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(5)切り裂き魔、あるいは神様

前回のあらすじ

瀬々良木蛍から由比凪の鎌鼬の仔細を聞く三咲。そこには確かな情報と微かな矛盾があるのだった。



「ええ、はい。ありがとうございます。……はい、今から。よろしくお願いします」


 自室の窓から注ぐ、初夏の日差し。制服姿のまま通話を切った僕は昼寝明けの白狐に声をかけた。


「首輪の持ち主の住所がわかった」

「ほぉーん。首輪のタグにはそんなのを記しておくんじゃな。人間とは律儀なもんじゃ」


 首輪についていた金属製のタグ。そのQRコードを読み込んだところ、思った通り飼い主に連絡がついた。陽が沈むまで時間もない。首輪を返すことも兼ねてすぐに出向く。


「葦裁も同じことを言うだろうな。首輪が見つかっても、その持ち主まで追えるとは思っていなかった」

「じゃからって、大事な物をひとところに隠すとは迂闊なことじゃ。おかげで助かっておるわけじゃが」


 シキは切れた首輪を猫のように弄び、やるせない目をした。


「……ただの首輪じゃというのに、切れておるというだけで嫌な想像をしてしまうのう」

「死体を見ているみたいか?」

「みなまで言うな馬鹿者」


 子狐はフンと鼻を鳴らすと、子犬みたいにごろんと横になった。憂鬱を寝て忘れてしまおうという意図が見え見えだ。


「ま、何事もないと思うが、せいぜい気をつけてなー」

「お前も行くんだよ」

「は……? なぁんでわしが? 話を聞くだけならお前一人でよかろうが?」

「帰りにアイスを買ってやる」

「えっ!」


 アイスの一言でシキの耳と尻尾は簡単に釣れる。ちなみにどうでもいいことだが、シキはバニラがやたらと好きな傾向にある。曰く、『チョコや抹茶はそのものを食べればよかろう?』とかなんとか。


 一瞬で目を輝かせたシキだったが、すぐにジト目に変わった。


「……お前、なーんか企んでおるな?」

「珍しく鋭いな」

「わしは常日頃鋭いじゃろうがっ。目論見を言え」

「シキの力が必要だからだ」

「はぁ? 会うのは人間じゃろ? わしになんの関係がある?」

「それは行けばわかる」

「はぁ……やれやれ、仕方のないやつじゃ。まったく、わしにベッタリなんじゃから」


 僕が世話を焼かれている風なのは気になるが、来てくれるならなんでもいい。切られた首輪を鞄に入れ、シキを連れて外に出た。


 玄関を越えると、不意の日差しに目が眩んだ。いい天気だ。夏の足音を感じる爽やかな風と日差し。その中をただ歩いているだけで心地良い。日が落ちて涼しくなることを思うと、散歩するのにうってつけの時間だ。

 ただ、これから梅雨が来ると湿気が増え、やがて真夏になって殺人的な熱気がこもることを思うと憂鬱でもあるが。


 自転車の前カゴにシキを乗せて走ることしばし。僕は住宅地にやって来ていた。『緑の中に住みよい街』をコンセプトにして由比凪ゆいなぎ市の開発で作られたらしいここは、画一された道に沿って、統一されたデザインの家が建ち並ぶ、特別変わったところもない住宅地だ。

 その中の一軒が、例の首輪の持ち主の家。表札の名前が『岩名いわな』であることを確認してインターホンを押す。


「首輪の件で連絡した不来方です」

『ああ、少々お待ちください』


 電話で聞いたのと同じ、やや若い雰囲気の女性の声がした。玄関を開けてくれた人も声から想像した通りだった。薫さんほどの歳ではなく、子供がいてもまだ小学生くらいだろうという若さの女性。薄くだがメイクを施しているのがわかった。

