【冷たく、誘う】〔2〕
【冷たく、誘う】〔2〕
「こいつは、頭が可笑しいのか?」
と不義が言うと武器を手にとって構えた。
「まぁ、普通、王と言うとココには居ないと思いますけど・・・?」
桂絽君がパソコンを弄りながら言った。
「ねぇ・・・。血夜牙?皆信じてないみたいだけど・・・・?」
私は血夜牙の服を引っ張って言った。少しやばい事になっていると思った。てか、見ただけで
分かる・・・。
「ふむ、そのようだな・・・」
血夜牙が頭をかきながら言った。って、何で本人は普通の顔なの・・・!?
手を叩く音が3回聞こえた。
「まぁまぁ、皆さん」
野呂先生の声が聞こえた。この人も冷静な事言ってる・・・。
「では、吸血鬼の王。王と言う証拠を見せてもらいましょうか?証拠が無ければ、ココで即、
貴方を殺しますので」
野呂先生がニヤッと笑った顔で言った。こ、怖い・・・。絶対この人は腹黒の腹黒だ・・・。
「ふむ。証拠がほしいか・・・。では・・・」
と言うと血夜牙は、私の顎を押さえ、上げて血夜牙の顔に近づけた。
これは、いわゆる・・・・。
キス・・・?
それは時が止まったように思えた。でも、進んでいることが分かった。
何か熱いものが口から伝わってくる・・・。
私はキスが終わっても、私は呆然として立っていた。また、奪われた・・・。キス・・・。
私は血夜牙の方を見た。でも、今までの血夜牙ではなかった。髪の毛は長く、漆黒の色だっ
た。そして目はとても赤く、血の色だった。でも、その形の血夜牙は小さい頃に見たことがあ
った。
「これが証拠だ」
血夜牙の声が違っていた。少しカッコよくなっていた。男らしくなったのかな・・・?
そう言って大剣を出した。それが何かは、分からないけど・・・。私には・・・。
「ふむ、『魔剣ディライフル』か・・・」
野呂先生が腕を組みながら言った。
「先生。その『魔剣ディライフル』とは何ですか?」
蒼さんが野呂先生の後ろから聞いた。私も聞きたいな・・・。
「『魔剣ディライフル』とは、昔から吸血鬼の王が受けずいている魔剣だ。本当に王だとは
な・・・」
野呂先生は頬を掻きながら言った。本当にこんな先生居たかな・・・?
「分かったか?人間共。俺が吸血鬼の王で、魔界の長と言うことも・・・」
そう言うと血夜牙の手から魔剣が消えた。その瞬間、元の血夜牙に戻った。
「で、魔界の長が何故こんな所に来たのですか?」
野呂先生がまったく『それ』に動じないように言った。本当に顔の表情が読めない先生だな、この人・・・。
「ふむ、この学園には、吸血鬼に必要な力が眠っている。だが、その力を利用しようとしてい
る奴らが居ると言う話を聞いてな、直々に私が来たのだ。まぁ、ココの管理は私がしている
が・・・」
私は血夜牙の横から聞いた。
「でも、血夜牙って魔界の王でしょ?何で王が来るの?」
誰もがそう思っているはず。血夜牙はニコっと笑って言った。
「自分で確かめたかった。それにココを狙おうとする奴らが気になるしな・・・。吸血鬼の力
を欲していると言うことは、吸血鬼の間外者」
「まがい・・・もの・・・?」
「ふむ、吸血鬼に慣れなかった、まぁ、ハーフか、そう言う奴を『間外者』と言う」
魔界にもハーフって居たんだ・・・。でも、それって・・・。
「吸血鬼が人間と結ばれる事など許されることではないだろ!!」
そう言ったのは何故か不義君だった。
「人間が吸血鬼を好きになるはずが無い・・・。あってはならない・・・・!」
どうしたんだろう・・・。急に不義君の顔が怖くなっている・・・。それに汗を掻いてい
る・・・。
「貴方の事情は分かりました。で、これから如何するんですか?王?」
野呂先生は不義君を無視して話を進めた。本当にすごいな、この人は・・・。
「ふむ、単刀直入に言うと、しばらくココで暮らそうと思う。まぁ、潜入捜査かな?」
何も問題ないように言った。でも、私はまだこの状況を把握していない・・・。
だって、こんな事現実にあってたまるものですか・・・・!!
「では、参ろうか。彩埜」
血夜牙はいつの間にか私をお暇様抱っこをしていた。
「え・・・!?」
私は動揺していて言葉が出ない・・・・。
「あぁ、そうそう」
血夜牙は何かを言い忘れていたようだった。くるっと皆の方を向いて言った。
「野呂と言ったか?」
「ええ。何かな?」
野呂先生はニコっと笑って言った。少し怖かった・・・。
「えっと・・・・」
血夜牙は少し考え、私の方に顔を近づけた。
「ねぇ」
「何・・・?」
「この団体さんの名前って何って言うの??」
だ、団体さんって・・・。VHってこと・・・?
「えっと、『バンパイアハンター』略して、VH」
「ふむ、それに入らせて貰おうかな?野呂」
な、なに言ってんの!この人は!!そんなこと言って『いいよ』なんて言うわけない!!
