11.現状把握
薄暗い監禁部屋の中で、こっそりと手のひらの中に作り終わった魔石を吐き出し、代わりに少し大きめの石を一つ口に含んで、膝から顔を上げ暗い室内を見回した。
大人の女性が3名と小さな女の子が5名。
子供達はスカーフを頭に巻いた女性のそばに固まっている。
他の女性はそれぞれ疲れきった顔で、部屋の隅で遠い目をしている。
……彼女たちに何があったのか、考えない。
狭くはないが、人の絶望で溢れかえった部屋の中で、しっかりと私と合う目があった。
子供達の真ん中に居る頭にスカーフを巻いた女性が、すっと立ち上がり子供達から離れて私の傍までやってきた。
間近で見ると私よりも頭1つ分は長身な、彼女はシャープな顔立ちの目のパッチリした女性だとわかる。
だけど、どうやら彼女も随分と疲れているらしいのが見て取れる。
「……何か、食べ物を持っていますか? もし持ってるなら、あの子たちにも」
私にだけ聞こえるようなかすれた小声で聞かれ、首を横に振った。
生憎と川原へと持参していた昼食は、誘拐されたときに放置する羽目になった。
「先程、なにか口にしているように見えたのですが?」
あぁ、左のポケットを探り、まだ魔石にしていない小石を取り出す。
「石?」
首をかしげた彼女に頷く。
「アメを食べてる気分」
彼女の手を取って、その手のひらに小石を一粒乗せるとあからさまにがっかりした顔になる。
「そう、ですか……」
日本人の性だろうか、がっかりされると心苦しくなるのは。
思わず、魔石を取り出してしまう。
虹色なので、外見的には飴に近いものがあるし。
「魔…こんな石もありますけど。 …どっちにしても、お腹は膨れないですもんね……」
それに、製品用に磨いたりもしていないから、舐めっぱなしのものを渡すのも抵抗があるな、と思い直しすごすごと引っ込めようとした手を、ガシッと掴まれる。
痛いくらいの力で掴まれ、手の中にあった虹色魔石を取り上げられた。
「こ、れは……虹色、魔石…?」
低い声で呆然と呟かれる。
掴まれたままの手が痛みを訴える。
「君、これを、一体、どこで」
ぐっと引き寄せられ、ことさらに低い声で耳元で囁かれる。
あ、れ?
この、声って……。
「貴方、男、なの?」
女装男子! 凄い! 初めて生で見た!
驚きで目を丸くした私に、彼は小さく舌打ちする。
「誰にも言うな」
顔がつきそうなほど近くから凄まれる。
あぁ、うん、色々と込み入った事情があるんだろうね、うんうん。
「わかりました。 (こっちの世界だと偏見が多そうで)大変だろうけど、頑張って(主義を貫いて)くださいね」
「……。 それで、コレはどうやって手に入れた?」
私のエールはスルーして、虹色魔石の入手方法を聞いてくる。
その真剣な様子になんだか、嫌な予感がするのですが……私、もしかして下手を打った?
「コレは、ウチの店の商品です。 貴方こそ、なんで、この石の事を知っているの?」
私がこの石を売ったことがあるのは、極一部の人だけ。
ほとんどをあの大柄な魔術師が買い占めていて、他に買いに来たのは2人だけ。
その他に売ったと言えば、宝石店だけど、どうもあのお店の店頭には出していなかったみたいだから、きっと金持ちのお得意様に売っていたんだろう。
そう考えると、こんな所に捕まっちゃうような人には売ってないと考えられる。
じゃぁ、なんでこの人は虹色魔石を知っているの?
ウチから買っていった誰かから、聞いたの?
「…貴女が、そうか」
警戒する私とは対照的に、彼は少しだけ表情を緩めると、強く握っていた私の手を放してくれた。
「すまない、痛かったか」
握られ赤くなってしまった手を、長い指でするりと撫でられる。
「おねえちゃん、どうしたの?」
一向に戻ってこない彼、いや、彼女?にしびれを切らしたのか、小さな女の子がそろそろと近づいてきた。
彼は手にしていた虹色魔石を素早く隠すと、この魔石を預からせてください、と小声で言ってきたので頷いて了承したのを確認すると、女の子の手を取って微笑む。
「なんでもないわ、さぁ、あちらに戻りましょう」
うわぁ、ハスキーだけど見事な女声!
あまりの変わりっぷりに呆然として女の子を連れて子供達のところへ戻る彼の背中を見送った。




