第24話『ケモミミ少女、駆ける 後編』
群れのリーダーを倒したことで、ワイヴァーンたちは散り散りになって逃げ去っていった。
どうやら街の危機は去ったようで、俺たちは胸を撫でおろす。
……そしてすぐに、自分たちに無数の視線が注がれていることに気づいた。
「我々ですら苦戦する魔物を、いとも容易く……?」
「それにあの恰好……まるで伝説にある、勇者様じゃないかい?」
「そうだ、聖女召喚が近いのだし、勇者様が現れても不思議はないな!」
「勇者様だ! 勇者様がカナン様をお救いくださった!」
住民たちや騎士団から、次々とそんな声が巻き起こる。
妙な恥ずかしさに視線を泳がせていると、いまだに地面に座り込んだままの少女と目が合った。
「あ、あの、助けていただいて、ありがとうございます」
即座に立ち上がった彼女は、手早く身なりを整えて一礼する。再び向けられた瞳はこれ以上ないくらいに輝いていた。
……勇者オタクの少女の前でこの展開。なんだか嫌な予感がした。
「あの……勇者様、少しお話が」
「ぶ、無事で良かったよ。それじゃ」
「あ、お待ちください!」
ここは一旦逃げるべきと判断し、俺は駆け出した。
「勇者様、お待ちくださーい!」
「人違いですー!」
近くの路地へ適当に飛び込むも、ケモミミ少女はトラとクマを混ぜたような謎の動物に乗って追いかけてくる。
……さっきの飛竜もそうだけど、あの子は魔獣使いなのかな。
そんなことを考えながら必死に街の中を駆けまわるも、一向に少女を引き離すことはできなかった。
まさか、合体スキル発動中の身体能力についてくるなんて。
『た、高木くん、あの子、どこまでも追いかけてくるよ』
「すごい執念だよね……どうしよう」
『わ、わたしに聞かないで』
なんとかして巻けないかな……なんて考えた時、前方に曲がり角が見えた。
「そうだ橘さん、あの角を曲がった瞬間に合体を解除しよう。あの子は俺たちの正体を知らないし、きっと誤魔化せるよ」
『わ、わかった。合図してね』
「オッケー。せーのっ……」
全力で角を曲がった直後、俺たちは合体を解除。直前まで走っていたこともあって、俺は盛大に転んでしまった。
「あいててて……」
「……あら? 確かにこの角を曲がったと思いましたのに」
地面に思いっきり打ち付けた鼻を擦っていると、例のケモミミ少女が飛び込んできた。
「そこにいるのはトウヤ様ではないですか。こちらに真っ白い鎧をまとった男性が来ませんでしたか?」
「い、いや、特に見てないよ……」
謎の生き物の上に乗ったまま、少女が尋ねてくる。俺は服についたホコリをはたきながら、何食わぬ顔をした。
「そうですか……というか、息が上がってません? まるで走ってきたみたいですが」
「うん……ちょっとジョギングをね。朝から走るのは気持ちいいよ」
「……さっきまで、魔物がうろついていたはずですが」
「あー、そういえば、なんかいたね」
元々慣れない会話を必死に続ける。少し離れた場所に立つ橘さんに視線を送るも、彼女は我関せずといった感じだった。
「……それでは、わたくしは行きますね。まだ魔物の残党がいるかもしれませんので、お気をつけて」
「ありがとう。君も勇者探し、頑張ってね」
「はい!」
ケモミミ少女は乗っていた魔獣ごと体の向きを変えるも……すぐに首だけを俺に向けた。
「わたくし……勇者様を探しているとお伝えしましたっけ」
「あ……えっと、いや、その」
完全に墓穴を掘ったことに気づき、しどろもどろになっていると……彼女は魔獣の背から降り、俺の近くへやってくる。
「怪しいですわね……今思えば先程の勇者様、どことなくトウヤ様に似ているような」
そして、俺の顔を下からまじまじと見つめてくる。
その整った顔立ちとは裏腹に、まるで獲物を狙うような目だった。
さすが獣人族だと思いながらも、俺はその場から動けずにいた。
「……事情はよくわからないけど、高木くん、もう正直に話したら?」
……その時、どこか呆れたような橘さんの声がした。




