15.救出されて一息
救出された他の人たちと一緒に近くの町の詰所で身元の確認をされる私の斜め後ろには、威圧感のある大柄な魔術師がぴったりとくっついている。
………。
気を落ち着かせる効果があるらしいお茶を皆でいただきながら、なるべく後ろは気にしないようにしながら話を聞く。
……なんだけど、子供達は若干怯えているし、大人二人も気になるのかチラチラ彼の方を見ている。
その様子をまるで気にしていないらしい大柄な魔術師。
なんだか、私が悪いわけじゃないけど、ごめんなさいをしたくなります。
私たちに状況を説明してくれるのは、藍色の制服を着た若い兵士だ。
私たちが捕まっていたのはやはり人身売買組織で、この国では奴隷も人身売買も違法なので他国に売り払われるところだったらしい。
そうか、この国では奴隷も人身売買も犯罪なのか。
大まかに説明した後、若い兵士が大人から順に名前と身元を確認している。
順番的には私は3番目か……身元、どうやって説明すればいいかな…。
ちびちびお茶に口を付けながら思案する。
「ノースラァト隊長、少しよろしいでしょうか」
私の後ろで、大柄な魔術師に女装魔術師の彼が声を掛けていた。
……隊長か。
兵隊さんに混じってるし、隊長なんて言われてるし、これはアレかぁ、あの人もあの彼も軍人さんかぁ。
制服っぽい服装だしなぁ。
身元不明の魔石売りとしては、なんていうか、あんまり関わり合いたくない手合いですね。
「こんにちは。 お名前を教えてもらえますか?」
他の事を考えていた時に私の番が回ってきて、動揺した私は反射的に。
「西村 守です」
と、フルネームを名乗っていた。
「ニシムラ・マモリさんですか…。 変わった響きですが、出身はどこかな?」
あわわわわ!
「あ、えぇと! すみません、マモリ・ニシムラです、間違えました」
慌てて言い直す私に、若い兵士さんが怪訝な顔をする。
あぁ、しまったなぁ。
「本当は、ニシムラ・マモリが正しいんだよね?」
うぅぅ……仕方あるまい、頷いておく。
兵士さんが手にしていたメモ帳になにか記入している。
「どこに住んでるのかな?」
あー、うー……。
「"西石の宿屋"です」
「宿屋?」
再度怪訝な顔をされた。
何と説明していいのか分からずもごもごする私の肩が大きな手に包まれた。
「この子は、私が預かる」
そう言って私を連れ出したのは、案の定"隊長"さんだった。
手を繋いで引っ張られるようにして部屋を出て、別室に連れて行かれた。
だ、男女ふたりっきりとか良くないと思います!
「馬鹿が! 一人で外なんかへ行くからだ!」
ふたりっきりになった途端、怒られました。
曰く、子供が一人きりで門の外に出るのは非常識だとか。
何故街道を外れて川原に行ったのか、とか。
あれですね、どうして私の行動を知っているのかと聞きたい。
結構ヒートアップしているので、茶々は入れませんけれどね。
大人しく怒られておきますけどね。
んで、ヒートアップしきったところでハグされました。
身長差がある為に、頭を抱き込まれるような格好ですが。
「本当に、無事で、よかった…」
ため息と共に零された言葉が、じんわりと沁みる。
あぁ、本当だ……無事で、良かった…っ。
誘拐されてからこっち、バタバタしすぎてて、頭のどっかが麻痺していたのに。
隊長さんの安堵に染まった低音の声で、心の感覚が戻ってきたみたいで。
ほんの少し出た涙は、こっそり隊長さんの制服に吸い込んでもらった。




