18.ナイスミドルと対面
ひとことで言いますならば、ナイスミドル。
……外見だけ、ですけれどもね。
隊長さんに連れられて入った部屋の中は、さながら社長室のようでした。
その社長室の重厚な机に座っていたのが、ナイスミドル。
なんですがね……。
「お前があの魔石を販売している娘か」
入室した、隊長さんと私を見ての第一声がそれです。
「保護者はどうした、まさか、お前のような子供が一人で商っているわけではあるまい」
え、え、え?
「何処から仕入れているのかね、仕入先を聞かせてもらおうか。 答えられんということは、非合法なルートであるということか? だが今仕入れ元を明かすなら、稀有な魔石であるが故、罰は与えずにおかんでもないぞ。 答えんか娘」
答えんも何も……。
外見に似合わぬ口数の多さに、口をはさむ余地なんて無かったのですが。
口が乾いたのか水差しの水に口を付け会話が途切れたのを機に、私はゆっくりと息を吸い込み、口を開く。
「では一言申し上げさせていただきますが。 (以下日本語)『誘拐されて帰ってきたばかりの小娘を、無理矢理連れて来させた挙句、椅子にも座らせないまま勝手にご自分の都合ばかりを並べ立られても、こちらとしては一度家に戻り心身共に休みたいところですのに。 お茶の一つも出てこない事に文句など言いません、いえ下々の分際で言える立場にもございませんね。 しかしながら、こちらの都合を聞き入れず無理を押して来た初対面の人間に、突然おまえの魔石の仕入れ元を教えろとおっしゃる。 仕入れ元を教えろということは、今度は私を介さず魔石を手に入れようとしてると受け取らせて頂きますが、そうすると私の商売も立ちいかなくなるのは明白でございますよね、従って教えるわけねぇだろ、あら、すみません生まれが卑しいのでつい言葉遣いが。 それにしても、非合法がなんとかおっしゃってましたし、親のことまで引き合いにだして揺さぶろうなんて真っ当な取引をするおつもりはないのでしょうか? 察しますに権力で法もなんもかんもねじ伏せて、私を潰すなり殺すなりするつもりなんでしょうが。 私を殺したら、魔石を入手できなくなりますよ』 申し訳ありません、私こちらの言葉に不慣れなもので」
ニッコリとした笑顔つきでマシンガントーク、それも日本語で。
目を白黒させている多分貴族な感じのナイスミドルと、ぽかんとした顔でドアの前で衛兵よろしく立っている隊長さんを見て、少しすっきりした。
いいのよ、何の解決にならなくても、言いたかったことは言ってすっきりしたし。
さて、ちゃんと腹を括らなきゃ。
ここで罰せられるか。
一か八か魔石の作り方を教えて、保護されるか…、或いは一生魔石作りの道具として繋がれるか……。
一つ深呼吸して口を開く。
「私は、あなた方に、仕入元を教えることはできません。 両親は遠い…遠いところに居るので、会うことはできません。 もしも、仕入元を教えられないことで罰せられると言うのでしたら、罪状に則り罰を受けますが、私は魔石に関する事を、何一つお話することはできません。 私にできるのは、魔石を売ることだけです」
髭の下にある口を引き結んで聞いていた口数の多いナイスミドルは、一つ頷くと隊長さんに何か伝えて私達を下がらせた。
廊下に出ると隊長さんに抱っこされ、有無を言わさず運ばれます。
え、ええぇえ? もしかして、このまま牢屋一直線ですか。
いちおう覚悟は決めた上での発言だったんだけど、だけど、だけど……ちょ、ちょーっと怖くなってきちゃったなぁ(涙目)




