48.告白
事件が終結してすぐに私は護衛付きで帰宅することができたけれど、ノースラァトさんは事後処理があって数日帰宅できなかった。
そのおかげで、どうやって話をするか考える事ができてよかったのか……悪かったのか。
私の胃が微妙に不調を訴えだした日の夜、ノースラァトさんが帰宅した。
事前に帰宅を知らされていたので、食事の用意をして待っていた。
虹色魔石の作成を実演するため、魔力が切れた小粒の魔石を小袋に入れてエプロンのポケットに入れておく。
準備万端で、旦那様を待ち構えた。
「ただいま、マモリ」
ドアを開けて出迎えた途端、大きな体に抱きすくめられた上に抱き上げられて唇に触れるだけのキスを落とされる。
「お帰りなさい」
抱き上げられたまま家の中へ入り、ノースラァトさんが後ろ手に鍵を閉め、もう一度キスされた。
「愛してる、マモリ。無事で、本当によかった」
「そ……それはこっちの台詞です。ラァトさんのあんな、傷だらけ……見て、死ぬかと思った……っ」
抱きしめられた腕の中から、抱きしめ返して首筋に顔を埋める。
「ラァトさんが無事で、良かっ……ぁ」
傷だらけの姿で瀕死だった彼の姿を思い出して、思わず涙が溢れる。
あの時は、やるべきことがあって必死だったから泣かなかったけど、気が緩んだ今は涙が勝手に出てくる。
ひとしきり無事を喜んで、落ち着いてから、やっと玄関から離れた。
唇が熱く腫れぼったくなっちゃったのは仕方ない事です、数日ぶりだし途中あんなことがあったんだから。盛り上がるなという方が無理です。
食後、早速切り出そうとしたら、あれよあれよという間に入浴、寝巻きに着替えさせられて寝室に連行された。
ベッドの上で剥かれかけたところをなんとか押し止め、ベッドの上に正座して、不服そうな顔のノースラァトさんと向き合う。
「……今でなければならんか?」
腰を抱き寄せられ、彼の膝の間に入り込む至近距離で向き合う体勢になる。
厚い胸板に手をついて突っ張り少しでも上体を離すようにすると、諦めたのか引き寄せようとする力が弱くなった。
「あの……ね。虹色魔石、の事なんだけど……実は…」
舐めて作るなんて人外な製造方法を言い出せずにもじもじしていたら、がばっと抱き寄せられた。
「手持ちがなくなったらなそれでいいんだ。もう、入手できないならそう言ってくれればいい。今まで無かったものなんだから、これから先無くても問題はない」
え? え?
「君が結婚してから、誰とも接触をしていないことは知っている。私と結婚したことで、魔石を得ることができなく――」
「結婚してからも、魔石を渡してたよね? 私」
暴走気味のノースラァトさんを遮ってそう言えば、うぅむ、そうだな、と考え込まれた。
「手持ちの魔石を隠してあった、のか?」
「少しはストックしてあるけど、違うわよ。それよりも、なんで私が誰とも接触してないって言い切れるの?」
引きつりそうになる頬を堪えながら、彼を見上げて小首を傾げれば、顔ごと視線を逸らされた。
よくよく聞けばなんてことはない、護衛兼監視を付けられていただけだった。
「君の仕入れルートを調べるつもりじゃなかった、君の安全を確保するためだった」
もしノースラァトさんにそのつもりはなくても、彼以外の人たちの思惑としては……。
彼もそれはわかってるんだろう、歯切れが悪い。
「……すまない、マモリ。それでも、君の安全を優先したかったんだ」
そう言って、ぎゅうっと抱きしめられてしまえば、詰ることができないじゃない。
今回は護衛がついていたにもかかわらず、こんな事態になったことも、彼が気に病む要因だった。
「もう、終わったことだし、いいよ。そうじゃなくて、ね、貴方にいわなきゃならない事があるのは、魔石の作り方なの」
意を決して説明する。
「実は……虹色魔石は、私が作ってるの」
案の定、首をひねったノースラァトさんに、持ってきてあった小袋から、魔力切れの小さな石を取り出して、一度それを手にとって確認してもらう。
「石を舐めていると、魔石になるの」
すり替えなんかしていない証明として、石に傷を付けてもらった上で、彼の手で口に入れてもらう。
「この石は小さいから、そう掛からないと思うんだけど……。普通の大きさの魔石だったら、三時間くらい舐めてなきゃできないの」
口の中でころころと小石を転がしながら、時折舌先に小石を乗せて変化を確認してもらう。
「本当に……魔石になった」
すっかり虹色に変わった小石が、舌先から取り上げられる。
「あ、ちょ、待って! 今、磨くからっ」
唾液まみれだから布で拭いてから渡そうと思ったのに、全く気にせずに小さな魔石をしげしげと見つめる彼の手から取り上げ、ごしごしと布で拭ってから彼に返した。
「気にしないのだがな」
「わ、私が気にしますっ」
本当は水洗いもしたいくらいなのに!
「虹色魔石の作り方は理解した。小石以外のものを舐めても魔石にならないこともわかったが……。正直に言えば、もう魔石を作ってほしくは無いな」
……やっぱり、舐めて作ったものなんて、嫌だよね……。視線が下がってしまった私のあごが持ち上げられ、上を向かされた唇を彼の指が撫でる。
「マモリの、この可愛い口が含んだ石を、誰にも渡したくないと思うのは当然だろう?」
そう言って、唇が重ねられて口腔を軽く舐められる。
でも、虹色魔石があれば、マコトさんの魔道具の幅も広がるし、ハイリディーンさんに使ってもらえば土木工事がとても捗るし、ザーレンさんに使ってもらえれば、たくさんの人を助けられる。
私がそう言い募れば、抱きしめられて髪の毛を撫でられた。
「……判ってる」
髪の毛に顔を埋めて、くぐもった声で彼が応える。
「マモリの作る魔石の有用性は、わかってる。……私の独占欲だ」
そう言いながら、唇を奪われる。
「私を独占していいのは、ラァトさんだけ、よ?」
息継ぎの合間にそう伝えて、恥ずかしすぎて自分から彼の首に腕を回し、その唇に吸い付いた――




