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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪妃カリーナは生まれ変わっても悪女のまま。

作者: しぃ太郎

よくあるゆるふわ設定です。


温かい目で読んで下さると嬉しいです。

「悪妃、カリーナ!その血で以って貴様の罪を償え!」


 死刑台の上の私は既に心が壊れかけていて、寧ろ早く殺して欲しかった。

 見物人が石を投げてくる。運良く当たった石は私を傷つけ、血を流させる。


「死ね!悪女!」


 そう。早く私は死ねばいい。

 彼にも見捨てられ、生きる意味なんてもう無いわ。



 ※ ※ ※



「そうやって、私は暴漢に色々されて引きずり回されて、死刑台で死んだわけよ」


「リナ。そんなエグい話を俺にするなよな」


 ――確かに、15歳の少年にする話では無かったかもしれない。


「だって、本当のことだし。マシューの他にまともに聞いてくれる人なんて居ないしね」


 今は村の子たちと薬草や食べられる野草を採りに来ている。


 前に大きな街に買い出しに行った時、図書館で歴史の本を読んでみた。

 私が妄想でおかしくなってしまったのか確かめたかったのだ。

 悪女カリーナの記録はちゃんとあった。


(良かった)


 最初に浮かんだ感想だ。

 生まれてから、習っていない文字が理解できる事が怖かった。知らない記憶に魘される事も怖かった。周りの人達にも気味悪がられた。


 ――でも、本当に前世の記憶があったのだ。


 妄想じゃなかった。

 自分の頭の中がおかしいのかと不安になっていた頃よりマシだ。


 だから、ありのままに幼馴染みのマシューに話したのだ。

 この村で一緒に育ち、孤立しがちな私をいつも無理やり人の輪に加えた彼。

 夢の中で何度も裏切られ、臆病になってしまった私が微笑えるのは彼のお陰ね。


「それで?散財して国を危機に追いやったカリーナが死んで、その旦那は?」


「歴史書には、戦争の最前線に出ていた国王はカリーナの死後、敗戦国から新しい妃を娶っていると書いてあったわ。まぁ当時から結構な数のお妃様が居たみたい」


「ふーん。ていうかカリーナについてそいつが何か話すエピソードなんて無いのかよ?仮にも自分の奥さんだったんだろ?処刑されたんだろ?」


 それは…。記憶の中の彼にいつも寄り添っていた女性がいた。カリーナは一度も愛された事なんて無かったんだろう。


「陛下には、カリーナより愛していた人が居たのよ。カリーナが死んだ後は暴動も収まった訳だし、そういう意味では感謝してたんじゃない?」


「ふん。ただのクソ野郎じゃないか」


 何をそんなに怒っているのか、マシューの悪態が止まらない。


「お前、そんな男が好きだったとか言わないよな?男の趣味悪すぎだからな、それ」


「確かにカリーナは趣味悪いわよね。陛下は顔だけは良かったかしら?でも、もう前世の事だし今はリナだもの。別に何も関係無いわ」


「ならいいけどさ。何かあったら今みたいにまた頼れよな。お前とは生まれた時からの付き合いなんだから」


「そうね、昔の記憶があったからマシューが可愛くて構っちゃったんだわ。だから一歳年下だからってコンプレックス感じないでね?」


 マシューの頬をつねる。


「わ!やめろ。いい加減、気軽に触れてくるなよ」

 

 こんな気安いやり取りが嬉しいわ。

 私は普通の村娘でただのマシューの幼馴染みだもの。昔の事なんて関係無いって本当よ。


 まぁ、可愛かったのは少し前までで今は……。



 そんな時に村の高見櫓(たかみやぐら)から、鐘を鳴らす音が聞こえた。何度も打ち鳴らしている。

 嫌な感じだ。


「おい、すぐに戻るぞ!」


 マシューが私の腕を引っ張って村への道に戻ろうとする。


「待って。あの鳴らし方はおかしいわ。マシュー、あなたはあの子たちを連れて森に逃げて。私が確認してくるわ」


 私がそう言い返した途端、彼は激昂した。


「馬鹿野郎!村に何かあったんなら、俺が行ったほうがいいだろうが」


 そうよね。

 血の気の多い、正義感の強い彼ならそう言うのも理解出来る。

 でも、私は今の生活が気に入っているから。

 丸ごと守りたいのよね。


「これから夜になるとあの子たちも不安になるわ。私よりあなたの方が守ってあげられるでしょう?それに、何もなかったらすぐに戻ってくるわ。でも1時間経っても戻らない時は、真っ直ぐ街に行ってね、約束よ」


――チリチリと肌を何かが刺激する。この感覚…。


 この子達をこの場から早く逃さなければ、危ないかもしれない。


「わかった」


 マシューが答えてくれたのでホッとして笑みが漏れる。

 コツンと彼の額を小突く。

 不機嫌そうな顔ね、全く。だからこそ彼が無茶をする前に動いてしまおう。


「じゃあ、ちょっと村の様子を見てくるわ。後はよろしくね」


 村への道を避け、草陰から近づいていく。とりあえず、離れた所から様子を見よう。


 カリーナは国を守ったかもしれないが、私は違う。

 ただ、今の小さな世界だけを守れればいいのだ。


 それを脅かす奴がいるなら――。


 ※ ※ ※




 リナは俺から背を向けて、茂みに入って行った。


「わかった。お前が、俺を本当に子供扱いしているのがわかった。お前が、自分勝手で何でも1人でやろうとするバカだってよーくわかった」


 握り込んだ拳に血が滲むがそんな事はどうでもいい。

 未だに子供扱いされる事が物凄く悔しいが。

 全然男に見られてないのも情けないが。


 とりあえず、俺がリナを1人で行かせるワケがないだろう。

 あの馬鹿はそんな事もわからない。


「ルッツ!お前に任せていいか?さっきの話は聞いていただろ?」


 幼馴染みの悪友に声をかけた。


「おう。気をつけて行けよ。ヤバい予感がするから、先にチビ共と移動しておくわ」


 リナ。あいつ。

 昔から、自分を大切にしないのがムカつくんだ!

