明け方の奇跡と希望
「・・・っあ゙ぁ゙。・・・はぁ。」
今日何本目かわからない缶コーヒーをデスクに置き、私、水篠凱人は何度目かわからないため息をこぼしてパソコンに向き直る。私は、自分のノルマを確認して眠気を誤魔化すように仕事に取り組む。
「凱人さん、凱人さん聞こえてますか?」
突然大きな声が聞こえたと思い振り返ると、そこには少し前まで教育係として仕事を教えていた後輩の化野渚沙くんが心配そうな顔をして後ろに立っていた。彼女は去年うちに入社した子で、テキパキと仕事をこなしてくれるいい子だ。
「あぁ、私のことかい。どうしたんだい?私になにか用事かな?」
どこか顔色の悪い後輩を気にして優しく声をかけると、更に心配しているかのように話してくれた。
「先輩誰がどう見てもわかるくらい顔色が悪いですよ。その缶コーヒーも今日何本目ですか?」
「さぁ?10本を超えたところから本数は数えていないよ。顔色も外が明るいからそう見えているだけだじゃないかな。心配してくれるのはありがたいけど、すぐにデスクに戻ったほうがいいよ。仕事を急いで終わらせないと終電が来ちゃうからね。」
声をかけてデスクに戻ると思ってデスクに向き直ると、渚沙くんに顔を掴まれ顔と顔とが当たってしまうような距離まで近づかれてしまった。
「ど、どうしたんだい?」
「どうしたもこうしたもないですよ!先輩、今日で何連勤目ですか?もうすぐにでも倒れそうな顔して何が大丈夫ですか!休んでください。」
いついらいかの心配に少し心が温まり、後輩くんの心配がなくなるように声をかけた。
「そう言ってくれるのはありがたいけどね、帰っても家族もいないし、それだったら君たち後輩が少しでも楽に仕事ができるようにしたいのさ私は。」
あまり得意ではない苦笑いを浮かべていると
「それはこっちのセリフですよ。」
「ありがとね。それじゃあすぐに仕事を終わらせてしまおう。」
◇
「やっと今日の仕事が終わりましたね、先輩。どうです?どうせ終電にも間に合いませんし飲みにでも行きません?」
「もういい時間だよ、渚沙くん。もう日をまたいでるし女の子なんだからもう少し気をつけたほうがいいよ?」
「ちぇっ。は〜ぁい。まっじゃあ帰りましょうか?駅まで道は一緒ですし。」
「そうだね。じゃあ行こうか。」
日の登り始めた午前一時。渚沙くんと歩いていると、”チリンッ、チリンッ”とかすかに小さな鈴の音が聞こえてきた。
「渚沙くん。さっきの音聞こえたかい?”チリンッ”という小さな鈴の音だと思うんだけど。」
「先輩も聞こえましたか?私も聞き間違えだと思いましたけどやっぱり鳴っていましたよね!そこの脇道の奥から聞こえた気がしましたよ。ちょっと見に行きましょうよ!さぁさぁ早く!!」
渚沙くんに無理やり手を引かれ脇道につれてこられてしまった。渚沙くんの好奇心にも困ったものだ。
「先輩。あそこじゃないですか?」
渚沙くんの指さした場所を見てみると、すぐにでも崩れてしまいそうな鳥居が目に入った。片方の柱が崩れ鳥居が傾いてしまっているが、その神社は私が今まで見てきた中で一番幻想的な場所だった。
建物は崩れてしまいそうなのに、いまだ立派に存在感を放っている。
気づかないうちに神社に見惚れてしまていたようだ。渚沙くんに肩を叩かれびっくりしてしまった。
「先輩。大丈夫ですか?」
会社で心配されていたこともあり、体調が悪いのかもと心配されていたようだ。さっきまですこぶる体調の悪かったからだが今では体に生気が満ちているように感じた。
「あ、あぁごめんね。大丈夫。少しこの神社に見惚れていただけだよ。どうする入ってみるかい?」
そう尋ねると
「はい!せっかくですからお参りもしていきましょう!」
そんな、親にもらったおもちゃを眺めるように目をキラキラとさせている渚沙くんについていくと小さくも大きなとてつもない存在感を持つ祠と賽銭箱にたどりついた。
渚沙くんとともに賽銭箱に5円玉を入れ、神社に手を合わせた。
妻と子供が亡くなってからというもの、仕事しかすることがなく、後輩たちがらくできるようにと考えていた結果、最近体に限界が近いということもわかっていた。そんなことを思っていると渚沙くんはすでに手を話し知多。妙に感傷に浸っていたせいか少し真剣に手を合わせていた。
「渚沙くん。お願い事はできたかい?」
「はい!ファンタジー世界のような超能力を使って人生を楽しみたいです。ってお願いしました。」
「それは大層なお願い事だね。じゃあお願い事もできたことだし、そろそろ帰ろうか。」
そう言い、渚沙くんとともに神社の鳥居をくぐろうとしたとき今度はハッキリと”チリンッ”と鈴の音が聞こえた。
「先輩!また鈴の音が聞こえましたよ!もしかして神社に何かあるんじゃ。」
そんな事を言っていると、眼の前が突然強い光にさらされた。徐々に光が静まっていく中、光の奥に鈴のついた猫と女の人が見えた気がした。
気の所為だと思い、ようやく光に目が慣れてきたところで、渚沙くんの方に目をやると少し残念そうな顔をしていた。
「どうしたんだい?なにか残念そうな顔をしているけど。」
「どうしたもこうしたもありませんよ!鈴の音とともに光りだす眼前。これはもう異世界への召喚だと思うじゃないですか!なのになんですか!眼の前に広がるのは暗い道に広がるゴミと私達を照らす月明かりだけですよ。」
身振り手振りを使って力説を解いたあと、あぁ~あ期待したのになぁと愚痴をこぼしている中、私だけは渚沙くんの言った”月明かり”という言葉に違和感を感じ空を見上げていた。
「渚沙くん。君の予想は当たっていたようだよ。」
神社を出る前に時間を確認したときは午前二時すぎだった。そこから月明かりに照らされているというのはなんだかおかしい気がして空を見上げると、やはり予想は当たったようだ。
空には、自分は特別だとでも言うように圧倒的な存在感を放つ”小さな太陽”と、それを囲む赤、青、黄、紫に”煌々と輝く四つの月”が浮かんでいた。
渚沙くんは、大声で喜びその高揚感を体で表し、何も起こるはずがないだろうと革新していた私も眼の前の現実に目を奪われ、胸の奥から沸々と好奇心と高揚感が湧き上がってくるのを感じていた。
ただ会社から後輩とともに帰っていたというだけなのにこの世界はどうしてしまったのだろうか。
一抹の不安を抱える中、それをかき消すような非日常への好奇心を眼の前の”明け方の奇跡”が運んでくるような気がした。
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