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虹色魔石の生産者 EX  作者: こる.


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26/50

26.メッセージ

 寝起きが温いのは確かに気持ちがいいんだけれども。

 腕枕って、案外寝にくい。

 それも極太の腕なので、余計に。



 明け方目が覚めて、寝違えそうな高さの腕枕に、寝ぼけた頭のまま寝やすい位置を探して身動ぎして。

 ゴソゴソと温かい体の上に這い上がり、肩口に頭を預けるようにして体をピタリと熱源に沿わせたジャストフィットポイントを見つけ出した。


「ん……。 マモリ?」

 動揺したような掠れた声が聞こえた気がしたけれど、睡魔には勝てません。

「も、少し…、寝よぅ?」

 どうせまだ薄暗い明け方だし、まだ時間は大丈夫。

「ね? も 少し……」


 ぐぅ







 二度寝は最高です。


 ただ、抱き枕にされた方はたまったものじゃなかったようですが。


 ノースラァトさんは無言で起き上がるとおもむろに体を伸ばし、ぐりっぐりっと左右に体を回してコリを解しておりました。

 私のせいで寝返り打てなかったわけで……誠に申し訳ない感じです。

 でも私はかつて無くスッキリです!

 ベッドの硬さが丁度良かったし、何より温かかった。


 また、今夜も一緒に眠れたらいいなぁ、って思うくらいに、ノースラァトさんにくっついて寝るのは心地よかった。

 あーでも、ノースラァトさんが体痛くなるようなら無理かな。




 ノースラァトさんが着替えている間に先に下に降りる。


 台所で顔を洗い、トイレを使う。


 このトイレもとても懐かしい……といいますか、和式の水洗トイレです。

 宿ではボットン式トイレだったのに、堀の内側の街は下水が整っているみたいです。




 ………まさか、ねぇ?



 ドキッとした胸を抑え、落ち着け、落ち着け~、と繰り返し、呼吸を整える。

 もし、そうならば……私の他にこの世界に日本人あるいは向うの世界の人が来ているかもしれない。


 いやいや、期待してはいけないぞ、うん、期待して違った時どうするね。

 きっとこの設備は、この世界の人達が、独自に発展を遂げた文明進化の形態であるに違いないわけでござる。(混乱)




 そんな風に、自己暗示を掛けたわけなんですが、バッチリ覆されました。


 朝食を屋台で食べた帰りに、昼食は自炊できるようにと食料品や最低限の食器なんかを買い込んで帰宅したのですが。

 電化製品(魔導製品?)の電源である魔石が切れていたので、電池交換ならぬ魔石交換をしたのです。


「この後ろにあるフタを開くと、ここに魔石を入れる場所がある。 古い魔石を外して新しい魔石を入れればすぐに使える」


 冷蔵庫の裏の板を外すと、白い文字でびっしりと………日本語が書かれておりました。


「ああ、コレを見るのは初めてか? ここにある魔石を取り替えれば動くようになる。 ああ、この文字は消さないようにしてほしい、消えると魔道具が使えなくなる」


 白い文字…日本語を食い入るように見る私に、そう説明してくれる。

 少し右上がりの文字は、冷蔵庫の裏の面にびっしりと書かれていた。 

 まるでパソコンのデーターベースソフトや表計算ソフトの関数を混ぜたような…無茶苦茶な式が日本語で書かれている、ところどころ英語も記述記号も混じっている。

 間違いなく、これを書いたのは日本人だ。


 ノースラァトさんが新しい魔石を古い魔石と取り替えた。



 ブ…ン と低い音がして、冷蔵庫に魔力が供給されたのが分かる。

 冷蔵庫の背面の板をノースラァトさんが戻すのを惜しく思いながら、後で…ノースラァトさんが仕事に行っている間にでも、じっくり読もうと心に決めた。

 

 他にも、コンロをひっくり返した裏にも、給湯機にもびっちりと書かれていた。


 後で読もうと思ったけど、目に入った一文に後回しになんかできなくなった。




 Private Sub コンロ_BeforeUpdate(Cancel As Integer)