 僕は軽く会釈をして。


「不来方です。首輪を届けに来ました」

「あ……もしかして学生……?」

「そうです」

「な、なぁんだ。あんな落ち着いた話し方するから年上かと思って緊張してた……」


 岩名さんは胸を撫で下ろすと、声も態度も表情も一気に和らげた。


「入って。ワンちゃんも一緒に」

「おじゃまします」


 肩口から『犬じゃないわ!』という不満げな声が聞こえたのは僕だけだったろう。


 落ち着きのある玄関をくぐると、独特な匂いを真っ先に感じた。印象的だが不快感のないこの匂いは、猫の匂いだ。綺麗に保たれたフローリングに毛は一切落ちていないが、爪痕のような細い傷はしっかり刻まれている。


 リビングに通され、ソファに腰かける。ダイニングキッチンと繋がった広い一部屋。生活感こそあれどきちんと清潔感が漂っていて、基本的に整理整頓がなされている。電話をかけた僕らがすぐに家を出たことを考えると、取り繕ったのではなく普段からこうなのだろう。

 岩名さんは冷蔵庫を開けながら。


「紅茶でいい?」

「お構いなく」

「遠慮しなくていいから。ワンちゃんはお水ね」

「すみません」


 岩名さんの指先はほんの少々荒れていた。若い見た目で人と会う前の最低限の化粧も欠かさないようだが、ネイルは形が整えられている程度で、やはり最低限。指先を過剰に彩らないのは、普段から掃除洗濯、炊事に手を抜かないからだろう。


 出されるのが市販のペットボトルのお茶なのは庶民的でギャップに感じるが、それだけこの家が品のある空間だということだ。そしてそれを保っているのはこの人。

 子を育てる母親であることも、綺麗な女性であることも譲りたくない。そんな内面を映し出しているようだった。


 まぁ、薫さんが急須で緑茶を淹れてくれる霧原の家の雰囲気も、安心出来て僕は好きだ。想像していたより、個々の家庭の色というものはあるらしい。


「それで、詳しい話が聞きたいっていうのは、なに?」


 対面に腰かけた岩名さんにそう問われ、余計な感想を追いやる。

 僕は背筋を正し、本題に向き合った。


「まずは首輪を。間違いないですか?」

「……そう、これ。ウチの子の首輪。どこにあったの?」

「通学路のちょっとした山道で見つけたんです。僕の前に拾った誰かが適当に捨てたのかもしれません」

「これだけでも帰ってきてよかったぁ……届けてくれてありがとう」


 岩名さんは少し寂しげに、指先でタグの名前を撫でた。

 床の爪痕や、猫の匂い。この家には猫のいた痕跡が残っている。しかし肝心の猫本人の姿は見ていない。岩名さんの『これだけでも帰ってきてよかった』というのは……そういうことだ。


 沈んだ空気に僕は機を迷ったが、岩名さんの方が明るく話を振ってくれた。


「ごめんね? 寂しい感じにしちゃって。でも私はそんなに落ち込んでないのよ? ペットが飼い主より先に死んじゃうものだってことは、最初から覚悟してたから」


 そう言いながらも、笑顔はやはりどこか寂しそうだった。

 その笑みの裏に踏み込むのは躊躇われる。それでもこれは僕がやらねばならないことだった。


「その辺の話を詳しく聞きたいんだっけ? でも、どうしてそんなこと知りたいの?」

「由比凪の鎌鼬の噂はご存知ですか? この首輪を見つけた時、それに関係しているんじゃないかと思ったんです」

「その噂はもちろん知ってるけど……本当なの? やっぱりちょっと信じられないんだけど……」

「本当かどうか確かめるために僕はここにいます」


 真摯に岩名さんの目を見て、僕はハッキリと言った。岩名さんは驚いた様子で目を丸くして、黙って考え込むように俯いて。それから次に顔を上げた時、なにかを決意したような顔をしていた。


