フォスティエ商会、強盗襲撃事件
――栄都セレスティアの昼下がり。
石畳の通りは人混みでぎゅうぎゅう、果物や干し肉の屋台からはやたら元気な売り声。
聖道院はお休みの日、母さんたちと買い物に来ていた。
……で、私の両手と母さんの手にはパンパンの買い物袋。
横を見れば、弟マークはもう袋からパンをくすねて頬張ってるし。
(おいおい。まだ家に着いてもないのに戦利品食うとか、どこの原始人ですか……)
「……ねえ母さん、これ絶対買いすぎだって」
チーズに干し肉に果実ジュースの瓶、どう見ても二泊三日のキャンプ装備。
なのに母は優しい顔で、
「マークが食べたいって言ったからよ」って。
(……甘すぎんだろ。弟補正つよつよか)
と、そんなツッコミを心の中で入れてた矢先。
「きゃああっ!」
――通りの向こうから悲鳴。
人だかりの先をのぞきこめば、数人のごろつきが剣を振り回し、商人たちを脅していた。
ちょうど標的にされてるのは、立派な二階建ての商館。
看板にはフォスティエ商会の紋章……って、あれ、あそこって同級生のエルヴィンの店じゃん。
「金を出せ! 早くしろ!」
「逆らうな、殺されたくなけりゃな!」
やべー、ガチ強盗じゃんこれ。
しかも入口から、エルヴィンとその父ちゃんが顔面蒼白で追い立てられてるのが見える。
母が息を呑んで振り返った。
「あなたたちは先に帰ってなさい! 私は騎士団の詰所に知らせてくるわ!」
そう言い捨て、母は袋をドサリと置いて走り去っていった。
――残されたのは、私とマーク。
「ねえ姉ちゃん」
マークがパンを咀嚼しながら、悪びれもなく言った。
「なんか刃物で脅してるし危ないね。でも……姉ちゃんならどうにかできるんじゃない?」
「はぁ!? 何言ってんの」
「だって、あの煙出るやつとかでビビらせて、ドローンで揺動して、鉄の棒で“ばばばばん!”ってやるとか」
(……やば。弟、FPS脳すぎてちょっと怖いんだけど)
けど……まあ、正直、今日は限界具現の回数もまだ二十回は残ってる。
銃の概念はこの世界じゃ無いけど……私の手元には、地球仕様のチート道具を現界できる。
(……無双、できるかもしんないな)
市民は怯えて動けず、エルヴィンたちは袋小路。
ここで何もしないのは……性格的に、たぶん無理だ。
私は深く息を吸った。
「――よし、やるか」