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ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第二章 軍事大学校編
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内定者品評会

 訓練場の朝は、まだ砂の匂いが強かった。

 地面には汗と闘気の匂いが混ざり、熱気を孕んでいる。


「引き続き格技を続ける!」

 ダミアンの怒号が響いた。

 彼の背後では、生徒たちが腕立て伏せをしながら息を荒げている。


「まず戦うのは……ピーナッツち○こ、ことルーカ! そして不気味くん、ゼファルド!」


 列のあちこちから苦笑が漏れた。

 続いて、教官の指が別の列を刺す。


「次! デブチン竜騎士アブラナと、そばかすメガネのメルナ!」


 ざわり、と訓練生たちが動揺する。


 リーザスは思わず眉をしかめた。

「普通に名前呼べねえのか、あの人」


「仕方ねぇさ」

 隣で腕を組んだクレオが肩をすくめた。

「ダミアン教官は“内定者”ってやつが大嫌いなんだ」


「内定者?」

 リーザスが首を傾げる。


「知らなかったのか? 俺たち六人、全員がどっかの騎士団から内定をもらってる。

 教官がああして目の敵にしてんのは、そのせいだ」


 クレオは指を折りながら列挙した。

「アブラナが第1騎士団、ゼファルドが第6、

 お前が第7、俺が第8、ルーカが第12、そしてメルナが第13騎士団。

 この六人が“内定組”ってわけだ」


「……なるほどな」


「入学式の時から当たりがキツかったろ? あれが証拠だよ」


 リーザスは苦笑した。たしかに初日の“老け顔いじり”を思い出す。


 その時、アブラナの前にメルナが歩み寄っていった。

 真面目な顔で礼をする。


「飛竜との契約、おめでとうございます。アブラナ殿」


「あんたは空を一人で飛んでった魔法騎士だべ?」

「メルナ・カストラと申します」


 アブラナは腰に手を当ててにかっと笑う。

「オラと戦えんのけ?」

「ええ。力比べといきましょう」


 一方、別のエリアではルーカとゼファルドが対峙していた。

「えっと、君は……?」

「ゼファルド・ライオンだ」

 薄い影のような男だった。肌は青白く、無表情。その立ち姿に不気味さすら漂う。


 その様子を眺めながら、クレオがぼそりと呟く。

「今回の入学者は百二十名。そのうち騎士団内定持ちは俺たち六人だけ。

 つまり、この格技は……」


「俺たち内定者を、見極めるための戦いってわけか」

 リーザスの言葉に、クレオがうなずく。


「そう、百人の正騎士合格者たちの前でな。

 いわば――内定者品評会ってやつだ」


          ◇


「ではまずピーナッツと不気味くんからだ!」

 ダミアンの怒鳴り声が訓練場を震わせた。

「思う存分やり合え! 骨は拾ってやる!」


 ルーカとゼファルドが中央へ出る。

 聖騎士と暗殺者、対照的な二人。


 ルーカが両手を構えながら小さく笑う。

「まいったな、僕、格技は得意じゃないんだけど……」


 その言葉が終わる前に、ゼファルドが地を蹴った。

 音がない。

 ただ、空気の流れが変わった。


 瞬間、縦拳がルーカの顔面を捉えた。

 鈍い音。

 ルーカの身体が後方へ吹っ飛ぶ。


「速ぇっ!」

 クレオが思わず声を上げる。

 リーザスも目を細めた。


(今の動き……あれは騎士の剣術じゃねぇ。あれは――)


「ゼファルドの所属は第6騎士団。

 あそこは偵察、潜入、暗殺を専門とする隠密部隊だ」

 クレオが続ける。

「生まれつきそういう一族もある。たぶん奴はそういう出身だ。

 あのおチビちゃんには勝ち目ねぇだろ」


「……いや、わからないぞ」

 リーザスは視線をルーカへ戻した。

「ルーカは聖騎士志望。しかも第十二騎士団の内定者だ」


「聖騎士……?」


「ああ。神聖術を操る若き天才集団さ」


 ルーカは鼻を押さえながら、ひょいと立ち上がる。

「イタタ……全然見えなかった」


 手のひらで鼻を押さえたまま、彼は小さく笑った。

 その掌が、淡い光を放ち始める。


「……まいったなあ」


 光が鼻筋を包み、血が引いていく。

 瞬く間に傷が塞がった。


「……無傷?」

 クレオが目を見開く。


 リーザスは腕を組み、静かに言った。

「つまり――天才的な神聖術の使い手ってことだ」


 ゼファルドは表情一つ変えない。

 だが、彼の足元の砂が音もなく沈んだ。

 殺気が膨れ上がる。


 ルーカは小さく息を吸い込み、微笑んだ。

「そっちが本気で来るなら、僕も少しだけ……本気出します」


 次の瞬間、訓練場の空気が変わった。

 白い光が爆ぜ、神聖な風が吹き抜ける。


 暗殺者の影と、聖騎士の光。

 真逆の二つの闘気が、今、正面から激突しようとしていた。


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― 新着の感想 ―
漫画からきました。 面白い!! 続きが気になります✨️
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