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虹色魔石の生産者 EX  作者: こる


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42/50

42.通話

「このまま一度国境を越えます。国境を越えた後は、近くの町に潜伏し、王城内の者と連絡をかわしながら判断するようになります」


 馬を歩かせながら女装魔術師……ヒルランドさんが説明してくれた。

 虎太郎さんは荷台でくつろいだ様子で足を伸ばして、流れる風景を眺めている。

 舗装されていない道なので、お尻が痛いけれど、私が歩くよりは全然早く移動できるから、文句は言えない。


 ぼんやりする時間が出来ると、私は左手のひらの……薄くなった痣に触れる。

 ノースラァトさんとの繋がりを示すその痣の色は、今も色が戻らない。


「旦那さんが心配?」

 手を見つめていた私に、虎太郎さんが優しく声を掛けてくれる。

 私は顔を上げて頷くと彼は幼い顔に大人びた笑みを浮かべる。

「大丈夫ですよ、絆は切れません。僕たちが思うよりずっと、そのしるしは重いのです。想い続けてあげてください、旦那さんの事を。そうすれば絆は強くなる」

 泣きそうな微笑で言われ、胸がぎゅっと熱くなった。

「ボクにも居たんですよ、大事な人が。色々あってね、もうこの世には居ないけれど」

 そう言って、心臓の上をギュッと握りながら遠くの景色を見る少年姿の彼に、壮年の男性の姿が被って見えた気がした。


 荷馬車に揺られながら、私は痣を握りこんでノースラァトさんを想う。


 最初はちょっと面倒な、大口の客だった。

 それから、人攫いに誘拐された時に助けてくれた。

 そのまま、なし崩しで結婚してしまったけれど、後悔はしてない……ノースラァトさんは私の事を大事にしてくれるし、私もノースラァトさんの事を……。

 泣きそうになるのをぐっと堪える。

 今泣いたって何も始まらない。

「もう一回マコトさんに連絡取ってみようか」

 私の頭を撫でた虎太郎さんがそう言って懐中電話を取り出した。


 何度かコールを掛けると……応答する声が聞こえた。

「『マコトさんですか? こちら虎太郎』」

 日本語で通話を始めた虎太郎さんに、ヒルランドさんがチラリと視線を向けたけれど、無言で正面に視線を戻し馬車を進めた。

『誠よ、虎太郎さんもしかして守ちゃんと合流できたのかしら?』

 落ち着いたマコトさんの声が聞こえてきて、ほっと胸を撫で下ろした。

「『合流できたのですが。ご存知でしたか? フィーグレイス姫が黒幕のようですよ』」

 フィーグレイス……姫? 私が首を捻っている間にも、彼らの会話は続く。

『……まだ、居たのねあの女。そういえば、エルルーシュの人間だったわね。でもアノ程度の能力なら、さほど危険視するような相手ではないわよね?』

「『能力だけならな、だが虹色魔石を手に入れた。侮ることは出来ないよ』」

『……ニジイロ魔石?』

「『守ちゃんの作る虹色の魔石のことだ。全ての属性を有する……電池のような魔石だ』」

 懐中電話の向こうでマコトさんが息を飲んだのがわかった。

 そして、歓声があがる。

『ちょ、本当!? なんてこと! すごい!』

 懐中電話の向こう小躍りしてるのがわかる、ついでになんだか色んなものを引掛けて倒しちゃって慌ててる音も聞こえた。

『そしたら、アレもあれも、動かせるかもー! 凄ーい! ああんどうしよう! 虎太郎ちゃん、マモリちゃん連れてこっちに来れない!?』

「『落ち着け』」

 眉間にしわを寄せた少年が、苦々しく電話の相手をなだめる。

『落ち着けるわけがないでしょ! ずっと求めてたのよ』

「『わかってる』」

『本当にわかってるの? ……ま、いいわ。ねぇ、近くに手ごろな箱なんてない?』

「『ない』」

『簡単に返事しないで、本気で探して。30センチ角以上の大きさの箱と記述棒きじゅつぼうを用意したら、もう一度電話して。もうこっちの魔石が切れそ――』

 言い終える前に通信が切れてしまった懐中電話を、虎太郎さんはそっと片付けた。

「本当に……彼女は慌しくていけない」

 深いため息を一つ吐いた虎太郎さんだが、過去にマコトさんと何かあったんだろうか。

「え、ええと? 記述棒と30センチ角以上の箱を用意するんですよね」

 マコトさんの言葉を復唱しながら、記述棒がなんなのか良く分からないのでとりあえず箱を探そうと思う。

「記述棒ならわたしが持っていますよ。これでも一応魔術師なので」

 ヒルランドさんが女装のまま低い声で御者台から応えてくれた。そして馬車を操りながら、腰に付けたバッグから固そうなチョークっぽい棒を取り出す。

 そういえば、前にこのチョークでノースラァトさんが音を遮断する円を描いてたっけ。あー……その時に婚姻の契約したんだよね。

「おや、丁度良かった。箱ならばボクが持っていますから。ヒルランド君、ちょっと木陰に馬車を停めましょうか」

 箱持ってるんですか、さっき無いとか言ってたのに……。

 私の視線に気付いたのか、虎太郎さんは小さく肩を竦めた。

「『同郷だからといって、仲良しこよしなわけじゃないんですよ。彼女はせっかちなので、時々ちょっと間を取らないと、こっちが疲れてしまいます』」

 嫌いなわけではないから大丈夫だよ、と頭を撫でられてしまった。


 虎太郎さんの指示に従って、街道を少し入った木陰に馬車が停められる。

 木陰に荷台の上で、荷物を漁る虎太郎さんが昔語りをしてくれた。


「15年くらい昔の話なんだけどね、この国のお姫様がエイ・イレンの王様のところに側室として輿入れしたんだよ。ボクも少しだけ見たけど、とてもきれいなお姫様でね。エイ・イレンの王様だけでなく、宰相も、将軍ですら彼女に夢中になった。誰にも知られていなかったけれど、実は彼女は不遇の魔術師だったんだ。昔から人を惹きつける魅力を持っていたらしいけど、彼女は嫁ぎ先のあの国でその力を正しく理解し、開花させたらしい」

 ヒルランドさんにも聞かせるためにか、こっちの言葉でする話を私もヒルランドさんも黙って聞いていた。

「彼女は正妃の座を望み、王を傀儡にしようとしていたのかな、とにかく自分がちやほやされるように周囲に魅力を振りまいて……結果、国政が傾きかけた。そこを邪魔したのが、そのときは一介の魔道具師だったマコトで、邪魔するときに使ったのがボクの作った"老化促進薬"。だからフィーグレイス姫はあんなおばちゃんのような外見だけど、本当は30歳前後なんだよ」

「え? 50歳くらいかと思ってました」

「そう見えるだろう? 国を騒がせた彼女だったけど友好国の王族だから、エイ・イレンで罰することはせずに、国許に戻すことになったらしいね。薬の影響なのか、魅了の力は減ったはずだけど、虹色魔石で野望というか、欲望が再燃したのかもしれないね……まったく、愚かな子だよ」


 最後のほうは、つぶやくように零し、ああ、あったあったと、リュックの中から箱を取り出した虎太郎さんは、ヒルランドさんの出してくれた記述棒も用意して、再度懐中電話のスイッチを入れた。


 

 

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