第34話『二人で最強の陰キャ勇者』
戦いが終わり、俺たちは心地よい疲労感と高揚感に包まれながら客間へと戻る。
ちなみに天たちは敗北後、逃げるように城から去っていた。
「いやー、二人とも強かったねぇ。うんうん、希空さんは信じてたよ」
「わたくしもですわ!」
「おわっ……!?」
そして真の勇者となった俺たちを出迎えてくれたのは、左右からの抱擁だった。
「え、えっと、柊さん、身体能力強化の魔法、かけてくれてありがとう。おかげで勝てたよ」
「うーん? なんのことかなー」
おずおずといった様子で橘さんがお礼を口にするも、希空はわざとらしくはぐらかした。
「……ところでアヤネ様、そんな素敵な瞳をされていたのですね」
その時、カナンさんが橘さんの左目を指し示しながら言う。
「あ、これは、その……」
色の違う両目を、橘さんは慌てて隠そうとするも、そのための前髪は直前の戦いで切られてしまっていた。
「あう……その、ずっと、隠してたの。変じゃない……?」
隠しきれないと悟ったのか、橘さんは瞳を伏せながら、なんとも言えない表情をする。
「何を隠す必要がありますか! この世界では、オッドアイは幸運の証なのですよ!」
「え……そう、なの?」
その時、カナンさんが満面の笑みでそう言い、さらに続ける。
「青色は広大な空と母なる海を、琥珀色は大いなる実りをそれぞれ表しているとされています。双方の瞳を持つなんて、敬われこそすれ、貶されることなどありえませんわ!」
「そーそー、綺麗な色だし、毎朝拝んでたら金運アップしそう」
カナンさんに続いて、希空が両手を合わせて拝むような仕草で言う。
「も、もう……恥ずかしいから、やめてほしい……」
そう口にしながらも、橘さんはどこか嬉しそうだった。
「ほら、前に俺が言った通りだったでしょ」
自然とそう伝えると、橘さんは朗らかな表情で頷く。
これで彼女のトラウマが少しでも癒えてくれたらいいのだけど。
「それにしても……とーや、この世界に来てだいぶ変わったよねー。やっぱり、彩音ちゃんのおかげかな?」
「ど、どうしてそうなるのさ」
橘さんと思わず見つめ合っていると、希空が茶化すように言う。
「だってほら、あの連中に二人だけで勝っちゃったしさー。ホント、二人で最強の陰キャ勇者って感じ?」
「いや、そこに陰キャって単語、必要?」
「えー、だって二人とも陰キャなんでしょ?」
「確かにそうなんだけどさ……変わる努力はしているというか」
「別に無理しなくていいと思うけどなー。ね、カナンっちもそう思うよね?」
「ええ、お二人はそのまま、最強の陰キャ勇者でいてくださいまし!」
希空に合わせるように、カナンさんがニコニコ顔でそう口にする。
この人、絶対言葉の意味わからずに使ってるよね……。
呆れ笑いを浮かべたあと、俺はソファに腰を落ちつける。
その拍子に気が抜けてしまったのか、猛烈な眠気が襲ってきた。
「それで、これからどうするの? 明日にでも、魔王封印の旅に出ちゃう?」
「え、明日……?」
「ノア様は気が急きすぎですわ。まずは数日ゆっくりしていただいて、疲れを取って……」
そんな女性陣の会話をどこか遠くに聞きながら、俺は考えを巡らせる。
――突然異世界に呼び出された時はどうなることかと思ったけど、色々あって真の勇者になることができた。
今後は橘さんだけじゃなく、聖女である希空も旅の仲間に加わるのだろうし。
これからの旅はより一層、賑やかなものになる気がした。
二人で最強の陰キャ勇者 第一章・完




