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#2 “好奇心”の奴隷

怪異というもの自体は存在しない。


どちらかと言えば現象のひとつと言える。


条件は様々だが、

三度見れば死ぬ絵画。座ると死ぬ椅子。抱くと悪夢を見る人形。

といった具合。


定義付けられた怪異という“存在”ではなく、何かの拍子に起きただけの現象なのだ。


――人がその正体を知ることは、今後も無いだろうが。




俺は家に着くとすぐさまパソコンを開いた。

今日は写真を撮れなかった。

だが、そんなことを気にするより早く調べたいことがあった。




“見る”のがダメでも“調べる”くらいなら平気だろ



そして、ついさっきの出来事を頭の中で整理する。


不気味な転校生であり、俺が人生初の一目惚れをした相手。

―神原 澪―


突如現れた彼女の手で目を覆われ、

今日見た不思議な“影”を見るなと言われる…


これだけ聞くと彼女は少し変なやつだ。

話した印象は悪くなかったが、やはりあの手の冷たさは頭に残る。冬にしても冷えすぎだ


ただ、顔は変わらず生気が無かった。

そのせいで、言葉に妙な説得力があった…ように思った。


だとしても、好きな相手の言葉を信じずして何が男か

見るのはやめとくとして、調べはしよう。


俺はキーボードに手を置くとそそくさと入力をする


『影 妙な動き 夕方』


『影 変な動き』


『ゆらゆら揺れる 影』


何件も検索をかけたが、回答は全て同じく『蜃気楼』だった。


そんなはずはないと直感している。

絶対にあれは実態を持ってるはずだ。


影とは平面に映るものだ。

だが、あの影はゆらゆらと動き、

あまつさえ、“立体的”だったのだから。


頭部のような箇所も見えたし、四肢だってあるようには見えた。

だから、絶対に生き物ではあるはずなんだ。


今日はもう眠い。

眠れば大抵の事は忘れることができる。


まだ眠気のあるうちに布団に入った。

水の流れに身を任せるように、だんだんと力を抜いていく。

そうすると、いつものように意識は手放される。




次の日。

碧は早朝に準備を済ませ、他よりも早い時間に家を出る。


理由はこれだ。


「やっぱり冬の朝はモヤがかかってていいな。こんな田舎道も綺麗に映る。」

そんな独り言を呟きながら、携帯のシャッターを鳴らす。


「これは…」

もやの中で一際目立つ黒い影。

昨日の影だ。絶対そうだ。

ゆらゆら蠢く影は昨日見たものそのままだ。



俺は走った。

学校までの道を。


もやの中を泳いでいくように手を振った。


怖い。そう思った


昨日の時点で調べることはしたが、結局正体は掴めていなかった。

未知を既知に変えることができれば、恐怖というのも覚えない。

だが、未知は未知のまま。寝てる間にもそれに対する疑念は膨れ上がっていた。


学校までの道には祐の家がある。

俺は、祐の家の前まで来ると、ゼェハァ言いながら電話をかける。


「…なんだよ、こんな朝っぱらに…まだねみぃよぉ」

少々悪態をつかれたが、友人がいれば心強い。


「久しぶりに早めに学校に誘おうと思ってな。」

先までの恐怖など感じさせないように言ってみせる。

額にある汗はまだ冷えきっていない。


祐は何かと良い奴だ。

俺がそう言うと何かを感じ取ったのかすぐに準備を済ませてきた。

「朝飯買いたいからコンビニだけ寄っていいか?」


「ああ」


さっきの影…朝散歩をしてる人の可能性もあるが、昨日のことも相まってそうじゃないとしか思えない。


その後。学校までの道中であの“影”を見ることはなかった。

ただ、駄弁りながらの平和な登校。


嵐の前の静けさのような妙な感覚はあったが、気にしなかった。否、気にしてはいけないような気がした。


神原 澪。彼女は何かを知っている。

今日学校に着いたらまずは、


彼女に話を聞こう。





学校に着くと、まず最初に彼女の元へと向かった。

祐と歩いていたら、思いの外時間がかかってしまったらしい。


クラスの八割以上がもう教室にはいた。


俺はすぐさま彼女の元へと向かう。

無論、神原 澪だ。


「神原さん」


「なに?」

澪は歪な笑みを浮かべながら、優しく言った


この時点で周囲はザワついていた。

来たばかりの転校生。しかも相当無愛想な子だ。

昨日の今日で誰もが関心を無くしているのに、このタイミングでなぜ話しかけたのか?


「お昼、時間ある?」


「…あるよ。どうして?」


「ここじゃ話しにくいことがあるんだ」

それを聞いた他生徒は意外な顔をした。

碧は人を好きにならない人間。

それが共通認識なのだ。


そんな人物が女性を昼ごはんに誘う。しかも、ここではしにくい話をするためというのだから、周りの気持ちも理解出来る。


「いいよ。お昼、一緒に食べよっか。」

伏し目がちに言う彼女の睫毛は綺麗だった。



俺は授業中もずっと考えてしまう。

あの影のこと、そして

―それを知っているかのような神原 澪。


影は恐怖を拭うために正体を知りたいと思っている。

が、神原 澪にだけは別の好奇心がある。


知りたい。神原 澪を。

彼女は何を知っているんだ?その知識を、彼女自身を、


“俺のものにしたい”



そう思ってしまった。

俺はどうしようもないほど、


―――好奇心の奴隷だ。

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