「そっか……今度こそ向き合うべきなのかもね」

「……今度?」

「こっちの話だから気にしないで。どこから話せばいい?」


 由比凪の鎌鼬、なんて荒唐無稽な話を大真面目にしようという僕。そんな僕とちゃんと向き合おうという意思が岩名さんの眼差しからは感じられた。

 そのことにありがたみを感じつつ、僕の話は本題に戻る。


「まずは飼い猫のモミが亡くなった原因や、時期の話から聞かせてもらえると」

「モミの話? 別に変わったところはないよ。単に寿命だったから」

「え……寿命……ですか? 怪我や傷害ではなく?」

「そう、寿命」


 あっさり頷かれてしまって拍子抜けした。てっきり葦裁が関係しているのだとばかり思っていた。目端に捉えた白狐も僕と似たような顔をしている。


「モミは寿命だった。葬儀もして、この首輪は思い出として残った」

「ならこの首輪はいつ切られたんですか?」

「さあ? 私も切られてるのは電話で聞いて初めて知ったくらいだから」

「つまり、モミは寿命で亡くなって、その形見が後になって切られたと?」

「そういうことになるかな。……悪戯にしては、ちょっと嫌な感じだけどね」


 これは葦裁から押収した物。ただの悪戯などではないはずだが……なら何故?


 今はとりあえず続きに耳を傾ける。


「モミのことは私よりも娘のあおが気にしてた。電話でも少し話したと思うけど」

「ええ。その話、言える範囲で教えていただけませんか」

「蒼は生まれた時からモミと一緒でね、モミの方もお姉ちゃんみたいに蒼の面倒を見てた。だから蒼はモミのことが大好きでね、死んだ時には……立ち直れないくらい落ち込んでた」

「いつ頃の話です?」

「年末年始の頃だったかな。蒼はまだ小三の三学期。その時にモミが死んで、あの子はしばらく学校にも行けなかった」

「……本当に仲が良かったんですね」

「それでもなんとか学校には行かせたんだけど……そこでまた問題が起きた」

「問題?」


 こくり。岩名さんは当時を悔いるような苦い表情で頷いた。僕に説明するためか、声色は大人の気丈を装いながら。


「蒼がいじめに遭ったらしいの」

「…………」

「モミが死んだことからまだ立ち直れなくて、学校でも暗かったらしくて。それで、蒼と元々仲が良かった子が中心になって、手のひらを返したように。そこまで過激じゃなかったらしいんだけど……無視とか、そういうの。それでも辛くないわけじゃないからね」

「…………」


 ありがちな残酷だ。人は群れていると自分の行いを知覚出来なくなる。向こうでじっと耳を傾けているシキからも憤りの気配を感じる。


 仲が良かったはずの子なのに何故そんなひどいことをしたのか、僕にはなんとなく想像がついた。


「その子は最初から蒼を友達として受け入れてはいなかったんじゃないでしょうか」

「え?」

「仲良くしていたのはなんとなく都合がよかったからで、傷ついて気を遣わなきゃいけないのかと思うと途端に面倒な存在になった。軽い気持ちで動物を飼って捨ててしまう心理と同じです。そうなればその後の流れは子供も大人も同じです。『よくあることだから』とでも正当化すれば自分を納得して忘れられる。彼らにとっては代わりなんていくらでもいるんですから」

「そうね……」


 ――にこにこ笑ってうんうん頷きながら、ただ話を聞き流してやり過ごしてるだけ。本心では熱中してマジになっちゃってることにドン引きされてるっていう。ね?


 瀬々良木の言っていたことが僕の頭を小さくよぎった。

 多くの人間は、他人に心が宿っていることを信じていない。


「縁が切れたのはむしろ幸運だったかもしれません。家族の死をそうまで深く悲しめる子なら、傷痕すら大事に受け入れ合える親友が出来るはずです。焦らなければ、いずれは」

「……ん。その方があの子にとっていいのかもね」


 思わず口を突いた余計な持論だったが、岩名さんの表情を少し柔らかくするくらいの意味はあったようだった。


「すみません、偉そうなことを。続きをお願いします」

「うん。そんなことがあってから蒼はもっと暗くなった。部屋から出なくなって、モミの首輪を片時も手放さなくなった。でもある日……四ヶ月くらい前かな。ずっと引きこもっていた蒼が突然家出をしたの」

