表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第二章 軍事大学校編
43/44

騎獣グランス


――かつて、セイラム王国は瘴気に覆われた死の大地だった。

 大地から立ち上る黒煙と腐臭。そこでは、瘴気に侵され狂暴化した二足獣の魔物たちが群れを成していた。


 そんな地に、天より舞い降りたとされるのが女神エーリアである。

 伝説によれば、彼女は竜たちと共にこの地の瘴気を浄化し、人々に光と秩序をもたらしたという。


 多くの魔物はその光に焼かれて消えた。

 だが一部は適応し、人と共にこの地に根付き、新たな生態系を築いた――。


 その中でも、最も人と親和性を示した種がいる。


          ◇


 牧場の中央。

 乾いた風が吹く中で、ダミアン教官が声を張り上げた。

 背後には柵の中で走り回る数十頭の獣――それは馬のようで、馬ではなかった。


「そんな魔物の変異種として生まれたのが――この《グランス》だッ!」


 教官は見事な鞍にまたがり、誇らしげに手綱を掲げる。

 しなやかな肢、炎のように赤いたてがみ、蹄からは微かな光が漏れている。

 瞳は人のように知性を帯び、鼻息が白く弾けた。




 ダミアンが胸を張る。

「グランス――セイラム王国騎士団専用の騎獣だ!

 魔力炉は持たねぇが、瘴気や魔力への耐性が抜群ッ!」


 さらに自身の闘気を爆発させる。

 闘気がグランスの体を包み、たてがみが光を放った。


「見ろ! 騎士の闘気と共鳴し、能力を引き上げる特性を持つ!」

 観覧していた学生たちから歓声が上がる。


「いいかぁ、貴様ら! お前らの多くは竜騎士志望だろうが、

 竜騎士になれるのはほんの一握りだ!」


 砂を蹴って馬上で一回転。

「そもそも飛竜は夜を嫌う。飛行も危険で、普段使いには向かねぇ。

 だから竜騎士でも、日常の任務ではグランスに乗るんだッ!」


 ダミアンはにやりと笑う。

「つまりこのグランスを乗りこなすことこそ、セイラム騎士の本懐だ!」


 彼は大げさに両手を広げた。

「というわけで――お前らに国からありがた〜いプレゼントだ!

 内定者、つまり“おっさん班”から順に、自分に合うグランスを選べッ!」


 ざわり、と周囲がざわつく。


 「おっさん班……?」とルーカが呟く。

 ダミアンが顎でリーザスたちを指した。


「そうだ。そこの内定組ども――まずは入れ!」


 一般学生たちの間に、ざわめきと嫉妬が広がる。

 ダミアンはさらにあおるように笑った。

「本当はな、俺は贔屓なんて嫌いなんだが、上からの命令だ。

 こいつらが先だ。……みんな納得してくれよなぁ?」


 その言葉に、一般生徒たちの視線が鋭く突き刺さる。


「でもみんな! ズルいと思うだろう?」

 煽るような声に、あちこちから冷笑と野次が飛んだ。


 リーザスが小さくため息をつく。


          ◇


 柵の中に入る内定者組。

 ダミアンが適当に呼び名を付けたその班は、いつの間にか“おっさん班”と定着していた。


 ルーカが苦笑しながら呟く。

「おっさん? 僕まだ十八なんだけど……」


 クレオが頭を掻く。

「なんで俺たちまでまとめておっさん扱いなんだよ。おっさんなのはリーザスだけだろ」


「……悪かったな」

 リーザスは頬を掻き、気まずそうに笑った。


「まあまあ」

 ルーカが取りなす。

「リーザスさんが班長って意味ですよ」


「……そういうことにしとく」


 アブラナが腕を回してにかっと笑う。

「それより早ぐ選ぶべ! オラ、気がはえーんだ」

「俺はもう決めた」

 ゼファルドが黒い騎獣を指差す。


「行くぞ!」


 彼は柵を飛び越え、黒いグランスの前へ躍り出た。

 闘気が砂を巻き上げる。


 黒いグランスが警戒して後ずさるが、ゼファルドは素早く印を結ぶ。

「――はっ!」


 闘気が爆ぜ、グランスの全身を包む。

 その瞳が金色に染まり、やがて従順に頭を下げた。


「これから頼むぞ、相棒」

 黒いグランスが嘶く。


 近くで見ていたクレオが口笛を吹いた。

「すげぇな。何が決め手だった?」

「色だ」


「……色!?」


 クレオは呆れつつも笑った。

「じゃあ、俺はあいつにする!」

 彼が選んだのは、立髪が金色で、どこか自分に似た派手なグランスだった。


「オラはこのシマシマの!」

 アブラナが縞模様の個体を指差す。


 リーザスはメルナの方を見る。

 しかし彼女は少し顔色が悪く、胸に手を当てていた。


「大丈夫か、メルナ」

「……連日の疲れが出てるだけですわ。おかまいなく」


「でも――」

「おかまいなく」

 ぴしゃりと遮られ、リーザスは口を閉ざす。


「わ、わかったよ……」


 他の仲間たちはそれぞれの騎獣を探しに散っていった。

 リーザスは独り、柵の中で途方に暮れる。


「さて、俺はどれにするか……」


 その背後で、ふいに風が止んだ。


 メルナがしゃがみ込み、胸を押さえている。

 彼女の指先からは薄く光が漏れ、心臓の鼓動がドクン、ドクンと高鳴っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