3.そんな理由で魔石ゲット
私が虹色魔石を作れるようになったのは、偶然なのか、必然なのか……私には、まだ判断できない。
約4ヶ月程前、私はこの世界に来た。
ぶっちゃけ、死ぬかと思った。
主に空腹で。
どこをどうしてこの世界に居るのかわからない。
右も左もわからない。
見たこともない建物。
見たこともない人々。
聞いたことのない言葉。
奇異の目。
だけど殺されなかった。
殺されはしなかったけれど、救いの手も無かった。
どうすれば死なないか、生きていけるか。
脳がフル回転して、学生時代でも無かったほど必死で、この国の言葉を覚えた。
とにかく言葉ができなくては、生き延びれない。
必死だった、路地に身を隠しながら、道行く人の言葉を聞いてシュチュエーションで見当をつけて、言葉をマスターしていった。
着ていた服はすぐに汚れて、異世界製だろうがなんだろうがわからなくなった。
路地に居る他の浮浪者の中にすぐに紛れた。
いや、敢えて汚れて髪を乱し、溶け込むようにした。
だけど、やっぱり現地の人とは違うので、他の浮浪者が町の人から施しを受けることがあっても、私に施しをくれる人は稀だった。
飢えた。
飢えたよ、凄くお腹が減ってね。
仕方がないから、町のはずれを流れている綺麗な小川で水を飲んでお腹を満たした。
何度もお腹を壊したけれど、飢え死ぬよりましだった。
それでも、水だけで生きていけない。
川に居る魚を取って齧り付いたけれど、ウロコが口に刺さるし、身を噛んだら変な臭いがして吐いてしまった。
ほかにも野草をかじったり、木の実を口にしたりしたけれど、どれもこれも食べられないものばかりだった。
飢えがピークに達し。
川底に転がっていた丸い石が、なんだか飴に見えて。
口に何か入れていたら、少しは空腹が紛れるんじゃないかと、それを拾って舐めた。
舐め続けて、顎がだるくなった頃、プッと石を吐き出せば、石の色が変わっていた。
見たこともない…夜目にもわかる虹色の石。
あまりに綺麗だったから、その石を町の宝石店へ持っていった。
勿論汚いまんまだと門前払いだろうから、夜を待って、服を脱ぎ、川へ入って泥を落とし、なけなしの力を振り絞って服を洗った。
翌朝、店のまだ開いていない時間にかかわらず、店の戸を叩き気難しそうな店主に頼み込んだ。
店主は眉間に皺を寄せたまま、私の差し出した虹色の石を受け取ると、ルーペのような物でしげしげと石を見たあと、低く唸って、店の奥から出してきた20センチ四方の箱の中に虹色の石をそっと入れた。
「君は、これを何処で手に入れたんですか?」
箱をひとしきり覗き込み、唸った後、取り出した虹色の石を持って奥にあった応接セットに通された。
「この石は…、いや、この"魔石"は、すべての属性を有している。 もう一度聞く、君はこの魔石を一体どこで、どうやって手に入れたんですか?」
その時初めて"魔石"という存在を知った。
宝石よりも価値があるようだ、そして、私のつくったこの虹色の魔石は、店主を唸らせるモノなのか。
下手は打てないことをひしひしと感じながら、この魔石は故郷から持ってきた宝物にしていた石なのだと説明した。
「小さい頃山の中で見つけたものなんです、あんまり綺麗だったからずっと持ち歩いていたのですけど。 もしもお金になるのでしたら、どうかお願いします、買い取ってはいただけませんか」
店主は渋い顔をしたままだったがゆっくりと一つ頷くと、その虹色の魔石を買い取ることを承諾してくれた。
私は店主から二十万というお金を受け取った。
それが、1ヶ月の平均的な世帯収入だということは後で知った。
店主は後見人もない小娘を相手に、これ以上無い程誠実に取引してくれたのだ。
そうして私は、路地裏生活から一転して、まともな宿屋で寝食を得ることができるようになったというわけですよ。