33.安息
フィーグレイス様は温かい腕で私が落ち着くまで抱きしめて、涙をハンカチでぬぐってくれた。
「もう、大丈夫かしら? マモリ」
フィーグレイス様と目を合わせて名前を呼んでもらうと、心がフワッと暖かくなる。
「はい、大丈夫です。 ありがとうございました」
ぎこちなく微笑み返すと、フィーグレイス様は満足そうに頷いてくれた。
ふわふわとした心地よさのまま、隣室に案内される。
フィーグレイス様と二人で軽食を取り、そのまま部屋にあったベッドを貸してもらうことになった。
「今日は疲れたでしょう? 何もかも忘れて、ゆっくりお休みなさい。 起きたらたくさんお話しましょう? マモリのご両親のこと、マモリの育った故郷のこと、たくさん聞かせてね」
おでこを合わせて目を見つめるのは恥ずかしかったけれど、フィーグレイス様の瞳は不思議に優しい色で、見ているだけで心が軽くなる。
「はい、たくさん、おはなし、したいです」
抗いがたい眠気に抵抗しながら、笑顔を作って約束を繰り返す。
パタリとドアが閉まる音を聞きながら、寝入る間際の心地よさの中でフィーグレイス様とのやさしい約束を反芻する。
寝て起きたら、フィーグレイス様にたくさん聞いてもらおう。
フィーグレイス様なら私の全てを受け入れてくれる、私の故郷が違う世界であることも、私が虹色の魔石を作れる特異体質であることも……ノースラァトさんにも言えなかった秘密もぜんぶ―――。
―――マモリッ!!!
「っ!?」
突然響いた悲痛なノースラァトさんの声に、ぼんやりしていた頭が一瞬でクリアになった。
―――マモリッ!! マモリッ! マモリッ!!
叫び続ける声は必死で。
そういえば、ノースラァトさんが私を探してくれてたんだ、と思い出して、それから、マコトさんの事も思い出した。
ああ、皆にもう大丈夫なんだって事を伝えなきゃ。
眠いのを堪えて、なんとかノースラァトさんに意識を向ける。
「ラァトさん、ラァトさん。 私はもう大丈夫です」
左手を口元に持ってきて、そう囁く。
―――マモリ! どこに居るんだ! そこがどこかわかるか!?
大丈夫だと伝えたけれど、まだ焦った様子のノースラァトさんに、なぜだろう、胸がざわざわする。
「ここ、ですか? えぇと、多分ですけど、前にラァトさんに連れてきてもらった、お城の上の方にある部屋のどれかだと思います。 でも、本当にもう大丈夫ですよ、―――様が私を守ってくれるって約束してくれましたから」
―――誰と? 誰と約束をしたと!?
ノースラァトさんに聞き返されて、何度もフィーグレイス様と伝えようとしたけれど、なぜか名前が言葉にならなくて歯がゆい。
―――話せぬように魔法を掛けられたんだろう、無理はしなくていい。 今マモリは一人で居るんだな?
確認されたので、休むように言われて一人でベッドに入っていることを伝える。
―――わかった、もう少しだけ待っていてくれ、
大丈夫だよ、もう大丈夫なんだよ……だから、ラァトさん………そんなに心配…しないで……
布団の暖かさもあって、ふっと意識が途切れると、ノースラァトさんの声が遠くなる。
声が聞こえなくなるとノースラァトさんが恋しくなって、彼の腕の中で眠りたいな……いつも隣にある温もりが無い…のが……寂しい。
あの、力強い、私を守ってくれる、腕の中で……
フィーグレイス様がくれる安らぎとは違うけれど、暖かくって心地よいあの場所が恋しくなる、ノースラァトさんに会いたくなる―――
―――マモリ、マモリッ……
ノースラァトさんの声が……子守唄のようで…安心して………ぐぅ――




