↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第一章 ノミの心臓のおっさん
PR
18/166

ビアンカの遺品

 朝の訓練場。

 陽光が剣身を白く照らしていた。

 俺――リーザス・モートンは、息を整え、腰を落とす。


「だあっ!」


 振り抜いた一撃で、前方の木が**三本**に裂けた。

 飛び散る木片を避ける暇もなく、次の一太刀。


「はあっ!」


 岩肌に剣が走る。

 その瞬間、目の前の岩が**方眼状**に線を刻み、

 次の呼吸で――**粉々**に崩れた。


「……まさか、自分がこんなことが出来るようになるなんて」


 思わず笑いがこみ上げる。

 肩で息をしながら、剣先を見つめた。


(ついに俺は――この国の騎士の最高奥義、“竜爪剣”をマスターした)


 信じられなかった。

 十七回も騎士試験に落ちた単なる雑兵の俺が

 騎士の奥義でも最高峰と言われる竜爪剣をマスターできたなんて・・・


 セイラム王国には、三つの騎士階級がある。

 正規の“騎士”。

 神の加護を受けた“聖騎士”。

 そして、空を駆ける最上位――“竜騎士”。


 それぞれの象徴が“奥義”だ。


「騎士の奥義は“斬岩剣”」

 岩を一刀のもとに断つ、基礎にして到達点。


「聖騎士の奥義は“飛竜剣”」

 闘気を刃と化して離れた場所に斬撃を飛ばす、常人には決して届かぬ大技。


 そして――


「竜騎士の奥義が、この……竜爪剣だ」


 俺は天を仰ぐ。

 次の瞬間、空へと無数の斬撃が走った。

 風が裂け、稲光のような軌跡を描く。


「飛竜に乗って、空中から無数の斬撃を放つ竜騎士は、戦場では一騎当千の働きをする」


 イメージの中で、竜に跨った騎士が旋回しながら斬撃を飛ばしていく。

 戦場を舞うその姿はまさに伝説。


(竜騎士の奥義を使える者など、全騎士の中でもわずか数%。

 その技を俺が習得するなんて――)


 胸が高鳴った。

 もう、迷いはない。


(試験は来月。落ちるわけがない!)


     ◇


 訓練場を堂々と歩く自分が、少しだけ誇らしかった。

 鎧の金具が陽を返し、足音が響く。


「待ってろよ、ビアンカ。

 来月、俺は竜騎士になって、お前を助けに行くから――」


 その時、ガストンが駆け込んできた。

 顔色が悪い。


「おい、リーザスさん、聞いたかよ!」

「何がだ?」

「南部戦線で……ゾラがとんでもない魔道兵器を使ったって。うちの騎士団が**全滅**したらしい!」


「……!」


 胸の奥で何かが弾けた。

 耳の奥で風の音が遠のく。


「ついに竜騎士団が投入されて、なんとか戦線を維持してるって話ですけど……」

「ビアンカは……」

「え?」


 喉が勝手に震えた。

「ビアンカはどうなったんだよ!」

「全滅だって言うから、そりゃ――」

「嘘だ!!」


 足が勝手に動いた。

 走り出していた。


(嘘だ、嘘だ、嘘だ!)


 風を切る音が、叫びに変わる。

 ビアンカの笑顔が脳裏を埋め尽くした。

 泣き顔、怒った顔、あの夜の顔。

 全部が混ざって、形を失っていく。


「もう会えないなんて……あるわけないだろ!」


 俺は天を仰いで、喉が裂けるほど叫んだ。


「ああああああああああああああああああ!」


 周囲の兵士たちが振り返るが、どうでもよかった。

 その足で上官の部屋に踏み込む。


「上官殿!」


 部屋の奥で書類をまとめていた中年の男が顔を上げた。

「おお、リーザスか。ちょうどいい、探していたんだ」

「……?」


 男は机の引き出しから封筒と小包を取り出す。

「これをお前に渡すように言われていてな」

「これは?」


「ビアンカ君からの手紙と――小包だ」


 心臓が凍りつく。


「……は?」


 男はゆっくりと目を伏せた。

「ビアンカ君の**遺品**だよ」


     ◇


 思考が吹き飛んだ。

 次の瞬間、上官の肩を掴んでいた。


「遺品ってどういうことですか! ビアンカは……ビアンカはどうなったんですか!!」

「落ち着け、リーザス!」


 上官の声が遠くで響く。


「ビアンカ君は……名誉の戦死を果たした」


 頭の中で何かが崩れた音がした。


「そんな……!」


「ビアンカは後方支援のはずだったと聞いたが?」

「そのはずだった。だが――ゾラの新型魔導兵器が恐ろしいものでな」


 上官は深く息をついた。


 机の上の地図を指でなぞる。

「無人の飛行モンスターを改造した兵器だ。

 大群で空を覆い、撃っても撃っても数が減らん」


 記録書に描かれたスケッチには、羽を持つ異形の金属獣が群れていた。

 その眼孔には紅い魔石が埋め込まれている。


「一般兵はもちろん、正騎士すら歯が立たなかった」

「……」


「だが、ビアンカ君は立派だったそうだ」

 上官の目が、少しだけ誇らしげに細まる。


「彼女、なんと斬岩剣をマスターしていてな。

 二十八機もの魔導兵器を切り倒したそうじゃ」


「……斬岩剣?」


「そうだ。そのおかげで、特例として正式に騎士に昇格した。

 前線での働きは見事だったそうだ」


 嬉しそうに語る上官の声が、遠く聞こえる。

 視界の端が霞んでいく。


(……俺が、教えたんだ)


 頭の奥で、訓練場の光景が蘇る。

 「脱力しろ、無心で斬るんだ」――あの日の声。

 初めて岩を割った瞬間、泣きながら笑っていたビアンカの顔。


 あれが、彼女を戦場へ押し出したのか。

 俺の教えが、彼女を前線に。

 という事は…


 【俺が、殺した?】


 心臓が破裂しそうな程、鼓動を重ねる。


 ノミの心臓には、無理な衝撃だ。

 ダメだ。立っていられない!


 血の気が引いていく。

 足の力が抜け、肩が落ちた。


「……そう、ですか」


 俺はその場にへたり込んでしまった。


 上官は気づかないまま話を続けている。

「いやあ、若いのに立派な娘だった。彼女のような者が、次代を支えるのだろう」


 俺は答えなかった。

 封筒と小包が、手の中で重く沈んでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ドローンって単語に笑ってしまった...
2026/07/27 10:30 テオドルス
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。