魔法騎士
砂漠の陽光が傾き始める訓練場。
竜騎士アブラナと、そばかす眼鏡のメルナが対峙していた。
見守る学生たちは息を呑む。空気がぴりぴりと張り詰めている。
少し離れた場所では、リーザスたち“おっさん組”が腕立て伏せの罰を続けていた。
その合間にも視線は中央のリングに釘づけだ。
「なぁ、おっさん。あのアブラナが竜と契約した時、居合わせたんだろ?」
クレオが息を弾ませながら尋ねる。
「一体、何があったんだよ」
「……竜と相撲をした」
「は?」
短い答えに、クレオは動きを止めた。
リーザスは当時を思い出す。
灼ける岩山、吹き荒れる闘気、そして――炎竜エルニードの巨体。
「ものすごい闘気の塊になって、炎竜と正面からぶつかったんだ。あの小柄な体でな」
驚愕の表情を浮かべるクレオ、ルーカ、ゼファルド。
「そして……竜を投げ飛ばしちまった」
「俺たちも見たよな、あの炎竜エルニードを……」
クレオが口を開けたまま呟く。
「……とんでもねぇ」
ルーカが頷く。
「……ああ」
リーザスは曖昧に返す。
(まぁ、ちょっとは俺も手伝ったんだけどな)
ゼファルドが腕立ての体勢を崩し、ふと呟いた。
「だが対するメルナ……あいつは解せぬ」
(解せぬ?)ルーカが眉を上げる。
ゼファルドの声音が低くなった。
「魔法を使う“魔力炉”持ちは、この国では禁忌だった。
以前は研究するだけでも処刑対象だった」
「なんだよ、急に語り出して」
「我が一族は、魔力炉を持とうとする人間を“消す”ことを生業としてきた。
魔力は魔を呼ぶ。瘴気を生む。それが掟だ」
ルーカが苦笑する。
「まぁ、ゾラとの戦争で事情が変わったんでしょう。
教皇庁も“使えるものは使う”って方針にしたとか」
「いや、それでも変だ」
クレオが首を振った。
「瘴気を発する魔力炉持ちが、国家の騎士になれるわけねぇ。
騎士の本来の仕事は、瘴気を出す魔物を討伐することだ。
まして奴は元帥閣下直属の第十三騎士団の内定者だろ?」
リーザスは拳を握る。
(この国では、魔法そのものが禁じられている……)
魔法を使うと発生する“瘴気”。
それは新たな魔物を生み、国を蝕む呪いの気。
ゆえに魔法を使える人間は「魔族」として忌み嫌われてきた。
(あのメルナが……? まさか、魔族だってのか)
クレオが低く呟く。
「一体、奴の力ってなんなんだ……?」
その瞬間、ダミアンの声が空気を裂いた。
「アブラナ、メルナ――始めっ!!」
◇
砂塵を踏み締め、アブラナが構える。
「覚悟はいいか?」
爆発するように闘気が噴き出す。
足元の砂が割れた。
「オラ、強えぞ?」
対するメルナは、落ち着いたまま指先をくいくいと動かした。
「本気でいらっしゃい」
その挑発にアブラナが唇を吊り上げる。
「言ったな……!」
彼女は低く構え、地を蹴った。
爆音。
体が矢のように突き進む。
「遠慮しねぇぞ!」
拳が振り下ろされる――が、その瞬間。
「――【バインド】」
メルナの左手が光り、アブラナの体がぴたりと止まった。
「ぐっ……くっ……!」
全身が硬直し、動かない。
メルナは右手を上げる。
指先から青白い火花が走った。
「【エレキショット】」
雷光が走る。
稲妻がアブラナを貫いた。
「がああああああああっ!」
砂の上で電撃がはね、焦げた匂いが広がる。
「かはっ……!」
アブラナが膝をついた。
見ていたリーザスが叫ぶ。
「バカな……今、二種類の魔法を同時に使ったぞ!」
「それだけじゃない」
ルーカが目を細めた。
「普通なら、魔力を使えば瘴気が出るはず。でも――ない」
「神聖術の応用か?」
「ありえません。マナ変換の反応がまったくありません」
ゼファルドの低い声が響く。
「答えは一つしかない。魔族や魔物以外で魔法を使える存在……」
リーザスが呟いた。
「……竜ってことか?」
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