「いいですよ?」
ニコっと笑って許可してくれた野呂先生。
「なんで!!?」
その場に居た、不義君と桂絽君、圭介、私達は声をそろえて言った。
「何で、ですか!先生!!」
と不義君が野呂先生の肩をつかんで言った。
「そうですよ、先生!何故この人たちをVHに入れるなんて・・・!」
桂絽君がパソコンを閉じて言った。相当、動揺している様子だった。まぁ、誰もが駄目だと思
っていたからだと思うけど・・・。
「まぁ、いいじゃないですか・・・。楽しくなりますよ?」
野呂先生は他人のように言った。まぁ、担当の先生だし、決るのは先生次第か・・・。
「ですが・・。先生・・・!」
桂絽君が力一杯にして言った。
「桂絽君?分かってくれますよね?」
一瞬その場が凍りついた。私だけかも知れない。でも、さっきの先生の声は怖かった。
「は・・・・はい・・・」
恐る恐る言ったような声だった。冷や汗が出ていた。少し唇をかみながら・・。
「血夜牙さんでしたか?」
野呂先生はこっちを向いて歩き始めた。
「ふむ、血夜牙でいい。これから、ココの学園に通うことになるからな。野呂先生」
血夜牙は私を下ろして言った。血夜牙の目は輝いているように見えた。
「では、血夜牙君。ようこそ、VHへ。歓迎するよ」
野呂先生が手を差し出して握手を申し込んだ。血夜牙はそれに応じて握手をした。
ちょっとだけホッとした。なんでホッとするの私・・・。
「分からない事があったら蒼君に聞くんだ。VHのリーダーだからね。あと空痲君は副だ」
そう言うと蒼先輩が前に出てきて、自己紹介をした。
「蒼だ、よろしく。学園の会長をしている」
「僕は空痲。VHの副を任せてもらっている。よろしく」
血夜牙は一人一人握手をした。不義君は不機嫌そうに握手をした。桂絽君もそうだ。
「へぇー。魔界の王かぁ。そんな風に見えないなお前・・・!」
一先輩は暢気そうに言った。まぁ、誰もかもがそう思われるけど・・・。
「ふむ、よく言われる」
あ、言われるんだ・・・。
「でもさ、『ふむ』とかさ、その言葉遣いどうにかしたらいいんじゃない?」
一先輩が手を頭の後ろで組んでそう言った。
「そうか、そうだな。まぁ、色々教えてくれ」
血夜牙が少し悩んだように言った。一先輩とは上手くいきそうに見えた。
「いいよー。ちやっきー」
「ちやっき・・・・?」
血夜牙が少し困った顔をした。
「だって、お前『血夜牙』だろ?だから『ちやっきー』」
一先輩がニコッと笑って言った。
「うん、良い名だ。はじ」
血夜牙も負けず、一先輩にもニックネームを付けた。少し短くなっただけだけど・・・。
二人は笑っていた。本当に仲良しになったようだった。
「で、血夜牙君。この二人はどうするの?」
野呂先生が私達の方に指を指して言った。
そうだ、自分達の立場を忘れるところだった・・・。殺されるか、記憶を消されるか・・・。
どっちにしてもいや・・・!
血夜牙はこっちに歩いて来た。少し怖かった。自分がどうなるかって事に・・・。
私はとっさに目を閉じた。少し震えていた。血夜牙は気づいてるのかな。私が怖いと思ってい
ることに・・・。
血夜牙は私の頭をポンっと叩いて言った。
「彩埜もVHに入れてくれ」
へ・・・?何だって・・?VHに入れてくれ??
「やっぱり貴方は気づいていたのですか?彼女の性質と能力に・・・」
野呂先生は最初っから言う事を分かっていたように言った。しかも、能力って何・・・?性
質??
「それもあるが、一緒に彼女と居たいのだ。私は」
それは、少し日本語に直すとちょっといやらしい・・・!いや、いやらしいよりも、危ない系
ですか!?告発!いや告白なのか!!?頭がごちゃごちゃして・・・!
