表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/18

11,あの日、手にした物こそ


 カリオルはコホンと咳払いをしてから、神々と加護について説明を始めた。

 

「グリース大陸は、“音楽の神の加護を受けし地”と呼ばれておる。“音の加護”を授ける男神オリュロン、“歌の加護”を授ける女神エディオラ。この神々は東西に分かれ、それぞれを信仰する者達に特別な力を授け、加護の力と信仰を守ってきた。それは知っておるな?」

「はい」

「神々が東西に分かれているのは、神々の勢力争い説や不仲説……色々と語られておる。じゃがのぅ、このディーロス帝国の特別書庫には、禁書として扱われている書物があるんじゃ」


 エウテは「禁書!?」と驚いた声を上げ、ミュシュも思わずぐっと身構えてしまう。


「それは東側の者達にとっては到底受け入れ難いものとして、大陸から抹消された本でな。唯一残っている一冊ではないかと儂らは考えておる」

「……そこには、なにが、かかれているのですか?」


 ミュシュが恐る恐る問うと、カリオルは実際に本を朗読するように言葉を紡いだ。

 

「禁書にはこう記されておる。『男神オリュロンと女神エディオラは、元々夫婦神である。だが、加護を当たり前に思うようになった人の世で派閥が生まれ、大陸の東西に信仰が分かたれた。その時、夫婦神の神具のうち、女神エディオラが喉を潤し癒したとされる聖杯が失われたために、西側から女神エディオラの加護が消えた。西側には、男神オリュロンの竪琴だけが残されており、故に、今は“音の加護”のみが授けられているのだろう』とな」


 ミュシュは口元を覆う。エウテは「それって……」と呟き、


「それじゃあ、元々大陸全部に、“音の加護”も“歌の加護”もあったってこと……?」


と、震える声で問う。カリオルは重々しく頷いた。


「信じ難い話かもしれんが、禁書にはそう残されておってな。更に、こうも書かれておった。『神から直接の加護を受けし者のみ、大いなる奇跡を扱える力を授かる』とも。確証のない古い文献じゃが……。儂らは男神オリュロンの竪琴も、どんなものか分からぬからのぅ」

「竪琴なんて沢山あるからねぇ。西側のどの国にあるかも分からないし」


 スティはそう言って肩を竦める。カリオルが「そうじゃよなぁ」と和やかに笑う中、ミュシュは顔を真っ青にしていた。首を小さく左右に振り、口を押さえていた手を離してじっと見つめる。


 ――あの日、私が手にしていた“あれ”は……?


 ぶるりと体を震わせ、両腕でその身を抱き締めた。自分のした行為が神への冒涜だったのではと恐ろしくなる。スティが慌ててミュシュの顔を覗き込む。


「大丈夫!?気分が悪くなったの!?」

「だい、じょうぶ……。それよりも、そのせいはいって、きんいろのほうせきがうまっている、ぎんいろのはい……ですか?」

「……なんじゃと?」

「ミュシュ、聖杯を知っているの!?」


 カリオルとスティの視線が一斉に突き刺さる。スティに両肩を掴まれ、顔を青くしたままのミュシュはぎゅっと目を瞑った。


 それを語るには、自分が何者だったのかを話さなければいけなくなる。


 彼らは、『毒を飲まされた』とだけ伝えたミュシュに、それ以上のことを尋ねてこなかった。ミュシュを『訳ありの哀れな女性』として扱ってくれていた。命を狙われるような、危ない目に合っている人間なのに。


 それによって、どれだけ心が救われてきただろう。思い出したくない過去から逃げ、語らなくていい環境に身を委ねていられたから。詮索されない“今”に甘えていた。


(でも、もう……隠してばかりでは、いられない)

 

