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虹色魔石の生産者 EX  作者: こる.


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31/50

31.通話

『もしもし、聞こえますか?』



 その女性の声は日本語だった。



「『も、もしもし! き、聞こえますっ!』」

 慌てて懐中電灯を耳に当て日本語で応えると、今度は向こうが沈黙した。

「『もしもし! あのっ、あの、もしかして、熊川さんですかっ?』」

 焦って聞く私の声に、電話の声がハッとする。

『え! えぇ、ええ、そうよ、熊川誠よ! 貴女は? 貴女はどなたなの?――――』

「『私は西村、西村守です――――――っ』」


 本当に! 本当に居た! 居たんだ! 居たんだこの世界に日本人がっ!

 懐中電灯を握り締め、ぼろぼろと涙が零れ落ちる。

「『に、日本人っ、日本人ですよねっ、あぁあっ本当に…っ! お願いっ、助けて…っ、元の世かい…にっ 帰……っ』」

 大きく嗚咽する私に、懐中電灯からオロオロと私を日本語で宥めてくれる女性の声に、この世界に来てから張り詰めていたものが緩んだ。



『マモリ、マモリちゃん、大丈夫、大丈夫よ、ほら、大きく息を吸って~、吐いてぇ~』


 やさしい声に促されて深呼吸を繰り返して、なんとか呼吸が元に戻った私に、懐中電灯の向こうからほっとした気配が伝わってくる。

『マモリちゃんは今どこに居るの? エイ・イレンではないわよね?』

「『……そこから半年ぐらい離れた場所らしいです。 えっ…と、国の名前は良くわからないんですけど、魔石が豊富に採れるので有名な国だそうです』」

『あぁ、ということは、そこはエルルージュ王国だわ、確かに遠いわね』

 本当に半年も離れた場所に居るんだ……、簡単に会えない場所に…。

「『会えない、ですよね……』」

『そうね、直ぐには会えないわ。 でもあれよ、今なら割と近くに、虎太郎さんが居るから会えるように手配できるわ』

「『こたろーさん? って、もしかして、他にも日本人が』」

『えぇ、あやしげな薬屋をやっているわ。 それで、マモリちゃんの詳しい現在地を教えてもらえるかしら』


 く、詳しい現在地……。

 懐中電灯の明かりでぼんやり明るい洞穴を見回して状況を思い出す。


「『あの、今、私、誘拐されていて…』」

『は? 誘拐!? 大丈夫なの!?』

 慌てた声に、とりあえず大丈夫です、と返す。

「『お城にある、"牢の塔"という場所の勝手に掘られた地下洞窟に閉じ込められてるんですけれど』」

『全然大丈夫じゃ無いわよそれ! お城っていうことは、首都かしら? 牢の塔という場所なのね。 あぁもうっ! 急がなきゃ! 大丈夫だからね! 絶対に助ける、助けるわ――今度こそ、絶対に助けるからっ』

 今度こそ?

 マコトさんの必死な様子に気おされて深く聞けないけれど、助けてくれようとしてくれてるのはしっかりと伝わって来て、嬉しくてまた涙がぼろぼろ零れた。

『これでも宮廷勤めよ! こんなときに権力を使わないでどうするの、使うなら今でしょう! その場所、王都だとは思うけど、もしかしたら他の街っていう可能性もあるから、他に何かマモリちゃんの情報をくれる?』


 促されて、今の季節感や定宿のこと、あと、成り行きで結婚してしまった旦那様であるノースラァトさんの事を伝えた。


『あらぁ……。 そう、結婚しているのね、なら、体のどこかに婚姻のシルシの痣はある?』

 聞かれて左手に痣があることを伝えると、何か考えるような間が空いた。

『―――とりあえず、良かったわ。 あのね、その"婚姻の証"で貴女と旦那様は繋がっているの。 だから、そのシルシを通してノースラァトさんに呼びかけて。 相手も貴女の事を探していれば、その声が届くから』

