表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/34

第26話『王様との謁見 前編』


 そんなことを考えながら歩くことしばし。やがて俺たちの前に、見事な装飾が施された扉が現れた。


 扉の両脇には男女の騎士が立っていて、その警備の厳重さから、この奥が謁見の間なのだと理解する。


「これはカナン様、国王陛下にご用ですか?」

「ええ、すごい方々をお連れしましたの。お父様は今、お手すきかしら」


 彼女はどこか嬉しそうに騎士たちに説明するも、彼らは顔を見合わせたあと、明らかに訝しげな視線を俺たちへ向けてくる。


「その……先程までは大臣様たちと魔物対策を話し合われておられましたが」

「あら、その魔物の件はもう片付きましたわ。わたくしと、このお二人の力添えで見事に撃退したのです」


 カナンさんが誇らしげに言う一方で、騎士二人は再度俺たちを見る。


「……姫様を疑うわけではございませんが、謁見の間に入る前に、お二人の所持品を(あらた)めさせていただきます。規則ですので、ご容赦ください」


 そう言うが早いか、男女の騎士がそれぞれ俺と(たちばな)さんに近寄ってきて、服の上から触れてきた。


 ……まぁ、突然やってきてすんなり王様に会えるはずがないよな。武器を持っていると疑われるのが普通だし。


「……大丈夫のようですね。失礼いたしました。それでは、どうぞ」


 やがてボディチェックが終わり、騎士たちは道を開けてくれる。

 続けて重厚な扉が開かれると、前方に巨大な玉座が見えた。


 そこへ向けて一直線に延びる赤い絨毯の左右に、騎士たちがずらりと並んでいる。


 ……今からここに入っていくのか。めちゃくちゃ緊張するんだけど。


 先頭を行くカナンさんに付き従いながら、謁見の間に足を踏み入れる。おのずと顔が下を向いていた。


「お父様! 今日は素晴らしい方をお連れし」

「姫よ、また城を抜け出しておったな!」


 ある程度玉座に近づいたところでカナンさんが言葉を発するも、それを打ち消すような怒号が響き渡った。それこそ、ぴしゃーん! という雷のSEが同時に聞こえそうだった。


 思わず顔を上げると、目の前のカナンさんは恐怖からか、耳の毛が逆立っている。


 その奥では一人の男性が玉座から立ち上がり、怒りの形相を見せていた。あの人が国王陛下で間違いないようだ。


「あれほど騎士に任せておけと言ったものを! このわんぱく姫! おてんば!」


 まるで俺たちのことなど見えていないかのように、国王陛下は姫を叱る。

 姫と同じような形のケモミミが、怒りに任せてピコピコと動いていた。


 立派な王冠に装束と、いかにもな風貌だが、そこに国王らしさは微塵もない。ただのカミナリ親父だった。


「……お父様! わたくしの話を聞いてくださいませ! 今日こそはすごい方々をお連れしたのです!」


 響き渡る怒声にめげることなく、カナンさんはそう声を張り上げた。そして俺たちを指し示し、国王陛下へと紹介する。


「……なんじゃ、こやつらは」

「ど、どうも……」


 鋭い視線で射抜かれ、俺たちは軽く頭を下げるのが精一杯だった。

 国王陛下、ご機嫌麗しゅう……なんて、気の利いた言葉が出てくるはずもない。


「このお二人は、勇者候補様ですわ!」

「またか……以前も連れてきたではないか。あの時は酒場で出会った吟遊詩人であったが」


 弾むような声でカナンさんが言うも、国王陛下は呆れた様子で玉座にどっかりと腰を下ろした。


「こ、今度は本物ですわ! わたくしを魔物から救ってくださったんですの!」


 ……もしかして、カナンさんが勇者候補を連れてくるのって、これが初めてじゃないのかな。


 まぁ、勇者オタクな上に、めちゃくちゃ純粋そうだし。勇者と名乗る者と出会えば、ホイホイと連れてきてしまうのかもしれない。


「お前たちが勇者候補だというのなら、その証拠を見せてみろ」

「もちろんですわ!」


 俺たちに向けられたはずの言葉に、カナンさんが語気を強めて反応する。

 ……なんか俺たち、親子喧嘩に巻き込まれているような気がしないでもない。


「さあ、お二人とも、目にもの見せてやってくださいまし!」


 それから期待に満ちた目を向けられ、俺と橘さんは顔を見合わせる。

 つまり合体しろ……ってことなのかな。


 俺たちは無言で頷いて、その手を握る。直後に閃光が走り、合体スキルが発動した。


「おおっ……!?」


 光の中から現れた異形な存在に、周囲の騎士たちが武器を手に俺たちを取り囲む。


 俺は敵意がないことを示すため、持っていた翡翠(ひすい)の剣を地面に置き、両手を上げる。


「騎士の皆様、お下がりください。証拠を見せろと言ったのはお父様ではありませんか」


 ふふん、と得意げに鼻を鳴らしたあと、カナンさんは続ける。


「彼らはこの技を用い、王都を我が物顔で闊歩していたワイヴァーンたちを圧倒的な御力でなぎ倒してみせたのです。民だけでなく騎士まで救うその勇ましさは、まさにこの混沌の世に現れた一筋の希望の光……」


 俺たちの隣に立った彼女は、両手を広げて熱く語る。


 なんか色々誇張されている上に、後半ポエムっぽくなっている気がしないでもないけど。


「うーむ、しかしなぁ……」


 落ち着きを取り戻した国王陛下は、顎に手を当てて何やら考え込む。

 そこへ、どこからともなく一人の男性がやってきて、国王陛下に耳打ちをして去っていった。


「……なるほど。城下街では、白い鎧をまとった勇者の噂でもちきりらしい。姫の話、今回ばかりはあながち間違いではないかもしれん」


 その直後、国王陛下は頷きながらそう口にする。その言葉を聞いたカナンさんは、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