弟マークとポテチと限界具現(ゲンカイ・マテリアライズ)
―― 聖堂院リュミエール(聖堂院)に通う一週間前、クロノの部屋
「はぁ……マジで魔法使えないまま初登校とか、人生詰みすぎ……」
ベッドに寝転がり、盛大なため息をつくクロノ。
隣のマークは丸々とした体型だ。
テレビに繋いだカラオケマイクを握りしめ、最新曲の熱唱が終わり、ポテチをもさもさ。
「姉ちゃん、今日あと何回“限界具現”できんの?オレ炭酸シュワシュワ飲みたい!」
「今日の“現界具現”、残りたった2回しかないんだから、ムダ使いしないでよ!」
「ケチ~。あ、あとで昨日の新しいラジコンで勝負しよーぜ!」
そう、クロノ=ソーカには誰にも言えない“チート能力”があった――
◆【能力名:現界具現】◆
「現代(前世)で知っていた道具やアイテムを、異世界に“召喚”できる」――ただし、
・使える回数は日ごとにランダム
(基本的に10回程度、極まれに50回以上のチートデイあり)
・8時間寝ないと全然回復しない
・一度にたくさん出すとガチャ失敗(ライター出したつもりがチョーク、みたいなことも)
・知識ないものは絶対出せない
・召喚した物を消す事も可能
この能力は、幼い弟・マークとの数々の“実験”で明らかになった。
(弟だけは私の“共犯者”……)
そのとき、ドアがバン!と開いて、お母さんが入ってくる。
「クロノ、また変なオモチャ出してないでしょうね?」
「な、なにも出してませんけど?」
その背後では、マークがテレビ画面に向かってカラオケ採点で大熱唱中。
(……いや絶対バレてるって!)
お父さんもにこにこ覗き込む。
「クロノ、変な“光る箱”とか“謎の笛”は、外じゃ使わないように。見つかったら街中大騒ぎだからね」
(いや、それならその光る箱にもっと感心もとうよ……!)
「……はーい」
ちなみにうちの屋敷の屋根、ソーラーパネルでパワーアップ済み。
さらにコンセントまで増設しちゃってある。
(異世界の屋敷なのに電気だけ現代スペック……シュールすぎてツッコミ待ち)
【チートバレ寸前生活、心臓に悪い……】
◇
この力には弱点もある。
・具現化できる回数は毎朝ランダムなので当然”1回”の時もある。(起きたら頭に“残り〇回”って数字が浮かぶ)
・8時間寝ないと、回復しない
・知識あやふやなモノや見たことないモノは召喚できない
・一度に複数出すとバグることも
・法国の司教に知られたらおそらく異端審問送り
全部、弟と一緒に色々試して判明したこと。
だからマークだけは秘密を知っている。
「私が出せるの、誰にも言っちゃダメだからね。バラしたら“ポテチ永久没収”だかんね!」
「ひでえよ姉ちゃん!」
(この脅しは、地味に効いてる)
◇
クロノは真剣に打ち明ける。
「ねぇマーク……私さ、来週から教会だけど、魔法使えないままで大丈夫かな……?」
マークはポテチの袋を握りしめて、妙に偉そうな顔。
「姉ちゃん、バカだな~。道具で“ごまかし”ゃいいじゃん!
たとえば――
・『火魔法』→ライターで点火
・『水魔法』→ペットボトルの水を出す
・『風魔法』→手乗り扇風機
・『土魔法』→土嚢袋
「なるほど、マーク……あんた意外と賢いわね。それ、採用で!」
こうして兄妹はこそこそ作戦会議。
(私は“なんちゃって魔法少女”で教会デビューを乗り切る覚悟を決めた)
……でも、この先に“ガチの魔法”も“本物の修羅場”も待ってるなんて、今は想像すらしてなかった――
さあ、聖堂院生活どうなる!?