「次は女か、今日は疲れることばっかだな、おい・・・」
不義君は迷惑そうに言った。本当に迷惑そう、ごめんね・・・。私だって入りたくって入るん
じゃないのに・・・。
「いや、逆に歓迎だよ、彩埜さん。貴方の力があれば、仕事も楽になる」
蒼先輩が手を差し伸べた。多分握手なのだろうと思った。
「いえ、こちらこそ・・・よろしくお願いします・・・」
私は少し照れたように握手をした。うわぁ、蒼先輩の手ってこんなに大きいんだ・・・。
「ヨロシクね、彩埜さん」
ニコッと笑って空痲先輩は蒼先輩と一緒に手を出した。
「こちらこそよろしくお願いします。空痲先輩・・・」
また、私は照れくさそうに言った。空痲さんは、ニコッと笑って
「空痲でいいよ。彩埜さん」
「そんな!空痲先輩は先輩ですし!!」
私は手を早く動かして否定した。
「じゃぁ、空痲さんでいいよ」
空痲さんはくすくす笑いながら言った。
「ちょっとごめんね」
血夜牙が空痲さんと私の間を割って入ってきた。
「と言うわけで、今日は帰らせてもらいますね」
そう言うと血夜牙は私を抱えて、出て行こうとした。
「ちょっと、待ってください、血夜牙君」
「はい。なんですか?」
本当に生徒と先生だな・・・・。
「これ、制服だよ。あとクラスは彩埜さんと一緒にしておくよ」
野呂先生は、ニコッと笑って血夜牙の手にポンッと置いた。
って、待って。さっき、私と同じクラスって・・・。
「待って下さい!なんで血夜牙と一緒なんですか!!?てか!血夜牙って何年生!!?」
私は動揺していた。野呂先生はニコッとまた笑って説明し始めた。
「君は確か一年生だったね?まぁ、君と一緒の方が良いだろうしね。それに、血夜牙君は君と
一緒じゃないと嫌がると思うしね?」
のん気そうにニコニコ笑って言った。まぁ、半分は当たってるし・・・。
「さすが!野呂先生。分かっているじゃないですか!」
血夜牙はそう言うと私に抱きついてきた。私は一生懸命血夜牙を離そうとするけど、離れな
い・・・。
「では、明日から忙しくなると思いますが、宜しくお願いしますね?彩埜さん。血夜牙君」
皆の視線が痛い・・・。私ってこれからどうなるの・・・?ねぇ、魔界の王さん。吸血鬼の王
さん・・・!
「はっ!」
それから目覚めたのは自分の部屋だった。そして私のお気に入りの『キュウッリ』(キュウリ
の形をしているぬいぐるみ)を抱いていた。昔お父さんに買ってもらった物だった。
私はカーテンを開けて青い空を見て言った。
「もうすぐ、命日だなぁ・・・」
「誰のだ?」
急に後ろから抱きつかれて鳥肌が立った。その声は血夜牙の声だった。少し寝ぼけている声だ
った。
「ちょ、ち、血夜牙!!離して!」
私は向きを変えて血夜牙の肩を掴み力強く離そうとした。でも、寝ぼけているせいか、離れない・・・。
「なぁ、誰の命日なのだ〜〜?」
私は我慢できなくて、蹴り飛ばした。少し経ってから体を起こし始めた血夜牙。
「お前の命日にするわよ」
私はベッドから降りて布団を整えながら言った。
「で、本当は誰なの??」
血夜牙は足を組んで聞く体制をとっていた。目はとても興味心身だった。
「・・・。お父さんとお母さんの命日」
あまり思い出したく無かった。死んだのは私が小さい頃の事だったから、覚えていないけ
ど・・・。
「そっか。だから誰も居なかったのか。猫ぐらいしか」
と言ってヒョイッと抱き上げた。猫の名前はライ。男の子、寂しい時は一緒に居てくれる私の
大切な友達。
物心が着いた時に居た。私以外に抱かれるのは嫌がるのに、血夜牙は嫌がらないんだ・・・。
変わった猫だな・・・。
「こいつは良い猫だぞ。性格も良い」
血夜牙はライの頭を撫でて言った。気持ちよさそうにゴロゴロ言っていた。
「分かるの?」
私はライを見ながら聞いた。ライはこっちを見て、私の方に来た。そして私の足元を回ってい
た。
「まぁ、目を見れば分かるよ」
私の方を見てニコッと笑った。朝からそんな・・・。綺麗な笑い顔見せないでよ・・・。
「ふーん・・・・。って!今日は早く学校に行かないといけなかったんじゃん!!」
そうだった。今日は野呂先生が話があるって言ってたから早く来てって言ってたから早くしな
いと・・・!
「そうだったのか・・・。じゃぁ、行ってらっしゃい」
血夜牙がのん気に手を振っていた。
「あんたもだよ」
そうだったような顔をしていた。ちょっとムカつく・・・。
なんだろう、周りの視線が気になるのは・・・。
学園の門を入ってすぐに、女の子達は振り向いたり、騒いだり、気絶したり、鼻血出た
り・・・。めちゃくちゃだな、この学園は・・・!
「なぁ、彩埜?」
血夜牙が心配そうに私の耳元に顔を近づけた。そんなに近づかなくても聞こえるから・・・。
「何?血夜牙」
「何故、女の子達は騒いでいるのか?」
はぁ!?自分の顔、鏡で見たことある!?美形だよ!?芸能人でもこんなカッコイイ人居ない
ような顔してるあんたに皆ビックリしているんだよ!?認識してよ!!
「血夜牙がカッコイイから、皆吃驚しているんだよ・・・」
「そうなのか?彩埜は私の事、カッコイイと思っているのか・・・?」
急に甘えるような子供の声が聞こえたように思えた・・・。ちょっと吃驚・・・。しかも私、
歩くの止まっちゃったし・・・!
しかもこんな人気があるところでそんな・・・!!
どこのイチャイチャムカつくカップルだよ!!
「彩埜?」
私は恥ずかしくなって走り出した。もうその場に居られないような感じが!!しかも女子の痛
い視線とか気になる・・・!!
