掴めぬ真実15
長い廊下を抜けた先、重厚な木の扉がハニエルを迎えるように峻立している。
近付く度に、心臓が燃え上がりそうなほど鼓動が早まる。
耳朶に響くのは、熱せられた血潮の爆ぜる音のみ。
そして、それがハニーを動かす全てだった。
ただ無心で扉まで走り続ける。
その長く暗い一本道は、地獄の底まで続いているようだった。
どれだけ走っても扉が離れていくような気がした。
ちょっとでも怯むと、横から負の感情が手を伸ばしてハニーを闇に引きずり込もうとしてくる。
その魔の手を払い、扉だけを睨みつけ走った。
きっと今まで走った時間に比べれば、それはたった数歩の距離だ。
しかしハニーには今まで走り抜けた時間よりもずっと長く感じた。
(これで最後……全てを終わらす………)
唇を噛み締め、限界を突破した。
息が上がり、肺が焼きつき、思考が崩壊し、骨が軋み、肉が溶ける。
足を止めると体がぼとぼとと落ちていきそうだ。
ギリギリの限界ラインを保ち、ハニーは心の中で祈った。
どうかこのまま、ハニーがハニーである間に広間に行き着かせてほしい。
この身の、血の一滴でもいいから広間のウヴァルの元に行かせてほしい。
ハニーは歯を噛みしめ、悲壮な顔を醜く歪めた。
そうでもしないと体が難破船のように海の藻屑となってしまいそうだった。
それでも何者にも染まらない金色の瞳は真っ直ぐに運命の扉を見つめ続けた。
近付く度に威圧感の増す扉は、今やハニーの何倍もの大きさとなってハニーの前に立ちはだかっていた。
誰の侵入も拒む扉は何も発さずハニーを拒否している。
だが扉の前にいるのは、森の些細な物音に怯えていたちっぽけな乙女ではなかった。
そこにいるのは、闇を打ち砕き、暁のように世界を照らす高潔にして偉大な女王―――。
誰も女王陛下の歩む道は妨げることなどできない。
ハニーは見上げるほど頑丈な扉の前で足を止めた。
扉の向こうから目には見えない悪意がハニーを襲いかかろうとしている。
ハニーはその運命の扉の前でそっと目を閉じた。
ここに来るまで長い長い道を駆け抜けてきた。
時に絶望に我を失い、時に死を覚悟し、時に自身の矮小さに悔しさを噛みしめた。
でも、それも全てここで終わる。
(エル……あなたを悲しませる全てをわたしがぶっ飛ばすわ……この命に代えても……)
勢いよく金色の瞳を見開き、ハニーは全ての元凶を作り出した審判の場の重い扉を開けた。
ギイッと軋む悲鳴を上げて、ハニーを導くように重たい扉が奥へと開く。
僅かに開いた瞬間、暗い広間からどこよりも澱んだ空気が流れてきた。
ハニーは鼻をつく腐臭に思わず顔を背けた。
鼻腔に絡み付く錆びた鉄のような臭いに吐き気が込み上げてくる。
それでもハニーは嫌悪感に堪えるように、広間に厳しい眼を向けた。
何事からも目を逸らさないと決めたのだ。
余すことなく全て見届けてやると……。
しかし、瞬く間にそう決意した金色の眼が驚愕と恐怖に見開かれた。
ハニーの体が凍りつく。
「な、何で……………………?」
信じられない光景がハニーの目の前にあった。