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虹色魔石の生産者 EX  作者: こる.


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21.誤解

 荷物を胸にぎゅうと抱きしめて、絨毯を踏みしめて恐る恐る隊長さんに近づく。



 そ、そそそそういえば、私ここに監禁されていたんでした……っけ?

 脱走してたことになりますか? なりますね? いや、でも帰るつもりだったんですよ! トイレから直行で。

 だけど、だけど、だけどぉぉぉ!

 衣装部屋に連れて行かれて、あぁぁぁぁんなこ…と、あ、いや、あれは記憶から削除だ。




 ちょっと思い出したくない事を思い出しかけてしまって、却って冷静さが戻った。


 とりあえず、謝っとこうか。

 "とりあえず"とか言ってる時点で、反省の度合いも知れるけど。



 仁王立ちの隊長さんの前に進み出て、隊長さんの胸あたりから視線を上げられないまま、頭を下げた。

「勝手に部屋を出てしまって、すみませんでした…っ」

 許しの言葉が有るまでは頭を上げない心意気で頭を下げたものの、うんともすんとも返事がないのは辛いものですね。


 頭上から一つ小さなため息が聞こえ、スッとスマートな動作で隊長さんが片方の膝をつくと少しだけ下から私を見上げ、顔を上げさせるように頬に手をあてられれれれれ……っ!!!!!


 ななななんて恥ずかしいっ!

 き、騎士みたいじゃないですかぁっ! 体格良すぎて魔術師っていうよりよっぽど騎士っぽいのにっ!


 カァッと頬が熱くなるけれど、金縛りにあったように動けない。

「すまなかった」

 隊長さんの口から、そんな言葉が出された。


 

 しゃ…謝罪……?



「そ…れは、どれに、対しての………っ?」


 もしかして、あの、身体検査はこの人の命令で?

 それとも、これから起こりえる処罰について?

 ザワリ…と背筋が寒くなり、思わず頬に添えられた手から身を引いた。

 手が空を切った隊長さんは僅かにいぶかしげな表情になる。

「どれ…とは? 我が上司の言いようが君を傷つけた以外に、君は……」

 更に一歩後ろに逃げようとした体を捉えられる。

 大きな手が腰の後ろに回り、逃げられない。

 引き寄せられ、逃げる首筋に顔を寄せられる。

「……良い匂いだ…、それに服も…。 誰に、会った?」

 至近距離で見つめられ、必死に顔を逸らしながら口を開く。


「フィー…フィーグレイス様に」

 言った瞬間、隊長さんの目が少し細められた。

「……そうか、その場に、他のメイドは居たか?」

 頷くと、少しだけ腰に回った手に力が入ったのを感じた。

「では、そのメイドの髪型はどうだった。 髪を束ねただけでまとめ上げていない者は居たか?」

 もう一度頷くと、何かを堪えるように息を吐き、ぎゅっと荷物を挟めたまま私を抱き寄せた。

「―――わかった。 ひとりにしてすまなかった」


 ……わ、かった…って、なにが?

 ナニをわかったの? 私が、あの人に何をされたか分かったってこと?



 カッと羞恥に一瞬で頭が沸騰する。

 

 膝立ちのまま私を抱きしめる男の腕から身を捩って抜け出す。

「さ、触らないでください! 謝らないでください! アレが必要なことなら、謝る必要は無いでしょっ」


 ショックを受けたように僅かに顔が歪む瞬間を見てしまい、思わず唇を噛んで顔をそむけてしまう。



「それでも、だ。 謝らせてくれ、償えるならなんでもしよう」


 な、何、言ってるのこの人!

 なんで全然関係ないのに償うとか!

 ……もしかして、関係有るの?

 

 いやいやいや待って、あんなこと以前の問題として、わたし罰を受けるんだよ、償うも何もないじゃない。

 下手したら、ヘタをしたら………。

 

 打ち首、とか……?





 思いついた最悪の想像に、勝手に涙腺が決壊した。

 勢い良くボタボタと零れ落ちる涙に、自分でもびっくりした、だって、勝手に涙だけがあふれるんだよ。


 あぁ、自分で思うより、ずっと、ショックなのかな。

 体が勝手に哀しんでる。


「どう…した?」

 隊長さんはちゃんと触れてくれるなと願った私の意思を尊重して、触れずにハンカチを差し出してくれた。

「なんでも―――っ」

 今度は涙だけじゃなく、嗚咽まで勝手に喉からせり上がってきた。


 手に持っていた荷物を口元に押し当てて、嗚咽を無理やり止めようと思うのに、何で? なんで?