 それで、すぐに俺を言いくるめられると思っている所もな。

 それを全部ひっくり返してやる。


 リナとは別の草陰から村に向かって走る。極力音を立てないように。

 腰のナイフも落としていないか確認した。

 刃物の柄を握った時の安心感。


 ――大丈夫だ。


 ギュッとそのまま右手で握り込み、何かがあった時に対応できるように鞘から抜いておく。


 5分ほど走ると村の入り口が見えてきた。

 いつも見張りで立っているオッサンが居ない。


 ―――これは。


 リナの予感が正しかったわけだ。

 あのまま、まんまと帰っていたらどうなっていた事やら。


(ここからじゃ、中の様子がわからないな)


 どう動くべきか。

 中の人達はどうなっているのだろう。


 リナの事も心配だ。そんなに無茶な事はしないと思うが、あいつ、滅茶苦茶だからな。

 さっきの話が本当かどうかは俺にはわからないが、軽く話しているように見せていても、何処か傷ついた瞳をしていた。

 本人は気づいてもいないだろうが。

 だからって訳じゃないが、昔からその危うさが心配だったのだ。


 しかし中の様子が見えないとどうしようもないな。

(木の上に登ってみるか)


 目立たない場所に生えている木によじ登り、上から村の様子を探ってみた。


 見たことのない明らかに柄が悪い男共が、村の中央で大人達、主に女性と老人を縛り上げていた。

 その中には、今日森に入っていなかった子供も数人いる。

 さっき、高見櫓で鐘を鳴らした理由は、森に行っていた子供達を呼び戻す為だろう。


(人拐いが目的か)


 この村の男性たちは基本的に外へ出稼ぎに行っている。

 きっと彼らが帰ってくる前に、売るなりするつもりなのだう。


 ――人質に取られると厄介だな。


 見える範囲だけだが、ざっと数えて奴らは10人か?

 しかし、見えないだけでもっと多いと思っておいたほうがいい。

 早めに動かないと、あの人達が危険だ。


(奴らに気づかれる前に一気に動く!)


 物音を立てないように木から降り、村の入り口から死角になっている場所から速やかに入り込む。

 そこから、家や物置の陰を移動して中央に近づいていく…。


 ――背後に人の気配!


 振り向き様に、ナイフを振り払う。狙いは高め、喉元の当たりだ。


『待って待って。私よマシュー』

『リナ!?不用意に近づくなよ、斬る所だったじゃないか』

『結局来ちゃったのね。でも、マシューと一緒だと皆を助けやすいわ。私は右回り、あなたは左回りで回り込んで一気にいくわよ。後は各自の判断でね』

『了解。お互い油断しないように』


 2人同時に別方向へ移動を始める。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()


 実はリナは強い。俺だって負けてない。

 俺たちの親は傭兵だ。

 

 この村は、傭兵達の村。俺達は次の稼ぎ頭として幼い頃から訓練されている。

 ここを狙ったのが奴らの運の尽きだったのだ。

 

 彼女が一人目を制圧して気を引いているうちに、俺も反対側の奴を斬る。


 奴らが状況を把握出来ていない間がチャンスだ。


 ――今、畳み込む!


 確実に、喉を狙って。それが無理なら動けないように両足を。


(悪女だか悪妃だか知らないが、リナはこんなに綺麗だ。こんなに血が似合う女、他に居ないな!)


 次々に敵を片付けて行くリナ。相変わらず淡々としている所が笑える。


「やっぱり、お前を見捨てたって男は見る目全然ねーな!」


 こっちも負けていられないから、隠れていた敵に斬り掛かっていく。驚きに目を見開く男、そいつにナイフをぶち込む。いつまでも弟扱いしてんじゃねぇよ!


 ――2人で、ものの数分で片が付いた。


 縛られていた人達を解放して、周囲をもう一度見回って一息つく。


 こちらに殺された人はいなかった。良かった。


 事切れた死体は、帰ってきた村の男たちに任せよう。彼らは怒り狂って、残党を探し回るかもしれないが。


 ルッツの方も大丈夫だろう。あいつも無能では無いから。


「流石じゃん、リナ。すぐに片付いたな。それに、話の通りの悪女っぽいぞ。今の姿」


「マシューだって血塗れで、目つきも鋭いからまるで悪者よ。全く張り切っちゃって。でも無事で良かった」


 お互いに笑い合う。村が無事で良かった。リナが無事で良かった。



 ※ ※ ※



「やっぱり、お前を見捨てたって男は見る目全然ねーな!」


 戦っている時に聞こえたマシューの言葉。


 そうよね。

 全然見る目の無い人だったわ。平民の女に入れ上げ、国を傾け。それを戦争で領土を広げることで何とかしようとした。それに。

 

 カリーナを悪女に仕立て上げ、人々の不満の解消に使った。


(まぁ、あんたの方が強いし、いい男だわ。マシュー)


 真っ赤な血に染まって笑いながら斬り掛かっていくのは少し悪趣味だけれどね。


「もうちょっと成長してくれないと弟枠で終わっちゃうわよ?」


 でも、近い将来に彼も立派な男性になるだろう。


(結局、リナだって悪女なのかも。あんたの気持ちに気付かない振りをしてるんだもの)


 

 

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