#1−2 野高
近づいて来たのは30手前ぐらいの男性警官だった。
「君達、もしかして鷹来君と野高君かい?」
警官は二人の顔を照らしながら聞いた。久しぶりの強い光が眼球の奥に突き刺さるようだった。
二人は名前を知られていることに躍ろいたが、素直に頷いた。
警官は満足そうな顔をして、捜索願いが出ていることを教えてくれた。
なぜ学校にいたのかは、「寝ていたから」というなんとも安易な説明しかできなかったが、真実であるのでしかたが無かった。「まあまあ、無事でなによりだ。とりあえず帰ろう。車で送ってあげるよ。それで、本部に連絡したいんだけど携帯を貸してくれないかい?」
そういって二人に携帯を貸してくれるように頼んできた。警官の携帯も二人のものと同様に圏外らしかった。
「すいません。僕らの携帯も圏外なんですよね。」
二人は液晶にうつる圏外の文字を提示した。
野高は停電のせいではないかと指摘した。すると警官は回りを見回して、初めて気付いたようだった。「なんだか頼りなさそう。」野高はつぶやいた。
とにかく交番まで戻るということで、警官の自転車が置いてある門まで三人で移動した。
すると警官がキョロキョロし始めた。
「自転車が無い・・・」
しかしそれだけでは無かった。
懐中電灯の光はどこへたどり着くこともなく闇に吸い込まれていた。まるで宇宙に向けているかのように。
鷹来と野高は無意識に数歩、門から離れていた。無の空間に吸い込まれてしまいそうな恐怖を感じたのだった。
11時48分
「いったい・・・どうなってるんだよ」
鷹来の声は震えていた。
野高は理系の脳で必死に現象の理解に努めた。
しかしどの引き出しを開けても実際に自分が体験しているこの現象と合致するものが見つからなかった。
そこで脳は逃げることを選んだ。
「これは夢だな。」
そう思ったが、夢の中で「これは夢だ」と主張するなどナンセンスだと考え、口にすることは無かった。
その代わり自分でほっぺたをつねったり手の甲の皮をつまんでみたりした。
痛かった。
「よくできた夢だな・・・いや、そもそも夢なら痛みを感じないというのが間違いなのではないか?もしくは現実における痛みと夢の中のそれとは違うものだとしても同じ痛みだと認識してしまうのでは・・・?」
野高が思考にふけっていると横から鷹来が聞いた。
「そういえば正面玄関の鍵開いてたけど、あの人に伝えたほうがいいかな・・・?」
そういって未だに闇を照らしている警官をちらっと見た。
「そうだね。なんもないかもしれないけど一応伝えておこうか。」
夢なら最後までストーリーを楽しもうと思った。
「すいません、えーっと・・・警官さん・・・でいいですか?」
「あ、ごめんね。自己紹介してなかった。シズタカ交番の端杉といいます。よろしく。」
「よろしくお願いします。ご存知かとは思いますが、僕が鷹来で、彼が野高です。」
なんにも無いかもしれませんが、と鷹来は切り出した。
「正面玄関の鍵が開いてたんですよ。」
端杉は何か考えるような仕草を見せたあとに、不審者が学校に侵入したとの通報があったことを伝えた。
「君達のことかなと思ったんだけど・・・」
「いえ、僕らはさっきまでずっと校内にいて外には出てないので違うと思います。」
「そうか・・・。じゃあ僕たち以外にもこの学校に誰かいる可能性があるな。きっとその犯人が正面玄関の鍵を開けたのだろう。」
今も誰かに監視されているのかもしれない。
そう考えるとぞっとした。
「単独行動は危険だね。皆で行動しよう。」
端杉の提案に二人は賛成した。
「しかしこれからどうしますか?」
外部と連絡はとれない上に、学校以外は無い、という状況下ですることは思い付かなかった。
「とりあえず職員室にでも行って見ましょう。何かあるかもしれません。」
野高が提案すると、二人は同意してくれた。
一行は二筋になった光を頼りに校舎へと戻った。
11時51分