「彩埜、こっちだよ?」
私は何故か体育館に向かっていた。血夜牙は瞬間移動みたいに移動していた・・・。てか、生
徒玄関のあるところ良く知っていたと思ったよ・・。
私は恥ずかしくてまた走り出した。今日は何か散々な日になりそう・・・。
「君達を呼んだのは、これからの事を説明するために呼んだんだ。だから安心して聞いてくだ
さいね?彩埜さん」
野呂先生は私の方を見てニコッと笑顔を見せた。私は恥ずかしながら「はい」と言った。私の
顔はそんなにおびえていたのかな・・・?
でも、野呂先生のところって何か豪華だなぁ・・・。何でだろ?もしかしてココが噂の『理事
長の部屋』?
めったにココに入れないと言う貴重なところ!クラスで1・2居るか居ないかの、入れない部
屋なのか!!?
でも、何で野呂先生がちゃっかりその椅子に座っているんだろう・・・?謎だ・・・。
しかも、右には会長の蒼先輩と、左には可憐で優しい空痲さんが居るなんて・・・。安心より
も、緊張と不安でいっぱいだよ・・・。
「で、話に入るけど・・・。いいかい?」
「は!はい。大丈夫です!」
私は我に返ったように返事をした。急に話しかけないでよ・・・。びっくりするから・・・。
「君達には、『これ』を付けてもらう」
と野呂先生が言ったと同じように、蒼先輩と空痲さんが動き出して私達の目の前で『それ』を
差し出した。蒼先輩は血夜牙の方へ、空痲さんは私の方に渡した。
『それ』はキラキラ光っていて綺麗だった。それは指輪だった。血夜牙は赤色の指輪。私は白
色だった。
「それは、『VH』のしるしだ。それがあればいつでも夜の学園に入れるし、色々役立つ。肌
身離さず付けておくといい」
「はい」
よく見ると、二人もしていた。蒼先輩は青色。そのまんまだな・・・。空痲さんは緑色。エメ
ラルドグリーンぽい。
「あと、時々『VH』で集まる時がある。その時はココに集合。あと、学園の中では『VH』
のもめ事は一切禁止。それと・・・・・」
長々と注意することなど、今後の話でちょっと疲れてきた・・・。まだかな、この話・・・。
「あと、彩埜さん」
「は、はい!」
「貴方は、これから学園の寮に住んでいただきます。『VH』の期間だけね。もし『VH』を
抜ける時は別だけどね。君の書類について調べたところ、親は居ない、親戚も居ないので一人
暮らし。でも、学園の寮では『VH』の皆が居るからさびしくないと思っていたんだけ
ど・・・。それに一回家に戻って学園に戻るのも大変でしょ?大丈夫、そんなに不便じゃない
し、ちゃんとした設備もしてある。一人一人の部屋にもシャワーもあるし、テレビ、台所など
欠かせないものはちゃんとある。お金もちゃんと出るよ?一ヶ月5万で・・・」
「ちょ、ちょっと!待って下さい!いっぺんにそんなに言われても・・・!」
そうよ、私が返事をしたらズラズラと台本みたいに喋って!半分聞いてなかったよ!ちょっと
吃驚して!でも、学園の寮に住む?本当に大丈夫なのか?崩れたりしないのか!?いや、それ
とも監視されてパソコンでその一日を公開されたりなんてことは・・・!!
「彩埜さん?」
「え!?あ、あの。その・・・。えっと・・・。家賃とかは・・・?」
私は少しもじもじしながら言った。それに答えて野呂先生は優しく微笑んで答えてくれた。
「掛かりませんよ?全部は学園で支払ったりするので心配なく。それに、一人で過ごすと危な
いでしょ?血夜牙君と一緒だからね」
野呂先生は冗談で言ったと思うけど、血夜牙は本気にしていた。
「先生!私はそんな破廉恥なことはしませんよ!」
「私にキスをしたじゃない!!」
あれは破廉恥ではないのかよ!!
でも、野呂先生がああ言ってるし、心配は無いとして真剣に考えないとな・・・。本当に学園
の寮に住むか。そのままの暮らしにするか・・・。でも私が『VH』に入りたいなんて思って
いないし、まして、戦いたいとも思わない・・・。
危なく死んじゃうかも知れないのに、無理に危ないことに首を突っ込まなくてもいいは
ず・・・。
「私は・・・」
本当に私はこのことに関係は無いはず。だから・・・。
「『VH』を辞めます」
野呂先生の表情は変わっていなかった。唯一変わっていたのは血夜牙の方だった。
「何故だ!彩埜!何故辞める!?」
血夜牙は私の肩を掴んで言った。御免ね、血夜牙・・・。
「私には、関係ない。それに、私が入ったところで邪魔になるだけよ。何にも役に立たな
い・・・」
私は頭を下げたまま言った。だって、しょうがないじゃない・・・、私が入ったところでどう
だって言うの?
