オチ狙いは計画的に
小等部一年、クラスは三十人。
初めての自己紹介タイムは、可愛らしく「好きなことをひとつ言いましょう」というルールだった。
緊張で顔を真っ赤にしながらも、みんな順番に発表していく。
(やっぱ一年生みんな初々しいなあ……って他人事みたいに見てるけど、私もめっちゃ緊張してる)
妙に気になる子たちが続々登場。
まずは、おどおど系男子。
「え、えっと……アルガス・ドロワっていいます……司祭の家の子で……本が好きです……」
(あれ?なんかすごくソワソワしてる……あ、この子、サラサ見てるな)
すかさず前の方からサラサが
「もっとシャキッとなさいませ!」と容赦ないヤジ。
(ああ、なるほど。幼馴染ポジだコレ)
続いて、また出ました典型的お嬢様。
「わたくし、シャーロット・エミューと申します。好きなものはお茶を嗜む事。尊敬しているのはサラサ様でございます。本日こうしてこの場に立てますこと、大変光栄に存じます。尚、わたくしも紅蓮魔法に適性がございますので、クロノさんを正々堂々と打ち破る所存でございます」
(え、えぇ~……私まだこの学校で何もしてないのに、もう二人目の宣戦布告!?)
お次は言わずと知れたボス、サラサ。
「バルバトス家のサラサですわ!好きなことは勝つことですの!目標はもちろん首席!私に立ち塞がるものは全員まとめて倒しますから、覚悟なさいませ!」
最後に私をガン飛ばしながら鼻でフンッときた。
(いや、マジでなんで私こんなに目の敵にされてるの??新学期デバフ発動してる??)
そして極めつけがコイツ。
「エルヴィン・フォスティエです。好きなことはお金を数えること……将来はお父さんの後を継いで大商会の主になる予定です」
(いや小1で金勘定!?詐欺師か!!頭良さそうだけど怖ぇよコイツ!)
ミーナは私の前で、元気に手を挙げる。
「私、ミーナ・ブランシュ。好きなことはかけっこ! 友達いっぱいほしいです! よろしくね!」
(やっぱ陽キャだなミーナ……オタクの私にまぶしすぎる)
――で、いよいよ私の番。
(やっぱトリだし……ここは何かオチが必要だよな。
いやでも昨日目立ったし……どうせ静かにしててもまた変な目立ち方するに決まってるし。
よし、だったらインパクトで押すしかない!)
立ち上がって、咳払い。
「えー、皆さまおはようございます!
わたくし、クロノ=ソーカ=シュナイダー=ド=ルシフェル=アルマ=ミストラル=ヴィヴィアン=レオナール=アンドロメダ――」
教室が一瞬フリーズ。
「……えー、長いので“クロノ”でお願いします!
好きなものは……いちごタルトと、お母さんの手作りハンバーグです!…………エヘッ!」
パチ……パチ……
……(無音)
ディディエ司祭がやや遠い目で、
「えー、個性的な方が増えて嬉しいですね……」
ミーナだけ「ぷっ」と吹き出しそうになり、
サラサは「意味が分かりませんわ」とバッサリ。
シャーロットは「なんて素晴らしい自己紹介でございます!」と謎の拍手。
(心の声)
(ウケるどころか空気が真空に……!この教室、宇宙空間かな……)
小さく縮こまりながら、
(もう二度とウケ狙いはしない……!)
――こうして、クロノの「伝説のスベり自己紹介」は、早くもクラスの語り草になったのだった。