#1−1 野高(ノタカ )
SIREN からインスピレーションを受けて書き始めました。おこる事態は非現実的ですが、できるだけ現実味のある雰囲気で書いていきたいと思います。どちらかと言えば恐怖は少なく、オカルト的なものになると思います。
‐野高真樹洋‐
11時30分
ビクッと体をはずませて野高は目を覚ました。夢の中で見たわけのわからない恐怖により、心臓は無駄に激しく鼓動していた。目覚めた後も駄々をこねつづけていた脳も、しばらくすると置かれている状況を把握するに至った。野高は暗闇と静寂に包まれた生徒会室にいた。袖と襟元から、夜の凍てついた空気が服の中に入り、背中をつたった。
「ひぃ・・・寒い寒い」
彼は腕時計を見たが、その蓄光は日中溜めた光を既に放出しつくしてしまったようで、針を認識することはかなわなかった。つまりそれは光と離されてから、かなりの時間が経過していることも示していた。携帯電話をポケットから取り出した。
「えっ?11時半・・・?」
野高は混乱した。当然だが、生徒である野高がこんな時間に学校にいることはおかしいからだ。携帯の光に照らされて部屋にはもう一人の人物がいることが判明した。
「鷹来君、鷹来君」
その人物の名前を呼びながら野高は肩をゆすった。
「くぁーっ・・・。やあ、おはようノッタン。」
なんでおはようなんだよとツッコミをいれながら野高は携帯の液晶に映された時間を鷹来に見せた。
「えっ?」
鷹来は目に映る時間を信用できないようで、野高の悪戯だとでも思ったのか自分の携帯を取り出した。しかしそこに表示されている時間も野高のものと同じであった。
「やばいよな」
「うん、やばい」
見回りの先生どうしたんだろうねと言いながら急いで荷物をまとめる二人。電気をつけようとしたのだが、スイッチはカチカチと音を鳴らすだけで光が点ることはなかった。幸い、野高の携帯には以前購入したジュースにおまけとしてついていたヒヨコ型の小さなライトがついていた。彼らにとって暗闇はそれほど恐怖の対象ではなかった。なにより恐怖だったのは家で待ち構える両親である。いったいどのように説明すればいいのか。そもそも何を説明すればいいのか。何度も何度も脳内でシュミレーションを行ったものの、最善と言える打開策は一つとして見つからなかった。
「とりあえず家に連絡を入れておこう。」
事前に連絡しておけば体面した時のダメージは少ないと考えたのだ。予防注射というわけだ。
しかし
「あれ?圏外だ。」
「僕のもだ。」
二人の携帯の液晶の左上にはアンテナの姿は無く、「圏外」の二文字が映し出されていた。
「まあしょうがないから行きますか。」
部屋をでて左に曲がる。廊下の電気は人が通ると自動でつくのだがやはりこれもまた反応はしなかった。二階と一階をつなぐ階段の中腹には駐輪場へ繋がる扉がある。そこが最も近い出口であるが、そこは鍵がしまっていた。そんなことは最初から分かっていたのでなんとも思わず、ただなんとなく手をかけただけだった。内側から鍵を開けることもできるのだがそうした場合、外側から鍵を閉めることができない。翌朝めんどうなことになるのは嫌だったのでそれをすることは無かった。階段を一階まで降りきり、正面玄関に向かった。ここにはオートロックの扉がある。野高がその鍵を開けている間に鷹来は横の鍵の閉まっている扉に寄り掛かった。しかし想定していた支えが無かったことで鷹来はバランスを崩してよろけた。
「うわっと!こっち鍵開いてるんだけど」
「え−・・・。どうしよう?鍵閉めた方がいいのかな?」
「元々開いてたわけだしいいんじゃない?」
「まあそうだね。我々には関係無いということで。」
二人は校舎から出て気がついた。人工の光が見つからない。周囲で光を発しているのはほんのり赤い月だけだった。いくら11時半だからと言って光が無いことは有り得ない。学校の電気がつかなかったことも含めて二人はある結論に至った。
「停電かな?」
「まあ、そんな感じだろうね。」
だから携帯も圏外なのか、という根拠があるのかないのかわからない結論もついでに出した。
駐輪場の方に歩いて行くと、通用門の近くで小さな光が細かに動いているのを発見した。誰か人がいる。その発見は、焦躁感と安心感を与えた。向こうもこちらに気がついたようで光が近づいて来た。
11時43分