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虹色魔石の生産者 EX  作者: こる.


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14/50

14.救出

 口の水分をガッツリ吸収する手のひらサイズの硬いパンをひとつ渡された。


 1日1食、無いよりはいい、むしろ食料をくれるだけありがたい。



 ガリッとパンを歯で削り、口の中でふやかす。

 牛乳、いやシチューがあればいいのにと贅沢な事を考えながら、少しずつ食べ進める。

 他の人たちも、ぼそぼそとパンを口にしている。



 荷馬車の幌の中はじっとりと暑い。

 直射日光が無いだけましなのかもしれないけれど、幌の前後の布を下ろされている密閉した室内は、何とも言えない臭いが充満している。




 馬車に揺られながら、時間を掛けて食べていたパンも食べ終わる。

 じっくり時間を掛けて食べたから、手のひらサイズのパン1個でも結構お腹が膨れた。


 一体何処まで行くんだろう。



 1回だけ取られたトイレタイムで見上げた空は、すっかり日が登り切っていたから、既に正午は過ぎている。

 早朝から出たんだから、結構な距離になってると思う。




 舗装されていない道を走る馬車の、クッションも何も無い床でお尻が痛くなる。





 これだけ離れてしまったら、女装魔術師の彼が助けを呼んできてももう無駄だよね……。



 そう思いながらも、ポケットから小石を出して口に含んでおく。


 視線を感じて横を見ると、私が手を引いていた女の子がじっと私を見ていた。


「……おねぇちゃん、それ、アメ?」


 あぁ、そうか、そうだよね、アメに見えるよね。

 女の子の言葉に、他からの視線も集まる。


「ううん、ただの小石。 舐めてたら、お腹が膨れる気がするから。 ……舐める?」


 さっき口に含んだばかりの小石を見せ、ポケットに入っていた他の小石を出すと、女の子はおずおずと手を伸ばし小石を取り上げるとパクリと口に入れた。


「……おいしくない」

「…うん、石ころだからね……」


 それでも、吐き出さずに舐めている、他にも小さい子が欲しがったので小石を分けてあげた。










 無言で小石を舐め続け、ゆっくりと夕方になったころ突然轟音に幌の中は騒然となった。





 天を裂くような轟音は、多分、かみなり。



 不自然に何度も落ちるそれに、みんな悲鳴を上げることもできず、両耳を押さえて身を低くしてガタガタ震えた。




 ほろ越しに、稲光が幾筋も馬車の周囲に走るのが見えた。



 ……そして、男たちの断末魔の声。




 あわわわわわ……!





 時間的には長くはない、一分に満たない時間だったと思う。


 すぐに、雷の雨は止んだ。

 キーンと鳴る耳の痛みを堪えながら耳から手を離し、伏せていた顔を恐る恐る上げた。


「大丈夫か」


 幌の入口の布を跳ね上げられ、バクバクしていた心臓が一段と大きく跳ねたが、現れたのはウチの店の常連さんであるあの大柄な魔術師だった。

 焦った顔で幌の中を見回し、私を見つけるとホンの少しだけ険しい顔を緩めた。


「ノースラァト隊長ちょっとどいてください。 皆さん、もう大丈夫ですよ。 さ、順番に出てきてください」


 入口を陣取っていた大柄な魔術師を押しのけて、線の細い青年魔術師が幌の中の私たちを外に誘導してくれた。


 そう、そうだよね、救出役は強面こわもてよりも優しい顔の人がいいよね。



 でも……一見するとわからないけど、あれだよね、女装していた彼だよね?





 幌から出されて、みんなと一緒に誘導されながらも、女装魔術師の彼を凝視してしまう。

 服が男物になってるせいか、誰も彼が一緒に囚われていた彼女だと気づかない。


 女装魔術師の彼はなんだか私の視線を避けているようなので、深追いしないほうがいいだろうか。




「無事で、良かった」


 女装魔術師の彼を目で追っていると不意に頭上から声がかかり、見上げれば大柄な魔術師がすぐそばに来ていた。



 ……売買の時はいつも座ってるからあまり気にならなかったけど、本当に大きな人だわ。


 長いマントの中にはいつもと違って、きっちりとした闇色の制服のような服をパリッと着ている。

 いつもはマントは羽織っているものの、動きやすそうなシャツにカーゴパンツをブーツインして店に現れるのになぁ。

 非常事態プラスアルファ制服効果で2割増しで格好良く見える。


 格好良いんだけど、大柄過ぎてあんまり近すぎると顎を上げて見上げなきゃ視線が合わないのは疲れる。

「えぇと……。 助けに、来てくれたんですか?」

「ああ。 心配した」

 肯定した大柄な魔術師の表情ではあんまりわからないけれど、心配してくれたのか、そうか。

強張っていた頬の筋肉がやっと緩んだ。


 

 少しだけ胸が暖かくなって……不意に、もうひとり凄く心配してくれそうな人が思い浮かんだ。

 心配…してくれてるかな、女将さん。

 あぁ、門番の若い兄ちゃんも、もしかしたら気にしてくれてるかもしれない。


 なんだ、私の事を気にかけてくれる人、結構居るんじゃない?



 そんなことを取り留めもなく考えていると誘拐されて、すさみつつあった心が少しだけ回復した。


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