を聞かせてもらおうか」

「電話番号教えたのそんなにダメでした?」

「そのことじゃねぇ!!!」


千早の厄介なところは、このやり取りが全部、わざとやっている訳ではないというところだ。


「お前が綾咲と同じ中学だったって言うから俺はお前に相談したのに……」


俺はため息交じりに言う。


「なんで三刀屋なんて口の軽そうなやつに言っちゃうかなー」

「あぁ!そのことか!あれ?でも三刀屋君は私が言う前に八女君が綾咲さんのこと好きって知ってましたよ?」

「お前、まだわかってなかったのか!!」

「????」


俺は、三刀屋が俺の好きな人を聞き出すために知ったかぶりをしていたことを、千早にもわかるようにとても丁寧に説明した。


「なるほどー!考えましたね三刀屋君。これは一本取られました」

「感心してんじゃねぇ!」

「す、すいません」

「まぁ、もういいや、ばれてしまったものは仕方がない。結果的にいい方向に転んだのかもしれないし」


まだ、わからないけど……。


「いい方向と言いますと?」


俺は千早を疑惑の目で見た。


「も、もう言いませんから、誰にも。」

「まぁいいか、今度、映画を見に行くとこになったんだよ。俺と三刀屋と澄と綾咲で」

「えぇー!一年の時は声もかけれなくて、うじうじ言って私に相談してきたあの八女君が!?一気にリア充展開じゃないですか!」

「そんなにうじうじ言ってない!それにあれは相談なんかじゃない!お前に相談してまともな返事が返ってきたことがなかったからな……」

「失礼な!」


ほっぺたを膨らませてこっちを睨んでくる。

そんな表情する奴、お前と拗ねた時の澄ぐらいだろ。


「リア充展開なんて言うけど、正直言って、あの綾咲だからどうなるかわからないんだよ」

「ていうより、よく綾咲さんを誘えましたね。誘ったのは三刀屋君でしょうけど」

「……」


その通りで何も言えないのだが、いちいち癪に障るやつだ。


「やっぱり、お前も驚くよな?なんでだと思う?」

「さぁ?」


ほら、大体こんな返事だもんな。


「あ、それとさ……」


一番大事なことを聞くのを忘れていた。

別に知らなくてもいいことだけど、一応気になるからな。


「お前って三刀屋とどういう関係なの?」

「三刀屋君?三刀屋君は私の……彼氏です!」

「へ?」

「というのは冗談で……」


……面倒くさい。


「三刀屋君とは部活の部員とマネージャーの関係です」

「っえ!?あいつ部活やってるの?」

「と言いましても、元ですけどね」

「てことは、やっぱりあの身長だとバスケか」

「はい!かなり有望の選手だったんですよ?元々、小学生の時からバスケしてたらしくて…先生にも期待されて一年生でレギュラーになるんじゃないかって!でも、すぐやめちゃいましたけど……」

「そんなに凄かったのか、なんで辞めたの?」

「それはちょっと……。誰にも言うなって言われましたから……言わなくていいって」


お前、俺の秘密はすぐばらしたくせに。

千早の顔が曇ったのにはきっとそれなりの理由があるんだろう。


「そっか、ま、いいや、三刀屋のことなんて」


多分、そのうちわかるだろう。

しかし、あいつが元男子バスケ部だったってことは、やっぱりそこでも女子バスケ部の仁木田を意識することもあったわけだ。


「でも知らなかったよ。三刀屋もそうだけど、お前がバスケ部のマネージャーだったなんて」

「元ですけどね」

「っえ??元?」

「だから言ったじゃないですか」

「お前もやめてるってこと?」

「はい!一年の時に辞めてますよ」

「……」


なんか引っかかるな。こいつらの関係って一体?


「お前はなんでマネージャー辞めたの?」

「なんとなくです」


彼女なりに平然と答えたつもりだろうけど……。

誤魔化すのが下手な千早だった。







放課後、帰ろうとしたところを三刀屋に呼び出されて俺は今は使われていない教室に来た。

机や椅子が他の教室と同じように並んでいるが、表面を触ると埃がついてくる。


「なんだよ、まだなんかあんのか?」


三刀屋は何か言いたそうにしているがなかなか切り出さない。

深刻そうな顔をしている。


「きょ、今日の朝さ……」

「あ、そのことか」


そういえば仁木田に廊下に連れ出されて、そのままHRだったもんな。

こいつとしては一日中、不安だったんだろう。


「何話してたんだ!?あの時!やっぱ、俺は行かないほうがいいのかな?」

「大丈夫だって!三刀屋のこと好きでも嫌いでもないって言ってたから!」

「……そっか」


そんな本気で落ち込むなよ。

まるで俺が悪いこと言ったみたいじゃないか。


「いや、しかし、お前テンパってたなー、もしかして初めて澄と話したの?プププッ!」


予想以上に落ち込んでいる三刀屋。

なんとか空気を変えようと茶化しながら言ってみる。


「あぁ、そのことなんだけどさ……実は俺…」

「……?」


そして何かを考えるように黙り込む三刀屋。


「やっぱりいいや」

「なんだよ!そこまで行ったら言えよ!!気になるだろうが!」


この後三刀屋は『ごめん。』と一言だけ謝って教室を出ていった。


なんだよどいつもこいつも。

今日は謎だらけ残していきやがる。

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