「引きこもっていたのが家出? 急な話ですね」

「真冬のあの日、知らない内に家からいなくなっていたあの子を私は必死に探して、ようやく見つけた蒼は……小さな橋の近くで気を失って倒れてた」

「橋の近く? 彼女は何故そんな場所に?」

 岩名さんは残念そうにゆっくり首を振る。

「わからない。蒼もそんな橋、今まで行ったこともない、知らない場所だって言ってた」

「小さな女の子がふらふらと出ていったかと思うと、本人も知らない場所で気を失って倒れていた……妖怪や童話みたいな話ですね」

「袖をまくられた蒼の手には大きくて浅い切り傷があって、それ以来モミの首輪もどこかへ行ってしまって、今日まで見つかってなかったの」

「辛いことが立て続けに起こって引きこもっていた女の子が突然家出をし、鎌鼬の被害に遭い、肌身離さず持っていたはずの首輪もなくなっていた……」


 言葉にしてみると飛躍した文脈だ。そしてこの件は今起きている切り裂き魔事件とは繋がりが薄いようにも感じる。

 だが、もしも今の切り裂き魔事件との共通点が見つけられたなら事件は大きく進展する。葦裁の犯行が始まったのが本当は二週間前ではなく四ヶ月前であり、蒼がその最初の被害者である可能性も否定出来ない。


 これは本人の話も聞いておきたいところだ。いや、初めからそのつもりで訪れてはいるのだが……本当に大丈夫だろうか。


「本人にも話を聞きたいと電話でも伝えましたが……本当に大丈夫ですか?」

「あっ、もしかして蒼のこと心配してくれてるの? それなら多分ホントに気にしなくて大丈夫」


 過去話の苦しそうな表情とは打って変わって、途端にけろっとし出す岩名さん。


「今じゃ蒼もだいぶ元気出てきたみたいだから」

「……そうなんですか?」

「モミのことも気持ちの整理がついてきて、あとは転校も決まったからかな。沈みっぱなしだった気持ちも状況も、少しずついい方向に変わってる。まぁ……ちょっと気になることもあるんだけど」

「気になること?」

「蒼が帰ってきた後に気づいたんだけど、モミの骨壺が家からなくなってたのよ。小さい物だし、多分あの時の蒼が持って行ったんだと思うんだけど、蒼を見つけた時にはどこにもなかったし、本人もよく覚えてないっていうから。今も行方不明」

「亡骸がなくなった……?」


 妙な話だと当然僕は思ったが、岩名さんは過ぎたことだからか、まるで気にしていないようだった。


「でもそれも含めてよかったんだと思う。そのおかげでモミはもういないんだって蒼も受け入れられたみたいだから。変なことも色々起きたけどさ、そういうことも諸々含めて、神様が蒼を助けてくれたんだって、私は思ってる」

「神様が……助けた……?」

「え? なにか変なこと言った?」

「いえ……」


 呻くように返しながらシキに目線が行ったのは無意識だった。僕と目が合った海色も、きっと同じ一人を想起したに違いない。


 だが……切り裂き魔事件の犯人という字面が持つ印象と、そして絵馬掛けに溢れていた残酷な願いの数々が、僕らに首を傾げさせていた。


 どういうことだ……? この一件、切り裂き魔として見るとあまりに異様だ。時期、場所、被害者の特徴に加え、まるで人助けをしたかのような印象まで。これまで集めてきた情報とはなにもかも食い違う。

