#1 不気味な転校生について。
怪異とは―
怪異というのは存在しないが、現象として確かに“ある”ナニカの総称。
彼らの起こす現象というのは軽微なものもあるが、大きなものもある。
だが、その目的と意図は不明である。
今日、転校生がやってきた。
“不気味”だな。そう思った。
肌は綺麗。眉毛もきちんと整えられている。小柄で男ウケもいいだろう。
だが、目元には大きなくまを作り、瞳の中には陰しかない。
そんな女なら話は別だ。
帰りの道中そんなことを思っていた。
「“碧”!!聞いてんの?」
「ああ、ごめん。ちょっと考え事。」
「もしかして、今日の転校生のこと?」
こいつは祐。しょっちゅう新しい女の子を連れてくるようなやつだが、俺の友人だ。
「そうなんだよ。あの転校生、なんか不気味じゃないか?」
「ああ…たしかに。どっか近寄り難いとこあるよな!女子たちに質問されても、うんともすんとも言わないし!」
少し苦笑いをしながら祐は答えた。
そう。その転校生は“女”なのだ。
良くいえば儚い。悪く―いや、率直に言うのなら嫌なやつだ。
人というのは知的好奇心からなのか、自分とは遠い人間を好きになるという。
俺は、そんな女を好きになってしまった。
一目惚れというやつだ。
自分でもこんな簡単に惹かれるとは思っていなかったけれど、存外そんなこともないらしい。
「じゃあ、またあした!」
「おう」
祐と別れると、俺はスマホを手に取る。
今は夕方、ちょうど空が紅色に染まる時間だ。
密かな趣味のひとつに写真がある。
日頃から撮った風景や、生き物の写真を見ると、どこか心が落ち着く。
俺は手に取ったスマホのカメラを起動し、目の前の風景を収めようと正面に向けた。
そこには無機質な街灯と、田んぼ道。それに綺麗な夕焼けがあったが、ひとつ動くものが。それも、奥の方にだ。
黒い影が見え、俺は迷わず走り出した。
猫であればそれを画角に収めたい。
猫はめっぽう好きなのだ。気まぐれでいつ現れ、いつ消えるかが分からないあの生き物が。
スマホをポケットにしまい、先程の影にだんだんと迫っていく。
近づいていくと分かってきたが、猫ではないようだ。
影はゆらゆらと揺れており、踊っているようだった。
蜃気楼の類かと思うが、今は真冬。しかも、日が落ちているのだから、そんなはずも無い。
もしかすると人。人の方向へ走っていってしまえばストーカーかなんかと間違われる。
そんなのはごめんだ。俺はスピードを落として息を整えようとする。
次の瞬間、影はおかしな動きをしだした。
到底人の身では起きえない関節の動き。
だが、俺の頭はそんなこと考える余地もなかった。
なんだあれ。近くで見てみたい。
人は好奇心の奴隷。思ってしまったが最後、足は独りでにそちらに向かってしまう。
あと少しすれば顔は見えるだろう。一体どんな生き物が…楽しみだ。
その時だった。急に冷たいものが目を覆った。
ピタッと顔に張り付くかのようなそれをがむしゃらに引き剥がそうとする
「うわ…ッ!」
掴んでみるとそれは“手”だった。
白く小さい。が、友人か誰かのイタズラかと思った俺は振り向きざまに言った
「祐…!!なにすんだよ!」
そこに祐の姿はなかった
視線を下の方に向けると髪の長いものが。
「な、君は…!」
そこで俺は言葉に詰まる。
元々人の名前を覚えることは不得手なのだ。
たじろぐ俺にそれは言った。
「神原澪…自己紹介したのに、もう忘れたの?」
表情は見えないが、不気味なこの感覚。覚えがある。
自己紹介したのに―この言葉でわかるように、これは転校生。
俺の一目惚れした相手。
そんな相手の名前を忘れているとは、自分の悪癖にうんざりする。
「あれ。見ちゃ“ダメ”だよ」
そういって神原澪は先程の影の方へと指をさす。
「どうして?」
そう聞くが、口を噤んでしまった。
「とにかく、約束だから」
そういって小指を差し出してくる。
頭がハテナでいっぱいだが、俺の小指は既に神原澪の小指と固く結ばれていた。
「…指切りげんまん」
気恥しくてそっぽを向いたが、それは少し可哀想かと思い、向き直す。
だが、その時には神原澪の姿は消えていた。
好きすぎて変な幻覚を見たのか?とさえ思うが、さすがにそれは無いだろう。
どこか違和感を感じながらも、俺は家へと帰った。
「――猫みたいなやつ。」
最後まで見てくださった方、ありがとうございます。
怪異はまだ出てきていませんが、これより先がこの作品の本分です。
その“本分”を見るまで、その指を止めないでください




