5宿屋の主人
俺は見てしまった。
上客(マモリ)をおこしに行ったカミさんが遅くて、折角作ったメシが冷めるぞと忠告しに行った部屋で。
うちのカミさんと客がチューしているのを!!!
「俺でさえ……(カミさんの方から)朝キッスしてもらったことねぇのに……くそがっ!」
セリフと共に、丼を客の前にドンと置く。
少し親指を突っ込んでしまったのも、意図せぬ報復だ! くそっ!
俺だってわかってる、カミさんから仕掛けているってことを。
そして、カミさんの一方通行だってことも!
だけどな! だけど! ムカつくんだよ!
これで客が体格のいい男ならどうとでもするさ!
今までもそうしてきたように、二度と近づかないように排除するよ!
だけどあの客は、"小さく"て"女の子"なんだ。
殴れねぇ、さすがの俺も殴れねぇ。
小動物好きのカミさんの心を鷲掴みにしやがってぇぇぇぇ!!!
その上、アイツが来てからというもの、ウチの宿の経営が右肩上がりなのも手が出せない一因だ。
経営が苦しいのは薄々気付いていた。
俺はもっぱら食堂担当で、経理はカミさん任せだったが、先代が亡くなってから客が減ってきているのを感じていないわけじゃない。
だけど、アイツが来てから、目に見えてカミさんが元気になって。
アイツがカミさんとこそこそ"勉強会"とやらをやりだして。
異国人であるアイツが、アイメッパ(酸っぱい香辛料)が苦手だっつってげっそりするからという理由で、カミさんの色仕掛けのお願いに負けて、アイメッパ抜きの料理をアイツの故郷の味を再現しながら作ったら。
あれだよなぁ、案外アイメッパが苦手なヤツって多いのな?
アイツの故郷の料理を何種類か店に出すようにしたら、(メニューに※アイメッパは使用しておりません。って明記もさせられた)売上が伸びた。
決してアイツのおかげじゃねぇ! たまたま、アイメッパの無い国の人間が多く来てたってだけで!
……そんなにアイメッパって不味いのかねぇ……。(※アイツは腹壊してたみたいだけど)
厨房に戻って地元の人間用にアイメッパをふんだんに使ったメニューを仕込みながら、俺の作った"おやこどん"という飯を、美味そうにガツガツ食べるアイツをちらりと見る。
まぁ、飯を美味そうに食うヤツに悪いのは居ねぇよな……。
取り敢えず今夜もヤツの隣の部屋で、カミさんを思いっきり鳴かせてやるか。(※嫌がらせ+カミさんがいつもより燃えるので止まらなくなる)