8.誘拐
予定していたように、丈夫な巾着袋に半分程石を集めて、ダミー用に別の袋に近場で薬草を採取して。
すっかり汗をかいてしまったので、周囲に人気の無いのをいい事に、着ていたエプロンワンピースのようなシャツと下に履いていた七分丈のズボンを脱いで下着になり、持ってきていたサンダルに履き替えて小川の中に膝位まで浸かりました。
水は冷たくて、とても気持ちがいい。
バシャバシャと顔を洗い、肌着の裾で顔をふく。
大丈夫、天気がいいからすぐ乾くさ。
そして、ここで問題発生。
誰も居ないと思っていたところに、男がやってきました。
人相の悪い男です。
こっちをみてニヤニヤしてます、主に肌着を押し上げている胸の辺りを見てますね。
あぁ、さっき顔を洗った時に濡れたから肌に張り付いていい感じなんでしょうね、げんなり。
ジリジリと、にらみ合いながら移動し、荷物の場所まで移動して石を半分まで入れた巾着袋を手にする。
袋+オモリ=ブラックジャック(打撃武器)
っていうのは、知識として知っている。
だけど、それを実践で使うとなると、こんなに勇気が要るもんなんですね。
当たったら、下手したら重症~死亡……今の私に殺す覚悟なんてない。
当たらなかったら(※こっちの確率が高い)……抵抗した生意気な女ということで殴る蹴る…、うん、暴力反対。
無抵抗一択で。
服を着るのは認められました。
荷物は駄目でしたが、ポケットに入れっぱなしだった小石はバレませんでした。
「手がかからなくて助かるなぁ」
ニヤニヤとした嫌な笑を浮かべて男が私の手を引いてゆく。
身代金目的の誘拐…はこの世界じゃちょっと無さそうな感じ。
とすると、やはり、人身売買的な方向なんだろう。
嫌な汗が出てくる。
「君には十分な価値が有るからねぇ」
人売で最終回答。
「こんなところで、薬草を集めたりしなくてもいいんだよ。 キレイな服も、美味しいごはんも食べられるようになるんだ」
えぇと……、子供扱いされてる?
「……父さんと、母さんのところに、帰りたい」
うつむいたままでポツリとこぼした声は聞こえているだろうに、男は私の声を無視する。
「君の他にも、同じ位の年の子が居るから、きっと楽しいぞ~。 あぁ、このまま歩いてたんじゃ日が暮れちまう。 おぶってやろう、さぁ、乗んな」
男の声に苛立ちを聞き取ってしまい、怒らせる恐怖から、私に向けられた背中に体を預けてしまう。
これじゃぁ下手をしたら仲の良い親子に見られるのではないか?
男は軽々と私をおぶったまま歩きつづけ、夕方になってどこかの町に着いた。
男は町の警邏と軽く挨拶を交わしたりしながら町中を歩く。
誰も男が私をおぶっている事をおかしく思わないの?
なんで? もしかして、この町全体がグルなの?
冷たい汗が背中を流れ落ちた。