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あまりにも静かだった。
先程までの阿鼻叫喚の様が嘘のようであった。
しかし、数多の死体が現実であると、テトに教えてくれる。
テトはよろめきながら、涙を流し、進む。
何かに蹴躓き、不様に倒れるテト。
物言わぬ死体と目が合った。
テトは怯えおののき、小さくなって頭を抱えた。
そもそも何がいけなかったのだ。
獣達を助けたいと願ったのがいけなかったのか。
フォーミュリアを守りたいと願った事がいけなかったのか。
フクロウの言葉を易々と信じ、獣の王などになったのが間違いだったのか。
ならば、獣の王となる前の醜き不自由な体で、何が出来たと言うのだ。
「こんな世界を望んでなんかいない」
そう、あれは確か、テトが獣の王となる時である。
テトは平和な世界を望んだ。
誰も傷つけあわず、誰も憎しみ合わない世界。
その望み通り、憎しみの根源をテト自身の手で全て平らげた。
そして、手に入れたのだ。
望む世界を。
「違う」
誰も傷つけあう事もない。
「僕はこんな世界望んでなんかいない」
誰も憎しみ合う事もない。
「ちがぁぁーーーう!!!」
わめいた所で何も変わらない。
平和になった。




