第1話 プロローグ
ピッピッピ。
朦朧とする意識。
見知らぬ天井を見上げている。
ーーここで終わりか。
25年間。
振り返れば、ろくな人生ではなかった。
小さい頃から兄弟と比較され、
褒められるのはいつも兄弟ばかり。
気付けば、自分は家族の中でいないものとして扱われていた。
中学を卒業すると同時に家を出た。
一人で生きるためにバイトをして必死に働いた。
ただ、できた金は借金と生活費で全て消えた。
ようやく就職した先でも現実は変わらない。
中卒だからと周りからは馬鹿にされ、
面倒ごとは押し付けられ、
手柄は横取りされた。
辛かった。
苦しかった。
それでも耐えた。
そんな俺にも大切な人ができた。
彼女の笑顔は素敵で一緒にいると今までの
苦労も忘れられるぐらい楽しかった。
ようやく自分にも居場所ができたと思った。
でも、そんな幸せも幻想だった。
彼女には本命がいて、俺はただ程のいい財布として
利用されていただけだった。
利用価値がなくなれば捨てられる程度の存在。
全て忘れたかった。
だから、働いた。
働いて、
働いて、
働いて、
倒れた。
気が付けば病院のベッドの上だった。
見舞いに来る人もいない。
当然だ。
俺には誰もいないのだから。
もう体は動かない。
冷たい病院の天井を見上げ自分の最後を待つだけ。
俺はただ、必要とされたかった。
信頼できる仲間が欲しかった。
愛して欲しかった。
だけど、向けられるのは全て
人間の醜い欲望ばかりだった。
掠れる意識を最後に男は微かに笑う。
「結局.....」
小さく息を吐く。
「人間なんて、そんなものか」
そう言い残し、視界がゆっくりと暗くなっていく。
意識が沈む。
全てが終わる。
――そのはずだった。
突如、脳裏に知らない光景が流れ込む。
どこかの街並み。
空を埋め尽くすほどの人、人、人。
群衆は熱狂していた。
歓声とも罵声ともつかない叫びが飛び交う。
その視線の先には、一人の人物がいた。
両手を拘束され、どこかへ連行されている。
周囲を囲む無数の兵士。
男はゆっくりと歩かされていた。
やがて辿り着く。
巨大な断頭台。
気がつくと俯瞰から見ていた景色は
断頭台にかけられた人物の景色になっていた。
拘束された腕。
冷たい木の感触。
群衆の顔。
憎悪。
嫌悪。
恐怖。
様々な感情がこちらへ向けられている。
そして、一人の女性と目が合った。
女性は軽く微笑み小さく呟いた。
「ーーーーー。」
だが、観衆の声でかき消されて聞こえない。
それなのに胸の奥から言いようのない感情が込み上げてくる。
怒り。
憎しみ。
絶望。
悲しみ。
全てが混ざり合い、溢れ出しそうになる。
知らない光景。
知らない観衆。
自分には関係のないはずなのに。
抑えきれない怒りだけが胸の奥から溢れてくる。
気づけば口が働いていた。
「絶対に許さない...。」
誰に向けた言葉なのかも分からない。
「お前らを絶対に殺してやる!!」
隣にいた兵士が剣を振り上げると
それが勢いよく振り下ろされた。
世界が暗転する。
――そして。
どこか懐かしい草木の匂いがした。
風が頬を撫でる。
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