#2−1 端杉(ハナスギ)
23時18分
まわりを囲む住宅街は日中のにぎやかさを忘れ、しんとした空気をかもしだしていた。その静寂の中、交番の電話が鳴った。端杉がそれをとった。
「はい、こちらシズタカ交番の端杉です。どうなさいましたか?」
通報の内容は、近所のシズタカ高校に入っていく怪しい人影を見たというものであった。シズタカ高校までは自転車で行けば三分ほどでたでりつく。
「ちょっと行ってきますね。」
「あぁいってらっしゃい」
お茶を飲む上司に送り出されて端杉は自転車にまたがった。
「寒いなぁ・・・。」
止まっていても張り付いてくる冷気は自転車で走ることでより一層張り付いて来た。
予定通り三分でシズタカ高校についた。外から見る限りでは人がいる気配は無かった。自転車を通りに止め、門を越えて学校に入った。持って来た懐中電灯を付け、校舎のまわりをグルッと回った。校舎の外に誰かいるわけでも無く、窓などが割られている様子も無かった。
「中入っちゃったのかぁ?」
一度上司と連絡をとろうと、携帯を取り出した。しかし圏外のようだった。端杉の携帯はたまに圏外になることがあり、電源を入れ直すと復活することがあった。だが今回はその作業は徒労となった。
「こんな時になんなんだよ・・・もぅ・・・。」
端杉はつい先日五年も付き合っていた彼女‐だった人‐に、「もう恋人はやめよう」と言われ、イライラしていた。あれ以来その女性からの連絡を全て断っており、着信履歴にはその女性の名前ばかりが刻まれていた。
「どうして・・・そろそろ結婚も考えていたのに・・・。」
使い物にならない携帯をしまうと横目にちらっと動く光が見えた。端杉はそちらに駆け寄った。そこには二人の少年がいた。
「君達、もしかして鷹来君と野高君かい?」
二人は頷いた。
「あぁ、やっぱり。君達の捜索願いが出ていたんだ。近所は捜し回ったけど、まさか学校にいるとはね・・・。」
「すいません、寝てしまってたみたいで。」
「まあまあ、無事でなによりだ。とりあえず帰ろう。車で送ってあげるよ。」
それで、本部に連絡したいんだけど携帯を貸してくれないかい?と端杉は二人に頼んだ。しかし二人の携帯も端杉のものと同様に圏外であった。
「街の電気が消えてしまっているようですし、停電のせいで圏外なんじゃないんですか?」
野高は言った。端杉はそう言われるまで気がつかなかったが言われてみれば光が無い。
「あれ?ここに来るまではしっかりついてたんだけどなぁ・・・。」
とりあえず交番まで戻ることにした。飛び越えて来た門の側まで来て気付いた。乗って来た自転車が無い。というよりもはや何も無くなっていた。学校の外には何も見えなくなっていた。三人は最初に、街明かりが消えたことで生まれた漆黒だと思ったが、懐中電灯の光がどこへもたどり着くことなく闇に消えるのを見て街がなくなったのだと認識した。そして感じる恐怖は、闇に対する恐怖ではなく、空虚に吸い込まれそうな恐怖になっていた。
11時48分