「だが・・・!」
「もう決めたの。私は『VH』に入らない」
私は元気に笑って指輪を取って、野呂先生の机の上に置いた。何にも感じないような顔で私を
見て言った。
「本当に、『VH』に入りませんか?」
野呂先生はニコッと笑ったままの顔で私に言った。
「御免なさい」
と言って、くるっと回ってその場から離れようとした。すると急に腕を掴んできた。血夜牙だ
った・・・。
「・・・・・」
黙ったままの血夜牙の顔は真顔だった。多分心の中では悲しんでいるのだろう・・・。
「御免、血夜牙」
と言って血夜牙の手を解いた。すると後ろから声が聞こえた。
「待っていますよ。彩埜さん」
それは野呂先生の声だった。その声はいつまでも私の頭の中に響いていた・・・・。
「何ボーっとしてんのよ彩埜」
「あ、月世」
私の目の前に顔を近づけた月世にも驚かずボーっとしていた。何でだろう。何も考えられな
い・・・。
周りから大きな話題で盛り上がっていた。
「ねぇ!聞いた?私達のクラスに転校生が来るんだって!」
「それに美形らしいよ!」
「私、その人っぽい人朝に見かけたのよ!」
「えー!いいなぁ!」
「でもね、女連れだったのよ!」
「えーショック!!」
「誰だったのよ!」
「確かね・・・」
といいかけた瞬間に
「こらー!座りなさい!チャイム鳴っているでしょ!?」
大きい声を張り上げながら言った。結構性格は良い方だけど、あと体つき・・・。でも、お気
に入りの男子は離さない噂があるらしい・・・。
一人の男子が手を上げながら立ち上がった。
「先生―。飯田君が居ないんですけどー」
「飯田君は急用で外国の方へ転校しました」
周りからはえーと言う声が聞こえた。でも、その原因は知ってる。飯田君は・・・。
思い出すだけで、怖かった。もし、私が『VH』に入っていたら、こんな事いっつもあると思
うと嫌になる・・・。
関わりたくないと心から思った。
「飯田の奴、少しは置手紙とか、誰かに話せば良かったのになぁ」
「だよなぁ」
と周りの男子はふざけて言っている。ように聞こえた。彼らはどうして飯田君が居ないのか
は、知らないのだから・・・。
「静かに!」
と先生が話を止めた。
「先生!今日は転校生が来るんですよね!?」
一人の女の子が大きい声で言った。
「ココのクラスはそう言うのは早いんだよねー。まったく。勉強もこういう風に興味があれば
いいのに」
先生がため息をついていた。すると男子は
「それは無理でーす!」
とふざけて言った。するとその男子にチョークを投げて、それはお前だけだ、と言った。
周りは笑いに包まれた。こんな風に毎日を過ごしていると、いつの間にか不安の心は晴れて、
私も笑っていた。
「はいはい!ほら、お前達も早く転校生を見たいだろ!?」
先生は活きよい良く黒板を大きく叩いた。
「みたいです!」
女子のほとんどが合わせて言った。月世は興味なさそうにしていた。まぁ、あんたは不義君一
筋だものね・・・。
「じゃぁ、静かにする!」
と言うと一瞬にして静かになった。
「じゃぁ、入って来て」
と先生が言うとゆっくりと血夜牙が入ってきた。
「名前と趣味、特技など言ってくれるかしら?」
先生の声が色っぽく聞こえるのは何故・・・?
「私は血夜牙。趣味は動くこと。特技はスポーツ全体で」
女子の皆の目がとても逝っていた・・・。ははは・・・。すごいな血夜牙・・・。
「ねぇ、彩埜。あの人いけてない?」
ちょ!あんた!不義君命じゃなかったの!?
「月世!あんた不義君命じゃなかったの!!?」
「それはそれ、これはこれよ!」
早変わりの人だな・・・。本当に不義ファンに入ったのかな??
「不義君はツンデレだけど、血夜牙君ってデレっぽくない?」
そ、そうなのか?私には分からないけど・・・。てか、それは腐女子発言では!?
「じゃぁ、血夜牙君は彩埜さんの隣で」
「はい」
ちょ、ちょっと待ってよ!なんであんたが私の隣なの!!
しかも、ちょっと嫌な空気だし・・・。
「隣宜しくね。彩埜」
血夜牙はニコッと私の方を見て笑顔を見せた。さっきのことは忘れたの?
私血夜牙にひどいこと言ったのに・・・。
「血夜牙、あのね・・・」
「何!?やっぱり戻ってきてくれるのか!!」
「い、いや!そんなこと言ってないし!」
っは!ま、まて!何か後ろと前に痛い視線が!!こ、怖えー!
駄目だ!今血夜牙と話したりしたら、女の子達に殺される!!
「彩埜さん。血夜牙君今日、教科書ないから貸してあげてね」
先生が少し悔しそうに言っていた。ここの学園って怖いなぁ・・・。でも、何で先生が悔しが
ってるの!?
