第26話『王様との謁見 前編』
そんなことを考えながら歩くことしばし。やがて俺たちの前に、見事な装飾が施された扉が現れた。
扉の両脇には男女の騎士が立っていて、その警備の厳重さから、この奥が謁見の間なのだと理解する。
「これはカナン様、国王陛下にご用ですか?」
「ええ、すごい方々をお連れしましたの。お父様は今、お手すきかしら」
彼女はどこか嬉しそうに騎士たちに説明するも、彼らは顔を見合わせたあと、明らかに訝しげな視線を俺たちへ向けてくる。
「その……先程までは大臣様たちと魔物対策を話し合われておられましたが」
「あら、その魔物の件はもう片付きましたわ。わたくしと、このお二人の力添えで見事に撃退したのです」
カナンさんが誇らしげに言う一方で、騎士二人は再度俺たちを見る。
「……姫様を疑うわけではございませんが、謁見の間に入る前に、お二人の所持品を検めさせていただきます。規則ですので、ご容赦ください」
そう言うが早いか、男女の騎士がそれぞれ俺と橘さんに近寄ってきて、服の上から触れてきた。
……まぁ、突然やってきてすんなり王様に会えるはずがないよな。武器を持っていると疑われるのが普通だし。
「……大丈夫のようですね。失礼いたしました。それでは、どうぞ」
やがてボディチェックが終わり、騎士たちは道を開けてくれる。
続けて重厚な扉が開かれると、前方に巨大な玉座が見えた。
そこへ向けて一直線に延びる赤い絨毯の左右に、騎士たちがずらりと並んでいる。
……今からここに入っていくのか。めちゃくちゃ緊張するんだけど。
先頭を行くカナンさんに付き従いながら、謁見の間に足を踏み入れる。おのずと顔が下を向いていた。
「お父様! 今日は素晴らしい方をお連れし」
「姫よ、また城を抜け出しておったな!」
ある程度玉座に近づいたところでカナンさんが言葉を発するも、それを打ち消すような怒号が響き渡った。それこそ、ぴしゃーん! という雷のSEが同時に聞こえそうだった。
思わず顔を上げると、目の前のカナンさんは恐怖からか、耳の毛が逆立っている。
その奥では一人の男性が玉座から立ち上がり、怒りの形相を見せていた。あの人が国王陛下で間違いないようだ。
「あれほど騎士に任せておけと言ったものを! このわんぱく姫! おてんば!」
まるで俺たちのことなど見えていないかのように、国王陛下は姫を叱る。
姫と同じような形のケモミミが、怒りに任せてピコピコと動いていた。
立派な王冠に装束と、いかにもな風貌だが、そこに国王らしさは微塵もない。ただのカミナリ親父だった。
「……お父様! わたくしの話を聞いてくださいませ! 今日こそはすごい方々をお連れしたのです!」
響き渡る怒声にめげることなく、カナンさんはそう声を張り上げた。そして俺たちを指し示し、国王陛下へと紹介する。
「……なんじゃ、こやつらは」
「ど、どうも……」
鋭い視線で射抜かれ、俺たちは軽く頭を下げるのが精一杯だった。
国王陛下、ご機嫌麗しゅう……なんて、気の利いた言葉が出てくるはずもない。
「このお二人は、勇者候補様ですわ!」
「またか……以前も連れてきたではないか。あの時は酒場で出会った吟遊詩人であったが」
弾むような声でカナンさんが言うも、国王陛下は呆れた様子で玉座にどっかりと腰を下ろした。
「こ、今度は本物ですわ! わたくしを魔物から救ってくださったんですの!」
……もしかして、カナンさんが勇者候補を連れてくるのって、これが初めてじゃないのかな。
まぁ、勇者オタクな上に、めちゃくちゃ純粋そうだし。勇者と名乗る者と出会えば、ホイホイと連れてきてしまうのかもしれない。
「お前たちが勇者候補だというのなら、その証拠を見せてみろ」
「もちろんですわ!」
俺たちに向けられたはずの言葉に、カナンさんが語気を強めて反応する。
……なんか俺たち、親子喧嘩に巻き込まれているような気がしないでもない。
「さあ、お二人とも、目にもの見せてやってくださいまし!」
それから期待に満ちた目を向けられ、俺と橘さんは顔を見合わせる。
つまり合体しろ……ってことなのかな。
俺たちは無言で頷いて、その手を握る。直後に閃光が走り、合体スキルが発動した。
「おおっ……!?」
光の中から現れた異形な存在に、周囲の騎士たちが武器を手に俺たちを取り囲む。
俺は敵意がないことを示すため、持っていた翡翠の剣を地面に置き、両手を上げる。
「騎士の皆様、お下がりください。証拠を見せろと言ったのはお父様ではありませんか」
ふふん、と得意げに鼻を鳴らしたあと、カナンさんは続ける。
「彼らはこの技を用い、王都を我が物顔で闊歩していたワイヴァーンたちを圧倒的な御力でなぎ倒してみせたのです。民だけでなく騎士まで救うその勇ましさは、まさにこの混沌の世に現れた一筋の希望の光……」
俺たちの隣に立った彼女は、両手を広げて熱く語る。
なんか色々誇張されている上に、後半ポエムっぽくなっている気がしないでもないけど。
「うーむ、しかしなぁ……」
落ち着きを取り戻した国王陛下は、顎に手を当てて何やら考え込む。
そこへ、どこからともなく一人の男性がやってきて、国王陛下に耳打ちをして去っていった。
「……なるほど。城下街では、白い鎧をまとった勇者の噂でもちきりらしい。姫の話、今回ばかりはあながち間違いではないかもしれん」
その直後、国王陛下は頷きながらそう口にする。その言葉を聞いたカナンさんは、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。