 そんな事があるの? いや、でも、魔法や魔石があるこの世界ならありえないことじゃない。

『じゃぁ、マモリちゃんは旦那様に呼びかけてて、私の方でも動いてみるから』


 了承すると、携帯電話の通話は魔石の消耗が激しいから、なるべく電源を切って置くように言われ、時々状況確認の為に電源を入れるようにと指示された。



 懐中電灯型携帯電話の電源を切ると、また周囲が暗く閉ざされた。



 真っ暗で、無音の世界は怖いけれど、さっきまでの怖さは無くなった。


 懐中電話(懐中電灯+携帯電話)を抱きしめ、左手を口元に持ってくる。




 ひとつ深呼吸して、口を開いた。

「のーすらぁとさん。 ラァトさん聞こえますか? お願い、助けて―――っ」






 恥ずかしいので、囁くように手のひらに話しかけながら、いつも私を抱きしめてくれる、ゆるぎない腕の強さを思い出す。 


「のぉすらぁとさん……」

 何度も呼びかけるとなんだか寂しさが増す。



 あの日からずっと、夜は彼の腕の中で眠っていた。

 私より高めの体温に寄り添うと安心できた。

 大丈夫、今日もちゃんとお家に帰って、ノースラァトさんと一緒に寝る。

 だから…だから。



「ラァトさんお願い……私を見つけて……助けて……っ」

 

 祈るように膝の上に両手の指を組み合わせて、おでこをギュッと押し付ける。

 左手の"婚姻の証"である痣がほんのりと暖かく感じて胸が熱くなる。

 今は暗くて見えないけれど、そこにはピンク色の痣があるはず。


 成り行きで結婚して、まだ日も浅いけれど、それでもノースラァトさんとは間違いなく夫婦で。

 ノースラァトさんも多分…私のうぬぼれでは無く私の事を好きでいてくれて、私もノースラァトさんの事を……。

 

「ラァトさん―――」


 マコトさんの声を聞いて湧き上がった郷愁で、日本に帰りたいという思いが膨れ上がったけれど。

 きっと、帰る術なんてないんだろうな、マコトさんやジュゲムさんがこの世界に居るのがその証拠だろう。


 それに……私が帰ってしまったら、ノースラァトさん……悲しむよね…?

 私も離れ離れになるのは寂しいと思うし……。



「のーすらぁとさん……ラァトさん…すき、ですよ」


 まだ本人には言った事がない告白を唇に乗せて、そっとため息をつく。

 



 ――――マ モリ … っ



 遠く、切れ切れの音が聞こえた気がしてハッと周囲を見回し、左の手のひらに視線を戻す。

「ラァトさん? のぉすらぁとさんっ!」

 本当に"婚姻の証"は声を届けてくれた。


 ―――マモリっ無事かっ!――いまどこに……


 確かに聞こえるノースラァトさんの声に、緩くなっている涙腺がまた涙をこぼす。


「ろ、牢の塔ですっ、そこの地下っ、魔術師の女の人が勝手に作ったっていう地下に閉じ込められててっ」


 ―――魔術師の女……閉じ込め…?


「はいっ、な、名前は、えぇと、えぇと、思い出せないですけど、土の魔法だけを使える女の人と、その上司で治癒の魔法だけ使える人で」


 ―――ああ……奴らか、わかった。


 本気で忌々しそうな声が聞こえてくる。

 ノースラァトさんも知ってる人なのか…多分、悪い意味の方で。

 

 ―――場所は、わかった。 もう少し、待っててくれ…いま………。 あぁすまない、大丈夫だ、いま行くから、私のことだけ考えてろ、マモリ。


 

 途切れ途切れになりながらのメッセージは、どうやら回りに他の人が居るようで、それ以降声は聞こえなくなった。

 お互いに集中していないと繋がらないのかもしれない。



 よし、とりあえずノースラァトさんと連絡が取れたことをマコトさんに伝えよう!

 体育座りで抱えていた懐中電灯ケータイの電源を入れようとスイッチに手を掛けた時。



 ガラガラガラガラ……っ



「う…わぁっ……」

 背後の壁が突然崩れ落ちて驚いたけれど、ノースラァトさんが来てくれたのだと確信して振り向いたそこには……夜目にわかるほど顔色の悪い上司魔術師と土魔法使いの女魔術師の二人が立っていた。

 


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