第27話『王様との謁見 後編』
ようやく信用を勝ち取った俺たちは、合体を解いて国王陛下との謁見に挑む。
「……それで、お前たちはオルティス帝国から転送されてきたわけか」
「はい。そうじぇす」
隣にカナンさんがいてくれるとはいえ、俺たちは極度に緊張していた。噛み噛みだった。
「彼の国から近々勇者召喚を行うという通達は来ていたが、もうすでに勇者候補たちをこの世界に呼び出していたとはな」
「勝手ですわ。彼らは足並みを揃えるということができないのでしょうか」
「姫よ、そう言うでない。オルティスの民はその多くが人間原理主義者。総じて、我らが獣人を下に見ておる」
国王陛下がため息まじりに言う。
言われてみれば、オルティス帝国は皇帝もその配下の魔導士たちも、皆人間だった気がする。
ここプレンティス王国には、王宮にも様々な人種がいるというのに。
「こちらはまだ、聖女様を喚べておりませんのに……はぁ」
腰に手を当てて、カナンさんがため息をつく。
国王陛下もそうだけど、ここの王族たち、すごく庶民的に感じるんだよな。そういうお国柄なのかもしれないけどさ。
「あ、あの、それじゃ、カナンさんは聖女召喚をしようとしていたの?」
「ええ。その儀式の最中に、先の魔物の群れがやってきましたの。それこそ、魔王が聖女召喚を邪魔しているとしか思えませんわ」
橘さんからの問いかけに、カナンさんが答える。遠くニラードの街で噂になるくらいだし、随分前から準備は進めていたのだろう。
「そうですわ。せっかくですし、お二人にも聖女召喚の場に立ち会っていただいたらどうでしょうか」
名案とばかりに言い、父親である国王陛下に視線を送る。
「立ち会いか……お前がいいのなら、わしとしては構わぬが」
「ありがとうございます! お二人に見られたほうが、わたくしもやる気が出ますし。勇者候補が近くにいらっしゃれば、聖女様もこの世界にやって来やすくなるはずですわ!」
よくわからない持論を展開しつつ、カナンさんは玉座へと近づいていく。
それから背もたれの裏を何やらいじると、地面が僅かに揺れたあと、床が動いて地下へ続く階段が現れた。
「聖女召喚の儀式はこの先で行われるのですわ。ささ、どうぞ」
満面の笑みのカナンさんに導かれるように、俺と橘さんは隠し階段を下っていく。
「これって……」
その先には、俺たちがかつて呼び出された時と同じような、巨大な魔法陣があった。
「ひょっとして、聖女も複数人の候補を呼び出したりするの?」
「いいえ、聖女召喚によって喚び出されるのは、基本一人です。その分、確実に勇者様とパートナー関係を結べる方が選ばれます」
たくさん呼び出したほうが可能性上がるのに……なんて一瞬考えるも、単純に複数人呼び出すための魔力量が足りないのだと気づいた。
帝国では魔導士たちが協力して召喚の儀式を行っていたのに対し、ここプレンティス王国では姫巫女のカナンさん一人の力で儀式を行うみたいだし。
「……それでは、まいります」
いつしか専用の衣装に着替えてきたカナンさんが、魔法陣の前にひざまずく。
そして胸の前で手を組んだ直後、彼女の周囲に淡い光の帯が無数に出現する。
やがてそれは足元へと収束し、複雑な魔法陣を紡ぎあげる。
その魔法陣は次第に広がりながら移動し、床に描かれていた魔法陣と重なる。その刹那、魔法陣はまったく別のものに変化した。
続いて魔法陣そのものが光を放ちはじめ、建物全体が揺れる。
思わず身をかがめた時、魔法陣が放つ光はますます大きくなり、ついには巨大な光の柱となって弾けた。




