47.事後
――王宮を総て網羅して金色の癒しの雨が降り注ぎ、総ての魅了が解除され、戦って傷ついた人々も回復した。
二歳児くらいまで若返ってしまったフィーグレイスに今回の罪を問うこともできず。
そもそもの発端である虹色魔石の存在を国外に出したくないうちの国。
その虹色魔石を使って、瞬間的に長距離移動できる魔道具の存在等々をまだ隠していたいエイ・イレン国。
そんなわけで、魅了に掛けられていた間の記憶は残っているため、話し合いはとんとん拍子で進み。
うちの国とエイ・イレン国はより強固なつながりを約束し、今回の件は無かったことになった。
そして、今回の一番の功労者はザーレンさんに決定された。
もう何百年も使う人が居なかった大きな魔法を行使して、王様や国の偉い人たちを救った功績が認められたみたい。
不遇の魔術師と呼ばれる人たちが、それぞれの魔法に特化しており、それが"不遇"などと蔑まれることは不当なことであり今後は差別を認めぬと王様が宣言したので、彼らの地位が見直されるようになったことを、ザーレンさんはとても喜んでいた。
「いえ、うちの馬鹿上司の事ですから、単純に虹色魔石の保有を認められたことを喜んでいるだけでしょう」
事件が収束して数日後、謝罪に来てくれた土魔法に特化した魔術師であるハイリディーンさんが冷静にそう言っていた。
彼女はあの日、牢の塔に入れられていたザーレンさんを救出し、王の間まで連れてきた影の功労者だった。
「あのときのわたしにそのような意思はありませんでした。ただ、彼女の意向に沿うように行動しただけ……」
魅了の魔法に掛かっていた自分を恥じて、彼女は肩を落とす。
「今後は国の発展のために、自分の能力を生かしてゆきたいと思います」
そう言う彼女にノースラァトさん立会いの元、虹色魔石を渡して実験をしてもらった結果。彼女も土魔法の最上級魔法を行使して、五年工期で建設予定の大掛かりな橋の基礎部分を一瞬で作り上げてしまった。
クールな外見を裏切って、思い切りガッツポーズを作る彼女。
着工が始まっていた工事だったので、作業に集まっていた人たちのポカーンとした顔。
そして唖然としていた顔が、一気に輝きだした王宮から出向している現場監督が、頬を上気させてハイリディーンさんの腕を掴む。
「基礎さえできれば、残りは半年も掛からずに完成できます! あっはっはっは! 素晴らしい! 余った資材でもう一本橋を作っちゃいましょう! 魔術師さん、よろしくお願いしますねっ! じゃぁ次の橋の設計図を起こしますから、一緒に来てください! 今度はもっと立派なのを作りましょうねっ、まずは設計図をしっかり頭に叩き込んでくださいねっ! 今みたいに中途半端なのじゃなくて、きっちり作りましょう!」
「え? あ、は、はぃ? え? え?」
テンションの高い現場監督に拉致されたハイリディーンさんは、そのまま帰ってくることは無かった。
以上の事により、地位の向上した"不遇"改め"特化型"魔術師達は、それぞれの特性に合わせて適材適所に配置されることになった。
虹色魔石を使用して最上級魔法を使える魔術師さんは、治癒魔法のザーレンさんと土魔法のハイリディーンさんともう一人水の魔法に特化した人だけで、次点で上級魔法を使える特化型魔術師さんが過半数、普通の魔術師さんは誰もそこまで到達することはなかった。
普通の魔術師さんはどうしても広く浅く、になってしまうみたいだ。
虹色魔石は一元管理され、必要に応じて配給されるような仕組みが作られたみたい、詳しいことは教えてもらってないけれど。
推定二歳児まで若返ったフィーグレイス改めフィーリスちゃんは、二歳児まで後退してしまったせいか記憶があいまいなようで、普通の幼児にしか見えない。
「そのほうが良いんじゃないのかな。もしかしたら、これから先、記憶がはっきりしてきて悩む事があるかもしれないけど。そのときはボクが彼女を支えていくよ」
そんな男前な発言をした青年姿の虎太郎さんが、フィーリスちゃんの保護者になった。
彼の秘密の自宅に保存してあった、年をとる薬で年齢を上げたそうだ。
「子供のままじゃ、この子を育てられないからね」
そう言って、腕の中で眠る彼女をそっと抱き寄せる。
――彼はちょっと危険な人なんじゃないかと思わなくも無かったりするんだけど。(もにょもにょ……)
なにせ、子供になったフィーリスちゃんの処遇を、口八丁手八丁で虎太郎さん預かりにし、戸籍を王籍から抹消させて個別につくり問答無用で連れ去ったところだ。何より胡散臭いのは、彼女を彼の養子や実子にしなかった事なんだけど……きっと彼が深く考えた理由があるんだろうと思…いたい。
一抹の不安はあるものの、青年虎太郎氏の微笑みに黙らざるを得なかった。
もし何かあるようだったら手と口を出そうと、既にマコトさんと話し合ってある。
虎太郎さんと対決するなんて怖いから、何も有りませんように、と心から願っている。
そうそう、あの事件の後すぐ、ノースラァトさんに総てを告白しました――