周りの女子は黒板じゃなくて血夜牙の方を見ていた。すごい視線だな・・・。
『VH』を辞めてしまったら血夜牙との関わりも無くなってしまう。
でも、それでもいいや。私には関わりは無いもの・・・。でも、本当の私はそんなのやなはず
なのに・・・。
どうしよう。私・・・。
血夜牙は心配そうに彩埜を見ていた。
彩埜は血夜牙に気づかれないように帰ろうとした。でも、今日のことがあったせいか、学園の
女子ほとんどに血夜牙との関係を聞かせないといけない事になって、大変だった・・・。ただ
の従兄って事にしたけど・・・。
何か今日は疲れた・・・。
でも、そういえば、血夜牙って『VH』の専用の寮だっけ?もう私が心配しなくてもいいんだ
よね・・・。もう私は必要ないよね。なんか苦しいな・・・。
「彩埜」
後ろから声が聞こえた。圭介の声だった。そういえば、あの時(VHに初めて会ったとき)以
来だった。かも・・・。
「どうしたの、圭介」
圭介は少し照れくさそうに言った。
「あ、いや・・・。その・・、今日はアイツいねぇのか?」
アイツですぐ分かった。血夜牙のことだと・・・。この頃気になるみたいなんだよね、圭
介・・・。
「うん。いないよ。もう私必要ないし」
そう、私は・・・血夜牙はもう私の事必要ないから・・・。
「なんだアイツ、急に彩埜に会ったばっかで、すぐ『サヨナラ』かよ。ふざけるのは顔だけに
しろってな!」
いや、顔はふざけているより、カッコよすぎで困るんだよね・・・。
でも、私の顔は笑っていなかった。何か胸が痛い。なんで?だろう・・・。それに違和感
が・・・。
肩に触って私は目を大きく開いてハッと気づいた。いつも肩にかけているはずの部活道具が無
かった。たぶん、部室に置いてきてしまったのだ。いつもこんな事無いのに今日は何か違う感
じがしてしょうがなかった。
「忘れ物した!そんじゃぁね!圭介!」
「お、おい!」
圭介はまだ言いたそうな感じだったが、急いでいたせいかその声は彩埜に聞こえていなかっ
た。
「もうすぐで、門閉まるんだけど・・・」
時計は6時55分を回っていた。学園の門が閉まるのは7時と決っていた。
彩埜は部室に入り、自分のロッカーに手を伸ばし、開けた。
「あった・・・」
ロッカーの片隅に横たわっていた部具があった。
本当にボーとしていたんだと再び思った。本当に御免ね。貴方を置いていって帰ろうとし
て・・・。
もうすぐで暗くなりそうだから早く帰ろうとした。ドアノブを回そうとするとビクともしなか
った。
「え!?」
普通に回すと開くはずのドアが開かない・・・。どうして?まさかこんな時に壊れたの!?
本当に今日はついていないと思った。だんだん不安が込み上げて怖くなった。こんなときに血
夜牙が居てくれたら・・・。
って!何で血夜牙なの!?と自分で突っ込んでいた。部具を強く抱きしめた。
「お父さん、お母さん・・・」
思わず親を思い出す。そういえば、もうすぐで命日だね。お母さんの大好きなユリを持ってい
くね?お父さんの好きなお酒持って行ってあげるね?
お父さん達が何故死んだことは知らない。でも、お父さん達が私に残してくれた物がある。い
つも胸に付けているネックレス。鍵のような形をしている。それを大事に身に離さず持ってい
る。
私はネックレスを見て楽しかったことを思い出していた。
すると耳鳴りがして次に回りの空気が変わった。
何か不思議な感じだった。さっきまでも温かい空気が急に寒く感じてきたのだった。
「っ・・・!」
耳鳴りがもっと酷くなった。何かが変だった。不安より恐怖が強くなってきた。
それに人の気配がしてならない。私が入ったときはたしか一人だったはずなのに呼吸の音が空
気を凍らせてくる。
「人間か?」
暗いところから声が聞こえた。姿が見えない。でも居るのはたしか。私はその場で立った。足
は少し震えていた。恐怖と寒さのせいで震えていた。
「だ、誰?」
私は問いかけるように言った。そしてコツコツっと靴の音が聞こえてきた。そして近づいてく
ることも分かった。寒さが倍になった気がする。
そこには男の人が歩いて来ていた。私はその人に視線が離せなかった。その人は何もかも冷た
いように見るような目をしていた。冷気で包まれているようだった。それに肌が白い。真っ白
な雪のようだった。
私は背筋が凍りそうだった。たぶんこの人のせいだと思った。それに息が白い。感覚が無くな
っていきそうだった。
男は彩埜の方に手を伸ばそうとした。抵抗できなかった。全部の精神、神経が言うことを利か
なかった。
「お前、血夜牙と契約したのか?」
何を言っているのか分からなかった。でも血夜牙もそんなこと言っていたような・・・。でも
``契約’’って何?
