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ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第二章 軍事大学校編
40/40

竜騎士

          ◇


 この世界において“竜”とは、上位世界から来た異質の存在。

 彼らが使う力は、瘴気を生まない。

 神でも魔でもない、純粋なエネルギー体。

 ゆえにその力は“古代魔法”と呼ばれる。


 竜と契約した竜騎士は、その力の一部を行使できるとされている。


「おいおい……ってことは、あのメルナ、すでに竜騎士だってことかよ?」

 クレオが目を見開く。


「それは考えにくい」

 ゼファルドが首を振った。

「通常、竜騎士が使える異能は一種類だけ。だが奴は“飛行”“拘束”“雷撃”の三つを使っている」


「……異常だな」

 リーザスは息を呑んだ。


 その時、アブラナが呻き声を上げて立ち上がった。

「くぅ……いてぇ……油断した!」


 メルナの目が見開かれる。

 アブラナは焦げた服のまま笑っていた。


「村で魔物を相手にして、魔法耐性はけっこうつけたつもりだったんだけどな。

 でも……もう覚えた」


 ズシッ。

 足音が砂にめり込む。

 アブラナが再び歩き出す。


「――【バインド】!」


 メルナの声。

 再び光がアブラナを包む。

 だが、彼女は止まらなかった。


「なっ……!?」


 アブラナはゆっくりと息を吸い込み、胸を張る。

 全身から圧が放たれ、光の鎖が悲鳴を上げて砕け散った。


「オラを邪魔すんなぁぁぁぁっ!!!」


 怒号と共に覇気が爆ぜた。

 闘気が吹き荒れ、バインドの結界が破裂する。


 メルナは慌てて右手をかざした。

「【エレキショット】!」


 稲妻が閃き、アブラナを包む。

 しかし――。


 ばちばちと火花を散らしながら、アブラナは不敵に笑っていた。


「……それも、慣れた!」


 砂塵の中、光の中、

 竜の力を宿す者と、竜の魔法を使う者が――激突の時を迎えた。

稲妻が弾ける中、アブラナは笑っていた。

 メルナの右手から流れる電流を、そのまま掴み取っていたのだ。


「――つかまえた!」


 掌から上がる火花を無視して、アブラナは握り込む。

 バチバチと青白い火花が彼女の腕を焼くが、闘気の光がそれを押し返していた。


 次の瞬間、アブラナは肩と腰を同時にひねる。

 筋肉が爆ぜ、メルナの身体が宙に浮き上がった。


「うわっ……!」


 メルナが驚きの声を上げた時には、すでに空中。

 アブラナは片腕で彼女を振り上げ、全身を捻る。

 まるで一本背負いを空で放つような動作だった。


 周囲の騎士たちが息を呑む。

 ダミアンでさえ、目を丸くして声を失っていた。

 遠くで腕立てをしていたリーザスたちも手を止める。


「お、おい……今、浮いてねえか!?」

「空中投げだと!? どういう筋力だあの女……!」


 砂が舞い、空の二人を照らす。

 だがアブラナの表情が一瞬で変わった。


「……あれ? 地面がねえ!」


 勢いよく叩きつけようとしたが、地面が遠い。

 彼女自身の闘気が爆発的に高まり、周囲の重力が乱れていたのだ。

 気づけば、二人とも宙に浮かんでいる。


「空気中のマナを……固定している?」

 ルーカが驚愕に声を漏らす。


 その時、メルナが冷静に身をひねった。

 回転しながら、アブラナの背中へ蹴りを放つ。


「ふっ!」


 つま先が背中を突き、雷撃の光が散る。

 アブラナの体が僅かにのけぞり、二人はそのまま落下した。


 地面を抉る衝撃音。

 砂煙の中、両者はすぐに立ち上がった。


「……」

 互いに無言で睨み合う。


「拮抗しているのか……?」

 クレオが呟く。

 リーザスは腕立てを止め、真剣な目で戦場を見つめた。


 アブラナは拳を鳴らし、歯を見せて笑う。

「おめー、器用だなぁ。オラ、戦いづれえ」


 メルナも肩で息をしながら、メガネを押し上げる。

「こっちの台詞です。あなた、出力が違いすぎて……勝てる気がしません」


「ほんとけ?」

「ええ――“今のままでは”」


 その一言に、周囲がざわめく。

 彼女の瞳の奥に、一瞬だけ竜のような光が宿った。



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