 気が逸ったせいか、僕は出されたお茶を飲み干した。


「本人から話を聞かせてください」

「ついてきて。あの子部屋にいるから」


 シキに目配せして肩の上に乗せ、僕は岩名さんの後に続いてとある部屋の前へ。閉ざされた扉にはいかにも子供部屋らしいプレートがかかっている。

 先に岩名さんが中へ。部屋の中からこもった声が聞こえる。


「蒼。お客さん」

「え、誰?」

「さっき話したでしょ? モミの首輪を届けてくれた人。その人が蒼とお話したいって」

「えー……」

「わざわざ拾って届けてくれたんだから、蒼もお礼言わないとでしょ?」

「ありがとう……」

「お母さんに言ってどうするの。とにかく、ちゃんとお礼言うの。お母さんもお家にいるから」

「……はーい」


 本人はまったく気乗りしていないようだ。いきなり訪問してきた知らない人間と会話をしろと言われているのだから当たり前だ。

 半ば強引に約束を取り付けた岩名さんが出てきて、僕を部屋の中に促した。入れ替わるようにして僕とシキは少女の部屋にお邪魔する。


「おじゃまします」

「…………」


 ああ、これは人見知りの反応。そして縄張りに踏み入られた時の警戒感だ。


 蒼はマスクをしていた。先ほどまで向かっていたらしい勉強机にはノートらしき冊子が閉じられている。ペンを栞代わりに挟んでいるようだ。キリの悪い、所謂『今いいところ』だったに違いない。


 風邪? なにか書いていたの? ……話の切り出しにするのは簡単だが、いきなりやってきた見知らぬ年上の男に、さらに個人的なことを問いかけられるのは愉快なことではないだろう。赤の他人に心を明かすのが嫌なのは当然として、年上からの質問という圧で板挟みにしかねない。


 僕のすべきことは事件の情報を得ることであって、心の押し入り強盗をすることじゃない。だから望まれない距離の詰め方をする気はない。


「ごめん、いきなり押しかけて。僕はこの首輪を拾ったから届けに来たんだ」

「…………あ、ありがとう」

「こちらこそありがとう。急に知らない人が来て驚いただろうに、ちゃんとお礼が言えて偉いな」

「ん……うん……」

「実は少し悩みがある。君のお母さんに相談したら、君なら助けてくれるかもしれないと言われてな。よければ話を聞いてくれないか?」

「……? なに?」


 蒼は僕の目に覗き込むような視線を送っていた。警戒心は多少薄れているように感じる。


 僕は人付き合いが苦手だ。僕の表情や言動は、人の空気を盛り上げたり和らげることにはまるで役に立たない。少なくとも、クラス委員長が心配してわざわざ声をかけてくる程度には下手であることは間違いない。クラスの女子に怖がられている、とも言っていたか。


 だから、電話口で岩名さんから『切り裂き魔の本当の被害者は猫ではなく小学生の娘である』と聞いた時、僕は思った。

 そんな僕が小学生の女の子を怖がらせずに話を聞き出せるのだろうか? ……いや無理だろうな、と。


 そこで連れてきた秘策の出番だ。肩の上の白狐を抱き上げ、床に下ろす。


「この子は僕が家で一緒に暮らしている狐なんだが、最近元気がない」

「「えっ?」」

「もしかしたら、僕とずっと一緒にいて飽きたのかもしれない。だからたまには僕以外の別の人、動物を大切にしてくれる人に遊んでもらえたら、気が晴れるかもしれないと思って。少しの間でいい、この子と遊んであげてくれないか?」

「ん……」


 蒼はシキに真剣な眼差しを注いでいた。首輪を握る手に力がこもっている。


 そしてシキは……僕のことを恨みがましい目で見上げていた。その目が彼女の心の声を雄弁に語る。


 ――やりおったなお前ぇ……!


 どうやら僕の思惑にようやく気がついたらしい。だがもう遅い。アイスの誘惑を警戒しつつも釣られたのはシキ本人だ。文句は受け付けない。

 なお、シキに予めこの計画を説明しなかった理由だが……その方が面白そうだったからだ。いずれにせよ、話を聞けるかどうかはシキのアドリブにかかっている。


「うん……わかった」

「ありがとう。それじゃあ」


 僕はシキのお尻を押し出し、顔は蒼の方に向けながら。


「よろしく頼むよ」



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