「我慢せずに、泣きたいだけ泣くと良い」

 立ち上がり私を抱きしめる隊長さんの腕の中で、我慢するのをやめた。









 すがりついてヒンヒン泣く私を根気よく抱きしめ続けてくれた。

 そして、嗚咽が下火になってくると、私を抱っこしてソファに移動し、自分の膝の上に横向きに座らせて背中を撫でながら、訥々(とつとつ)と私にどうして泣いているのか聞いてきた。

 私が泣いている最中に、死にたくないとか、帰りたいとかこぼしたからだろう。

 ちゃんとこっちの世界の言葉を使ったあたり、きっと、聞いて欲しくて仕方がなかったんだと思う、私の深層意識バンザイ。

 泣きの余韻のまま、隊長さんにくっついちゃってるのが少し恥ずかしいけれど……背中を撫でてくれる大きな手が、なんだかとても安心できて。

「死にたくない、と言っていたが、どういう事だ?」

 そう聞かれて素直に答える事にした。

「……さっきの、偉い人が、罰を与えるって、言ってました」

「言ってたか?」

 首をひねる隊長さんにチョップしたくなるのを我慢して、言い募る。

「言ってました! 魔石の事を教えたら・・・・罰を与えない、って。 それって、教えなかったら、罰を与えるということでしょ?」

 確認するように隊長さんを見上げると、隊長さんがぎくりと固まった。

「やっぱり……罰はあるんですね……」

 覚悟していたことだけど、やっぱり堪えるなぁ。

 またじんわりと涙の浮かんできた顔を隊長さんから逸らして、手の甲でゴシゴシと目をこする。



「罰は……」


 私がぐじぐじしていると、不意に隊長さんが口を開いた。

 目をこすっていた手を止めて顔を上げると、隊長さんの真面目な顔と向き合う事になった。

「罰は、私と共に生活することだ」

 ……え?

 キョトンとしてしまったことで、私の脳内が疑問符だらけなのがわかったのだろう、隊長さんが補足してくれる。

「もちろん、魔石は全て国に卸してもらうことになるが、それは諦めてくれ。 ああ、私は独り身だから、他に気を使う相手もいないし、そう気詰まりでは無いと思う」

 え、え、え?

「えぇえと、隊長さんのお宅に下宿させて頂けるということ…ですか?」

「下宿ではなく、同居だな」


 監視も兼ねての同居ってことだとは思うけれども。

 ということは、ですね。

 宿屋に払っていた宿泊料が浮くわけですか!

 宿屋の女将さんも御主人の作るご飯も好きですが、やはり、いつまでもその日暮らしというのは落ち着かないものです、夜の営みの声を聞かされるのも落ち着かないものです。

 身元不明の私を泊めてくれた恩は多大にあるし、この世界で初めて掛け値なしで優しくしてくれた女将さんには感謝が尽きないけれども。

 罰が同居というのは、ありがたい。

 いくら監視が目的だとしても、隊長さんだって仕事があるわけだし、私が一人でいる時間もたくさんあるだろう。

 一人の時間があればいくらでも魔石を作れるし。

 凄く、いい話なんじゃ……。

 

 問題があるとすれば、性格や生活習慣の不一致、そして、無いとは思うけど…うぬぼれてるわけじゃないけど! 年頃の男女が一つ屋根の下というのは、ホニャララな展開……、うん、ナイナイ、ダイジョブ。

 こうしてお膝抱っこで慰められてても、性的な秋波は一切感じられませんから!

 間違いなくストライクゾーンから外れてると思われます。

 しかし、こうして抱っこで慰めてくれる辺り、嫌われているわけではないようだし。


「あー、確かに私は中々家に帰らないし、家事も苦手だが……」

 色々ぐるぐる考えていた私の沈黙をネガティブな方に捉えたらしい隊長さんが、しどろもどろに話しかけてくれる。

「これからは、なるべく帰るようにするし、家事も…なんとかする」

 いや、今まで通りあんまり帰ってこなくていいですよ!


「だから、私と一緒に暮らそう」

 

 隊長さん本人は、私の不安を少しでも取り除こうとしてくれているんだと思うんだけど。

 そんな真剣に、そんな実直な台詞は………まるでプロポーズをされている気分なのですが!



 顔が赤くなってしまうのは不可抗力だよねっ!




 そして、それに対する私の返事が、コクンと一つ頷くだけ、っていうのも仕方がないよねっ! ねっ!!



 

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