決着
◇
アブラナがふっと笑った。
「……今のままなら、だな」
地面を強く踏み締める。砂煙が舞い上がる。
「じゃあ、今のままで出せる最高の技で決着にすっぞ!」
メルナも頷き、細い指先を突き出す。
「……わかりました」
腰を低くし、突きの構えを取る。
その姿はまるで剣士――あるいは牙突のように一直線。
「――【アクセレイション】」
メルナの身体が霞む。
空気が震え、視界からその姿が消えた。
「加速魔法……!?」
ルーカが驚愕し、クレオが歯を食いしばる。
「もう何でもアリだな、あの女!」
風を切る音。
メルナの姿がアブラナの背後に出現した。
「!」
アブラナが振り向く。
反射的に拳を振るうが、空を切った。
その瞬間、顎に電撃を帯びた拳がめり込む。
アブラナの身体が揺れる。
一瞬、意識が白く飛んだ。
しかし――。
彼女の右腕には、光が宿っていた。
闘気の渦が拳に集まり、骨の軋む音がする。
「竜……爪……」
その声に、メルナの顔が強張る。
アブラナの足元に、竜の爪痕のような光が広がる。
熱風が吹き、空気が唸った。
メルナは慌てて距離を取る。
彼女の足元の砂が焼け、靴底が焦げる。
リーザスが呟いた。
「あ、あれは……!」
クレオが息を呑む。
「竜爪剣……?」
しかし、それは剣ではなかった。
アブラナの拳に宿る“竜の爪”――竜騎士の証の力が、今まさに覚醒しようとしていた。
地響きが走り、訓練場の砂が渦を巻く。
炎竜の咆哮の幻が、彼女の背中で燃え上がった。
誰もがその光景に息を呑む。
竜騎士アブラナ・ルーエン――その真の姿が、ようやく姿を現そうとしていた。
訓練場に立つ二つの影。
竜の力を宿す少女アブラナと、魔法を操る少女メルナ。
空気が震え、砂粒が宙に浮かんでいる。
腕立てを続けるリーザスたちが、その戦いを見上げていた。
遠くからでも、闘気と魔力が混じり合う轟音が伝わってくる。
「竜……爪……」
アブラナの拳が、白い熱を帯びた。
「!」
メルナの瞳が大きく見開かれる。
「――爆撃掌ッ!!」
アブラナの拳が一閃。
風が爆ぜ、衝撃が走る。
メルナの身体が宙に浮き、まるで時間が止まったように空中で捻じ曲がる。
次の瞬間、爆風。
「きゃああああああああ!」
拳は一度しか放たれていない。
だが全身に何十もの衝撃が同時に叩き込まれ、メルナの体が砂上に崩れ落ちた。
あまりの威力に訓練場全体が静まり返る。
吹き荒れる砂の中、メルナはピクリとも動かない。
ダミアンが確認し、重々しく腕を上げた。
「――勝者、アブラナ!」
歓声が上がる。
その中で、リーザスの目がひくひくと震えていた。
「……パ、パクられた……」
彼は勢いよく立ち上がり、腕立ての列から抜け出した。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
ダミアンとアブラナが振り返る。
「それ、俺の技! “竜爪爆震掌”のパクリだろ!」
アブラナは頭を掻いて苦笑いした。
「ご、ごめんなさい。なんか、オラにも出来そうだったから……」
「だからって名前まで同じにするなぁぁ!」
訓練場が笑いに包まれる。
だが、その笑いを切り裂くようにダミアンの声が響いた。
「おいおいおい! おっさん、何勝手に腕立て止めてんだ!?」
「うっ……」
「腕立て一万回追加だ!」
「はぁ!?」
「そして、デブチン! パクリの罪でお前も一万回!」
「そ、そんなぁ……! オラ腕立て苦手なのに!」
「もちろん、ソバカス! 敗北罪で一万回だ!」
「……っ!」
メルナが倒れたまま、うめくように抗議の声をあげた。
こうして、内定者たちの華々しい格技は――結局、全員が腕立てで終わった。
◇




