鋼鉄戦艦と空飛ぶ鳥
「金を出せ、こらぁああ!」
「ぐずぐずするな、命が惜しけりゃ財宝置いてけ!」
強盗団の怒号が石畳の通りに響き渡る。
エルヴィンと、その父ちゃんが店の前で顔面蒼白。ガタガタ震えてるし。……いや、あの父ちゃん大商会のボスでしょ? もっと威厳とか見せてよ。
そんなこと思った矢先――。
もくもくもく……
突然、視界を白い煙が覆った。
「な、なんだ!? 剛岩魔法か? いや、騎士団の突入か!?」
強盗団がざわつく。
(へっへっへ。違うんだなー。地球製スモークグレネードでーす!)
さらに上空から「ぶぃぃぃん」と音が響いた。
見上げれば、黒い小型機械――マーク操縦のドローンが飛来。
そして爆音。
「たんたかたんたかたかたったらーん♪」
よりによって『鋼鉄戦艦ヤマダ』。
あの軍歌(?)が商店街に大音量で響き渡った。
「ひ、ひぃ!? な、なんだあの鳥みたいな化け物は!」
「空から歌う魔物!? 魔獣か!?」
強盗も商人も、みんな口をポカン。
(うわー、完全にカオス。ドローン一個でこのパニックっぷり。マーク、恐ろしい子……)
そしてドローンのハッチ(※もちろん即席現界品)から、閃光弾がぽとり。
――ぴかーーーーーーーん!!
「ぎゃああああっ! 目が! 目がぁぁあ!」
強盗団も野次馬も、全員光にやられて目を覆う。
直後、耳元のイヤホンから無線が飛んだ。
『今だ! 姉ちゃん!』
(我ながら……恐ろしい弟よ……)
私はすでに向かいの建物にポジション取り済み。
構えるのは――現界具現したスナイパーライフル。
「ワンショット、ワンキルっと……」
パン! パン! パン!
狙うは急所じゃなくて足。
膝や太ももを的確に撃ち抜いて、強盗団は転げ回る。
(FPSだけじゃなく、サバゲーで鍛えた私のAIMを舐めんなよ! どんなもんじゃい!)
もだえ苦しむ強盗団。
そのタイミングで、騎士団が駆けつけてきた。
「な、何事だ!? 魔法か!? 誰がやった!?」
キョロキョロ見回すけど、全員閃光弾で目をやられてるから何も見えてない。
「空飛ぶ……鳥が……歌を……」
「いや、楽器を奏でてた……?」
商人たちの証言もカオスすぎて、完全にオカルト事件扱い。
そこへ戻ってきた母。
「はぁ……なんとか無事だったのね。……あなたたち、帰らずにここにいたの?」
心配そうに私とマークを抱き寄せた。
「ごめんなさい、二人にして……」
マークは平然とパンをもぐもぐ。
「母ちゃん。さっきの袋、スラムの人が持ってっちゃったよ。買い直しだね」
「…………」
忘れてた。
買い物袋、完全に放置してた。
母と私、そろって頭を抱えるしかなかった。