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第11話『新たな森の主 後編』


「グリッドさん、奴の攻撃、俺が受け止めるよ」


 俺はそう言ったあと、頭上の大猿を挑発するように盾を振り回してやる。

 そんな俺の行動に触発されたのか、奴は雄叫びを上げ、勢いをつけて飛び降りてきた。


「よし、来い!」


 その体重の乗った一撃を、俺は全力で受け止める。強い衝撃が骨にまで伝わってきたけど、なんとか耐えきった。


 ちらりと盾へのダメージ量を見てみると、90%と表示されていた。本当にギリギリだ。


「さすがだな……おらっ!」


 大猿の動きが一瞬止まった隙を見逃さず、グリッドさんが背後からその両足に一撃を加える。

 それは決定打とはならなかったものの、奴の跳躍力を封じるには十分だった。


 樹上へ逃げることが叶わなくなり、痛みと怒りで我を忘れた大猿は攻撃目標をグリッドさんへと切り替える。

 その結果、奴は俺たちに背を向けた。


「……今だ!」


 その瞬間、俺は左手に光弾をチャージしていく。


「グリッドさん、避けて!」


 そう叫んだ直後、俺は光弾を解き放つ。

 閃光が走ったかと思うと、次の瞬間には胴体に大穴を開けた大猿が地面に倒れ込むところだった。


「……うわ」


 チャージ弾の予想外の威力に、俺は背筋が寒くなる。

 ……まさか今の一撃、グリッドさんも巻き込んだりしてないよな?


 そんな不安に駆られながら周囲を見渡すと、近くの茂みがガサガサと音を立てた。

 そこから姿を現したのは、顔面蒼白のグリッドさん本人だった。俺は心底安堵する。


「なんつー威力だ。もう一瞬逃げるのが遅れていたら、俺の腹にも大穴が空くところだったぞ」

「す、すみません。力加減がわからなくて」

「まぁ……倒せたようだし、いいけどよ」


 動かなくなった大猿を見ながら、グリッドさんは大きく息を吐いた。

 それを確認して、俺たちも合体を解除する。


「いやー、お二人とも、強いね! ボク、感動しちゃったよ!」


 その時、隠れていたヨルゲンさんが草藪から飛び出してきて、俺の手を握る。

 そのあまりの変わりように困惑していると、彼のポケットから一枚の紙が落ちた。


「……銀影(ぎんえい)のグラウ。討伐報酬:4万イング。受注資格:Aランク以上の複数人パーティー推奨」


 その紙を拾った(たちばな)さんが中身を読み上げる。どうやら討伐依頼書のようだった。


「グラウは三つ首のダンテより実力で劣るし、冒険者ギルドに討伐依頼が出ていたのは知っていたが……ヨルゲン、お前はDランクのくせに、この依頼を受けていたのか?」


「い、いやその、こっそりとね……うまいこと罠にはめようと思ったんだけど……」


 問い詰められた彼は視線を泳がせるも、直後にグリッドさんの鉄拳が振り下ろされた。


「いったぁい! 殴らなくてもいいじゃないか!」

「そんなんだから、いつまで経ってもDランクなんだぞ。自分の実力をわきまえろ」


「でもほら、新人冒険者の二人にだって、グラウは倒せたじゃないか」


 ヨルゲンさんは俺たちを見ながら口を尖らせる。


「この二人は特別だ。トウヤたちがいなかったら、俺もお前も命はなかった。というわけで、この依頼の報酬は二人に譲る。いいな?」


 橘さんから受け取った依頼書をヨルゲンさんに見せながら、グリッドさんはぴしゃりと言い放つ。


「そ、そんなぁ……見つけるのに貢献したってことで、ボクにも1割くらい……」

「自分から奴の縄張りに入っておいて、何が1割だ」

「ぎゃあ!」


 ごつん、と再び鉄拳が振り下ろされた。

 それによって諦めがついたのか、ヨルゲンさんはすごすごと引き下がっていった。


「とりあえず、銀影のグラウ討伐の証として、尻尾を持ち帰るぞ」


 グリッドさんはそう言うと、すぐにその真っ白い尻尾を切り落とす。

 予想外の強敵との遭遇で採取依頼どころではなくなってしまったし、俺たちは一旦街へ戻ることにした。



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