 なにせミュシュは、()()()()()()()()()()気がするのだ。


「……わたしのはなしを、きいてもらえる?」


 自然と声が震え、表情も強ばってしまう。そんなミュシュの体を、スティが優しく包んだ。


「問い詰めた張本人が言うのも変だけど、無理して話さなくていいよ。君が東側の人間でも、歌姫でも関係ない。ミュシュはミュシュだ。そんな苦しそうな顔、させたくない」


 スティは優しい声で、「ごめんね」と囁く。ミュシュはふるふると首を横に振りながら、覚悟を表すようにスティの服の裾を握った。


 ミュシュには大昔に何が起きたか知らないし、本当のことを誰が知っているのかも分からない。


 けれど、もしカリオルの語った禁書に記された歴史が事実なら。もしかすると、ミミシーン王国はとんでもないことをしている可能性がある。


「儂らも、聖杯の見た目までは分からん。お嬢ちゃんの言うそれが本物かどうかは、判断出来ぬぞ?」

「それでも……きいて、ほしいの。あれは……まちがいなく、せいはいだったとおもうから」

「ミュシュお姉ちゃんは、その聖杯を見たことがあるの?」


 エウテの純粋な問いに、ミュシュはこくりと頷く。


 戸惑い躊躇(ためら)うミュシュの声も聞かず、一方的にその場を設け、差し出されたそれ。何の説明もなく、ミュシュが筆頭歌姫の座に就いた、あの日。

 

「そのはいで、みずをのんだことが、あるから」

「は!?聖杯で水を飲んだじゃと!?」

「えぇ。……わたし、は、ミミシーンおうこくの、おうきゅうで、ひっとううたひめ……だったから」


 


 それからミュシュは、自分の過去をぽつりぽつりと語った。


 どうして歌姫になったのか、何故筆頭歌姫に選ばれたのか。そして、その聖杯を使った継承の儀についてを彼らに伝えた。


「……つまり、ミミシーン王国の王族は、女神エディオラの神具である聖杯を所有しているって?しかもその存在を秘匿している可能性が高い、ってことだね?」


 スティが低い声で言う。ミュシュは不安そうに俯いた。

 

「だんげんは、できないけれど。あの、ふしぎなかんかくは……きっと、そうだとおもうの」

「神具紛失から、少なくとも五百年は経過しておる。今代の王族がその歴史を知らぬ可能性もゼロではないが……。わざわざ聖杯を用いて継承の儀を行っておる以上、知っておると考えた方が自然じゃろうな」


 揃って思考を巡らせ始めた二人に、エウテが「どうして?」と問う。


「何故、筆頭歌姫が必ず王妃にならねばならん?国に抱え込みたいなら、選択肢の一つとして与えてやるのもよいじゃろうが、必須である必要はなかろう。好いた男と娶せるだけでもいいはずじゃ。それこそ、国の繁栄のために国中に歌を届けさせたいのであれば、王妃という身分の方が足枷にもなるじゃろう」

「確かにそうだよね。つまり……隠し事があるから、王族として引き込むためにってことかな。共犯者として」

「そんな……!?酷いよ!」


 三人の会話に、ミュシュは王妃殿下の存在を振り返った。


 国王陛下と仲睦まじく、煌びやかで艶やかな方。筆頭歌姫や王妃の地位を、心から望んでいるように見えた。


(でも、そういえば……歌の力はどうだったかしら)


 そう考えて、王宮内で聞いたことのある、王国の歴史書にも載っていない噂話をミュシュは思い出す。


「そういえば……。たしか、いまのおうひでんかのまえに、ひっとううたひめの、こうほしゃがいたって……きいたことが、あるわ」

「……本当?それは調べたら、何か出てくるかもしれないね」


 そう言って、スティの目が鋭くなる。どんどん大事になっていく話に、ミュシュは口を引き結ぶ。


「それにしても、じゃ。お嬢ちゃんが隣国で筆頭歌姫を務めておったとは。しかも神具の聖杯で水を……。なるほどのぅ」


 何かに納得したような表情を浮かべるカリオルは、スティへと視線を向ける。


「分かっておるな?お嬢ちゃんの存在は、王国の王族が隠したい存在、もしくは消したい証人になっているやもしれん。今まで無事だったのも奇跡なくらいじゃ」

「そうだね。色々と交渉してみるよ。ミュシュをこんな目に遭わせた奴らを許せそうにないしね」

「スティさん、情けは無用だよ!もうミュシュお姉ちゃんが傷付かないように、徹底的にやっつけて!」


 威厳たっぷりな声を放つカリオル。黒い笑みを浮かべるスティ。物騒な提案をするエウテ。


 祖国に対してあまりにも好戦的な発言をする三人を前にして。ミュシュはパチパチと目を瞬きながら、止めるべきかどうするべきか、当事者でありながら狼狽えていた。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