男は下ろした手に鋭い氷柱のようなものを握っていた。それをどうるすかはすぐに
分かる。私を殺すために出したと瞬時に理解し恐怖が増大した。
「・・・・・」
男も無言で手に握った氷柱を私の顔の近くに向けた。どうすることも体が動かなかった。
男は目を細めて言った。
「あいつの何処が好かった?」
それはたぶん血夜牙のことを言っていると分かった。何処が好かったって・・・。無理やり契
約されたのに・・・。
それに話せるような感じじゃないしね・・・。
「普通に人間、魔人を傷つけるような奴に。俺達``間外者’’も平気に殺す・・・」
と途中で言うのを止めた。その先は聞いてはならないような気がした。
でも、血夜牙がそんなことする人じゃない・・・。
「血夜牙はそんなことしない!血夜牙はいい人だし、そんなことしたら私!許さないもの!」
思わず声が出た。それにさっきまでの冷たさも恐怖も無くなった。血夜牙のことを思うと心が
あったかくなってきたのかもしれなかった。男は手に有った氷柱を消した。そしてじっと私の
方を見ていた。
「お前は``間外者’’を嫌うか?」
突然の質問で吃驚した。何故そんなことを聞くのかも疑問だったけど・・・。
「別に、嫌いとか好きとかじゃなくて、酷いことをする人が嫌いなことだけ。血夜牙だって酷
いことをする人は嫌いなはず。中にはいい人もいるし、悪い人もいるってことだと思う」
そう、中にもいい人悪い人がいるはず。全部悪いわけじゃない。でも、男は悲しい顔をした。
「貴様みたいな奴が側に居て欲しかった」
「え?」
一瞬言ったことが嘘のように聞こえた。何故そんな悲しい顔をして言ったことに疑問もあった
けど、急にそんなこと言ったことに一番吃驚した。
すると、大きい音が鳴り響いた。私は小さな悲鳴を上げた。それは部室の壁を壊した音だっ
た。目を開けてみると、男が私の壁になっていた。心のなかで沢山の疑問を抱えたまま男を見
ていた。
「彩埜を離せ・・・!寒冷!!」
その声は血夜牙のものだった。そして怒りが込み上げてきそうな声で怒鳴っていた。私はその
声が懐かしくてホッとした。男は私を抱き上げて血夜牙の方を向いてこう言った。
「血夜牙、久しぶりだな」
男の目はまた冷たく染まっていき、冷たい笑い顔を見せた。険悪な空気を漂わせて
いた。
「彩埜を離せ!今すぐに・・・!」
血夜牙の目も真っ赤に染まっていた。二人の目が光輝いていた。ココに居るのが嫌になるほど
の空気だった。私は頑張って息を殺していた。と言うより息が出来ない・・・。
「こいつがお前と契約したとしても、守っていないと取られるぞ。また俺に」
言っている事が分からない。でも、これだけは分かった。こいつは血夜牙の大切な人を奪った
奴だと。こいつの言葉全部が嘘に聞こえてきた。
``貴様みたいな奴が側に居て欲しかった”
あれも嘘だったって事になる。頭の中にその言葉がめぐりまわっている。でも、その気持ちと
反対に男から離れて血夜牙の方に向かって走っていった。でも、それを阻もうと前にあの男が
現れた。
「誰が逃がすと言った?」
冷たい目で私を見下ろしていた。恐怖で体が固まってしまった。今動いたら殺されると思っ
た。
「寒冷!貴様!」
血夜牙の怒りが強くなっていた。いつもの血夜牙ではなくなっていた。
「お前が苦しむところを見たいんだよ。``間外者”による逆襲のために・・・な」
ぎゃ、逆襲?血夜牙が何をしたの・・・?この!悪趣味野郎!!
私は無意識で部具を取り出し、弓を男に向けた。男は怯むことなく見つめていた。男は笑って
いたままだった。
「それで俺を殺そうと?無駄なことだな」
男は彩埜を侮辱するような感じで言った。自分もそう思っている。この人にこんな事通用しな
いって事。でも、自分の身を守ることはしないと・・・。
「お前にも悲劇を見せてやろうか?」
男がスッと手を上げると、二人の人間が見えた。だんだん近づいてきてその姿がやっと分かっ
た。
「お、お父さん?お母さん?」
そ、そんなわけない。そんな・・・!お父さん達は死んだはずなのに、何でココにいる
の・・・?もしかしてこの人の幻影なの?でも、お父さん、お母さんだった。
「そう、お前の親だ。嬉しいだろ?」
男は彩埜の耳元で優しく言った。
「俺に付いて来るなら、また楽しい暮らしが出来るぞ?」
「え?」
騙されているようだった。でも、またお父さんとお母さんと楽しく暮らせるならとても嬉し
い。本当が嘘なのかも区別がつかなくなってきている・・・。
「彩埜。俺に付いて来い」
その言葉に心が奪われたように、だんだん意識がなくなってきた。
小さい頃、どんなに夢を見てきたことか・・・。お父さんとお母さんで楽しく旅行したり、話
したり、ドライブしたり、食事も料理も楽しく暮らせる夢を見ていた。夢でもいい、お父さん
とお母さんと一緒に居られるならそれでいいと思っていた。
『本当に?』
(え?)
急に声が聞こえた、優しい声。回りを見て何処から聞こえたのか探していた。自分の胸を見る
と光っていた。
ネックレスが輝いていたのだった。鍵の取っての宝石が光を放っていた。
『彩埜?』
「え!?」
急に声が聞こえて吃驚した。その声が鍵から聞こえてくることに気づいた。
『彩埜、貴方はそれでいいの?』
ど、どういうことかあまり掴めなかった。
『今貴方が必要な人が居るはずよ?その人を無視して、貴方の幸せだけ望んでしまうの?』
「どういうこと?話が・・・!」
てか、この人は誰なの!?
