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ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第二章 軍事大学校編
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決着

           ◇


 アブラナがふっと笑った。

「……今のままなら、だな」


 地面を強く踏み締める。砂煙が舞い上がる。

「じゃあ、今のままで出せる最高の技で決着にすっぞ!」


 メルナも頷き、細い指先を突き出す。

「……わかりました」


 腰を低くし、突きの構えを取る。

 その姿はまるで剣士――あるいは牙突のように一直線。


「――【アクセレイション】」


 メルナの身体が霞む。

 空気が震え、視界からその姿が消えた。


「加速魔法……!?」

 ルーカが驚愕し、クレオが歯を食いしばる。

「もう何でもアリだな、あの女!」


 風を切る音。

 メルナの姿がアブラナの背後に出現した。


「!」

 アブラナが振り向く。


 反射的に拳を振るうが、空を切った。

 その瞬間、顎に電撃を帯びた拳がめり込む。


 アブラナの身体が揺れる。

 一瞬、意識が白く飛んだ。


 しかし――。


 彼女の右腕には、光が宿っていた。

 闘気の渦が拳に集まり、骨の軋む音がする。


「竜……爪……」


 その声に、メルナの顔が強張る。


 アブラナの足元に、竜の爪痕のような光が広がる。

 熱風が吹き、空気が唸った。


 メルナは慌てて距離を取る。

 彼女の足元の砂が焼け、靴底が焦げる。


 リーザスが呟いた。

「あ、あれは……!」


 クレオが息を呑む。

「竜爪剣……?」


 しかし、それは剣ではなかった。

 アブラナの拳に宿る“竜の爪”――竜騎士の証の力が、今まさに覚醒しようとしていた。


 地響きが走り、訓練場の砂が渦を巻く。

 炎竜の咆哮の幻が、彼女の背中で燃え上がった。


 誰もがその光景に息を呑む。

 竜騎士アブラナ・ルーエン――その真の姿が、ようやく姿を現そうとしていた。



訓練場に立つ二つの影。

 竜の力を宿す少女アブラナと、魔法を操る少女メルナ。

 空気が震え、砂粒が宙に浮かんでいる。


 腕立てを続けるリーザスたちが、その戦いを見上げていた。

 遠くからでも、闘気と魔力が混じり合う轟音が伝わってくる。


「竜……爪……」

 アブラナの拳が、白い熱を帯びた。


「!」

 メルナの瞳が大きく見開かれる。


「――爆撃掌ッ!!」


 アブラナの拳が一閃。

 風が爆ぜ、衝撃が走る。

 メルナの身体が宙に浮き、まるで時間が止まったように空中で捻じ曲がる。

 次の瞬間、爆風。


「きゃああああああああ!」


 拳は一度しか放たれていない。

 だが全身に何十もの衝撃が同時に叩き込まれ、メルナの体が砂上に崩れ落ちた。


 あまりの威力に訓練場全体が静まり返る。

 吹き荒れる砂の中、メルナはピクリとも動かない。


 ダミアンが確認し、重々しく腕を上げた。

「――勝者、アブラナ!」


 歓声が上がる。

 その中で、リーザスの目がひくひくと震えていた。


「……パ、パクられた……」


 彼は勢いよく立ち上がり、腕立ての列から抜け出した。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 ダミアンとアブラナが振り返る。

「それ、俺の技! “竜爪爆震掌”のパクリだろ!」


 アブラナは頭を掻いて苦笑いした。

「ご、ごめんなさい。なんか、オラにも出来そうだったから……」


「だからって名前まで同じにするなぁぁ!」


 訓練場が笑いに包まれる。

 だが、その笑いを切り裂くようにダミアンの声が響いた。


「おいおいおい! おっさん、何勝手に腕立て止めてんだ!?」

「うっ……」


「腕立て一万回追加だ!」

「はぁ!?」


「そして、デブチン! パクリの罪でお前も一万回!」

「そ、そんなぁ……! オラ腕立て苦手なのに!」


「もちろん、ソバカス! 敗北罪で一万回だ!」

「……っ!」

 メルナが倒れたまま、うめくように抗議の声をあげた。


 こうして、内定者たちの華々しい格技は――結局、全員が腕立てで終わった。


          ◇


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