  'もしも、私以外の日本人が居たらどうか、応えて 私は、熊川誠 くまかわまこと、20☓☓年8月の日本からこの世界に来ました

  Me.Refresh

 End Sub




 プログラムの合間にそうしてメッセージが記されている。




 '私はこうして魔道具師として生計を立てています。 だからどうぞ私を頼ってきてください、助けあいましょう


 '私は大陸の北にある、エイ・イレンという国に居ます


 '一緒に、日本に帰る方法を探しましょう


 '生きて、日本に帰りましょう


 'どうぞ、連絡を下さい私の住所は☓☓☓☓☓~です







 生きて、日本に…帰る。


 あ……あぁ……っ、そ、うか、帰る方法…っ!


 他の魔道具を見たけれど、それぞれプログラムこそ違うけど、メッセージは同じものが書かれていた。

 ドクン、ドクンと心臓が脈を打ち、呼吸が乱れる。


「どうした! 大丈夫かマモリ!」

 膝がガクガクして崩れ落ちる私を抱きとめてくれたノースラァトさんにしがみつき、乱れる呼吸をなんとか抑えこもうと試みる。

「ゆっくり呼吸しろ、大丈夫だ、落ち着いて」

 ノースラァトさんは私と一緒に床に座り、私を抱きしめて、ゆっくりと落ち着けるように背中をさすってくれた。


「は…っ はっ はっ は…っ」


 上手く、呼吸できない。


「大丈夫、大丈夫だ、マモリ、ゆっくり息を吐け、そう、ゆっくりだ」


 力強い声に促され、ゆっくりと息を吐きだす。

 何度もそうすると呼吸が楽になった。


「の…すらぁとさん、ありがとう、ございます」

 しがみついていた腕を緩めて少し体を離して感謝を伝えると、抱きしめ直された。

 抱きしめてくれる大きな体の存在感が頼もしくて、その胸にもたれかかる。


「………のぉすらぁとさん、エイ・イレンという国、知ってますか?」


 逞しい腕の中に収まったまま、そっと尋ねると、肯定が返ってきた。


「ここよりずっと北にある国だ」

 ずっと北の…遠い国。

「……遠いんですか?」

 熊川さんに会いに行けないくらい、遠い?

「国を3つ越える。 馬車で半年だが、途中の国が内戦中だから迂回せねばならない、そうするともっと掛かる」

 馬車でも半年…以上。

「のぉすらぁとさんは、行ったことありますか?」

「無いが……突然、どうした? 魔道具の記述式となにか関係があるのか?」

 そう問われて、ギクリと固まった。


 そうだ、と言いたい。

 この魔道具を作った…この式を書いた人に会いに行きたいと。

 

 でも……。


 私が虹色魔石を卸す人間で、ノースラァトさんはこの国の魔術師で、私を保護するために結婚までしてくれて。




 つい昨日、結婚したばかりなのに他国へ行きたいと……元の世界に戻りたいと、言ってはいけない、そんな不義理をしてはいけない。



 ぐっ、と喉に力を込めて、吐き出しそうになる願いの言葉を飲み込む。

 ノースラァトさんの服を掴んでいた手の力を抜き、りきんでいた顎の力を自分の意思で緩める。

 そうすると、頭に上がっていた血の温度が少しだけ下がった。


「なんでも、ないです」

 ノースラァトさんの厚い胸を手で押して体を離そうとするが、背中に回ったがっしりとした腕は動かなくて、動揺してノースラァトさんを見上げると、僅かにすがめた視線と合った。

「……言いたくなったら、な」

 そう言ってそっと私の肩をなでてくれるその優しさに、弱った心がポロリと涙の残りを零し、照れ隠しにまたギュウとノースラァトさんに抱きついた。


「ありがとう、ございます」

 くぐもった声は小さくて届かなかったかも知れないけれど。






 いつか、全てを相談できる日が来ればいいな……。




 

 



アクセスに詳しい方へ

生暖かくスルーしていただけると嬉しいです。

       koru.

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