『私は貴方と一緒に、あの頃に戻りたいわ』
その言葉で少し見当が付いた。この話で私の親だと分かった。
「もしかして・・・、お母さん?」
『でもね、貴方は``今”を生きなければならない。昔じゃない、今よ。彩埜』
私の質問を無視して話した。でも、その声は優しく穏やかに聞こえた。懐かしいその声はどこ
か悲しそうだった。
「今・・・を?」
私はその意味が少し理解できた。私が今思っていることは間違っていること。あと、お父さん
とお母さんとはずっと暮らせるわけが無いことも・・・。昔に戻ったとしても、楽しく一緒に
暮らせるわけが無い。思い出だけでも一緒にいたいと思うのに、楽しい思い出がないのも悲し
いけど、親が悲しい顔をしている思い出だけは嫌。偽者の思い出なんていらない。
『そう、今。貴方はこっちの世界の人じゃない。今の人間なのよ?だから・・・』
そう言うと白い服を着た女の人が一瞬にして私の目の前に現れた。その女の人は私の方を見て
笑った。とても優しい目をしていた。どことなく懐かしい感じがした。
『今を生きて。彩埜』
回りが暗くなり急に明るくなった。
ちゃんとした意識が戻ってきた。目の前に血夜牙が居た。そして後ろに冷たい声が聞こえた。
「さぁ、彩埜?血夜牙を殺せ」
男は私の肩を触り、顔を近づけた。そして私の手に触って武器を渡した。それは冷たく、鋭い
氷の剣だった。
私は一度目をつぶった。そして意識をしっかりさせた。そして私は血夜牙の方を見て言った。
「わたしは、あなたを倒す!」
と言うと後ろを向き男に切りつけた。だが、瞬時に男は避けて距離を置いた。男はまた冷たい
笑い顔を見せた。
「親と一緒に暮らしたくないのか?そいつを殺したらお前が望んでいることが現実になるんだ
ぞ?」
男は両手を上げて叫んだ。
「私が望んでいることは、血夜牙と一緒にいること!!」
私ははっきりと言うと男の方に走っていった。だが男はそれも避けて彩埜の手首を掴んだ。
「本当にいいのか?親と楽しく暮らせるんだぞ?」
男は私の耳元で優しく語る。冷たく、話す。でも、あの言葉を思い出した。
『今を生きて。彩埜』
あの言葉はとても温かく、何よりも愛を感じた。私はキッと男を見た。
「私は今を生きる!お父さんとお母さんは死んだ!真実を見ないことはしない!」
と男から無理やり手を解いて、幻影のお父さんとお母さんに氷を投げた。それは見事に当たっ
て、ガラスのように砕けた。そして回りに月明かりが現れた。
男は笑う。そしてこう言った。
「あの女みたいな目をして、本当にムカつくな」
これが男の本性だと思った。
すると血夜牙は私の前に出てきて、私を守るように前に出た。
「寒冷!お前だけは・・・!」
寒冷は血夜牙に優しく微笑んだ。でも、その微笑みは不気味なほどにその場を凍らせた。
「ゆるさない?血夜牙お前だけは俺が殺す。俺達``間外者”を踏みにじったこと、俺の大切な
人を失ったことも!!」
え、この人も大切な人が居たの?そのことに驚いた。なんだが二人とも同じように感じた。
そうすると、寒冷に目掛けて攻撃が起こっていた。だが、寒冷は素早くそれを避けた。これは
『VH』の攻撃だった。
「大丈夫?彩埜さん」
と後ろから声が聞こえた。その声は空痲さんだった。煙で見えなかった4人も居た。VHの後ろ
に寒冷が着地した。
寒冷はここにいた全員の顔を見ていた。
「誰だアイツは」
蒼が警戒そうに問いかけた。私はよく分からない。でも血夜牙が口をあけた。
「アイツは魔界で、いや``間外者”の中では王と言われている。寒冷。アイツとはいつも城で
会っていた。そして、アイツが私の父、母を殺した。魔界では死刑になっている者」
うそ・・・。こいつが血夜牙のお父さん、お母さんを殺した人。私は体が震えて止まらなくな
った。
怖いのもあったけど、その冷酷さが体に染み渡った。怖いだけじゃない、恐怖、不安、死が回
りに漂っていた。
「少し計画がずれたけど、まぁまぁ、良い方だったと思うけど・・・。まぁいいや」
と寒冷が言った瞬間に5人ぐらいの人が寒冷の周りに現れた。その人たちは後ろ姿しか見せて
くれない。こちらを見せない様にしているようだった。
「俺は復讐をするよって言いたかっただけ。この学園を中心として、この世界と魔界を支配す
る。これがお前に送る復讐。覚えていて彩埜」
急に私の名前を言ったことにも吃驚したけど、冷たい声で言われて震えた。
「君はこっち側の``人間”だ。最後に迎えにくるよ」
また冷たく微笑む。そう言って一瞬にして寒冷、5人組みも消えた。
その場が静かになり、冷たく風が吹いた。それは心も体も冷たくさせるようだった。




